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アンドロイド転生1118

2126年6月16日 
富士山8合目 ロッジにて
(撮影2日目)

翌朝。登山客は頂上を目指す者と下山する者でロッジから去って行った。タケル達は手を振って見送った。そしてモネ達は撮影だ。モネと相手役の山岳救助隊が喧嘩をするシーン。まだ愛は芽生えない。

『素人が1人で登頂したい?失恋でもしたか』
『そうよ!癒しに来ちゃ悪い?』
『ふん。山を舐めているな』
『はぁ?どこが?馬鹿にしないで!』

そんな風に相容れない2人を演じている。ロッジ内はたった2人に見えて、周りには多くのスタッフ達が一丸となり、より良い物を作ろうと集中している。監督の瞳も真剣だった。

予定のシーンを撮り終えて、休憩になるとアオイは甲斐甲斐しくモネの世話を焼く。お茶を出して髪やメイクを直す。何たって付き人なのだ。彼女を万全に整えるのが仕事だ。

やがて昼食の時間になった。
「皆さん。召し上がって下さい!」
トレイには100個のおにぎりが並べられていた。具材も豊富だ。味噌汁もある。

アオイがタケルに手伝いを申し出た。
「サンキューな」
「なんでも言ってね」
アオイは味噌汁を椀に入れて率先して配った。

和やかな団欒のひと時はすぐ終わる。撮影期間は1週間。今後の予定もぎっしりと詰まっていた。2時近くになると頂上から登山客が戻って来た。そして新たに登って来る者もいる。

オーナーのケントが出迎えた。
「問題ないですね?体調は悪くないですね?」
客達は笑顔で元気だ。ケントはホッとする。登山は身体が万全である事が重要だ。

タケル達は食事作りが始まり、倉庫に行って沢山の食材を運んできた。アオイは嬉しくなった。まるでホームに戻ったかのようだ。そう。あの頃も毎日大量に作ったものだ。

「タケル。手伝う」
「うん。頼む」
「懐かしいね。ホームみたい」
「あー。そうだなぁ」

アオイはしみじみと思い出す。あの時もこんな風にキッチンに立つとたまにタケルと一緒になる事があった。視線を感じて振り返るとエリカが睨んでいた。あの嫉妬心には辟易したものだ。

だからなるべくタケルとは関わらなかった。エリカの恋心は理解していたし、邪魔をするつもりはなかった。反対に成就すれば良いと思っていたのにタケルはその気がなかったようだ。

ジャガイモを剥きながらアオイは顔を顰めた。
「エリカが怖かったよ…」
「マシンの一途って凄いよな」
「なんで…応えてあげなかったの…?」

言った後でハッとなる。そんなプライベートな事を尋ねてはならない。だがタケルは笑った。
「エリカは…なんか子供っぽくてさ。妹みたいな感覚だったんだよな」

ああ…分かる。アオイはそう答えた。シュウもそうだった。ずっと妹という目でしか見てくれなかった。それが焦ったくて切なかった。最終的に女性とみなしてくれたのが嬉しかった。

タケルもいつかエリカに対してそう思うようになったのかな。なのにエリカはもうこの世にいない。キリが制裁を下したと聞いた。アオイは泣いた。やはり家族だったのだから。

※アオイはエリカの復活を知りません

アオイはジャガイモを剥く手を止めた。そう言えば…タケルは…なんで村を出たのかな?エリカに暴力を働いたのは聞いて知ってるけれど…そもそも何でそんな事をしたんだろう?

アオイはタケルが人間の女性に恋をした事も、エリカに仲を壊された事も知らないのだ。
「あのさ?何で…村を出たの?」
タケルの頬が強張った。


※シュウの告白のシーンです


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