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アンドロイド転生1125

2126年6月17日 正午
富士山8合目 ロッジにて
(撮影3日目)

一同はロッジに戻り昼食を始めた。だが監督達は食事もしないでカメラの画像を見つめている。
「いやぁ!良いシーンが撮れた!」
「本当ですねぇ!」

ヒロインは遭難した上に滑落どころか危険な目に遭った。ドラマチックな展開に彼らはホクホク顔だ。タケルやアオイ達が救助した姿は主人公や山岳救助隊に変えるつもりらしい。

アオイは監督の事を許せないが、それも映画人としての本能なのかと諦めた。
「私は監督に思いっきりデコピンしたいです」
「カー。いいねぇ〜!」

「体調はどうですか」
モネの熱は下がらない。本人は平気だと言うが少し目がトロンとしている。疲れたのだろう。午後からの撮影などキャンセルして休ませたい。

するとモネはいきなり誰かを探すように周囲を見回した。そして何かを認めて勢い良く立ち上がる。視線の先はタケルだ。モネは彼に向かって走り出した。アオイも慌てて付いて行く。

モネはタケルに駆け寄ると上目遣いになった。
「あの…もしかして…あの時の…?」
「え?」
「私が…遭難した時の…」

8年前の16歳の春。モネはルイに会う為にホームにやって来たが山中で遭難してしまった。タケルはモネを救助した。低体温症で意識のないモネを背負って崖を登ったのだ。

「オタクは…気絶してたみたいだけど…」
「うん。でも少しは意識があったのかなぁ…?思い出したの。さっき…あなたにおんぶされて…。背中とか…雰囲気とか…匂いとか…」

アンドロイドに体臭などないのだが髪や服の香りなのかもしれない。匂いは潜在意識に残るものだ。または何かを感じ取る人間の本能なのか。
「そうか。うん。そうだ。俺も助けた1人だ」

「ああ…。やっぱり…。ごめんなさい。全然忘れてました。でも突然…あ!って思って…」
「そっか」
「それから…誰かが温めてくれた…あなた…?」

低体温症のモネは危険な状態だった。彼女を裸にして保温したのはアンドロイドのエイトだ。タケルは躊躇ったのだ。恥ずかしげな顔になる。
「いや…それはちょっと…出来なくて…」

モネは笑った。
「恥ずかしくて?え?まるで人間みたいね。サヤカ(アオイ)みたい」
「えっ!」

アオイは微笑んだ。
「うん。モネ様に打ち明けたの。元人間だって。あなたの事も言ってもいい?」
「あ…うん」

「モネ様。タケルも元人間です」
「そうなの?ええ!凄い!」
「はい。世の中には人智を超えた事があるんですね。ここで再会が出来たのも奇跡です」

モネはタケルに向かって丁寧に頭を下げた。
「助けてくれて有難う御座いました。それも2回も。命の恩人とまた会えて…とても嬉しいです。本当に感謝しています」

・・・

その後は室内の撮影だった。目元が眠たげとしていたモネだがカメラが回ると豹変した。体調不良など微塵も見せずにヒロインを演じている。だがアオイは手放しで喜べない。

マネージャーアンドロイドのコジマも撮影を見つめていた。コジマには自我の芽生えはない。モネの体温の高さについて懸念してはいるが不安感はない。それがアオイとの差だ。

タケルは仕事を終えると撮影を遠くで眺め始めた。ジッとモネを見つめる。元気に演じているが背負った時のモネの体温は37.6℃だった。タケルはアオイの元へ向かった。



※タケルがモネを救ったシーンです


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