アンドロイド転生1139
2126年7月2日 昼過ぎ
高速道路 病院に向かう車中にて
シオンは恋人のトウマと通話を切った。喜んでいる状況ではないが笑みが溢れる。2ヶ月振りの再会なのだ。マネージャーアンドロイドのエルも微笑む。主人の幸せが自分の存在意義だ。
「トウマ様とご結婚なさいますか」
「いつか…そうするつもりだけど」
「お子様が欲しくなったら、私が協力致します」
「ん?なんの協力?」
「子供を産みます」
「えっ」
「昨年とうとう認可が降りましたね。アンドロイドが人間を産む時代になったのです」
シオンは宙空を見つめた。
「ああ…そうだったな…」
「成功率は91%までになったそうです」
「そうか…」
僕とトウマの赤ん坊か…と呟く。するとエルはシュミレーションサイトを立ち上げた。2人の顔をアップロードする。直ぐに幼児のホログラムが宙に浮かび上がった。
「お2人のお子様は可愛らしいですね」
エルの粋な行動に笑って頷いた。だがまだまだ先の話しだ。まずは両親に2人の仲を認めて貰わなくては。
暫くしてエルはまた話しかけてきた。
「モデルは辞めるおつもりですか」
「そうだなぁ…。まぁ…もう7年もやったしな。病院経営だけでも良いって思ってる」
「では…私の行く末はどうなりますか」
「じゃあ…秘書になってもらおうかな。エルは優秀だし。頼りにしてる。ずっといてくれよ」
「そうなるとお子様の事は現実味を帯びてきますね」
シオンはエルの真面目な顔に驚きつつ笑った。
「マジで産むつもりなのか?」
「はい。本気です」
「分かった。その時はヨロシク」
するとケイからコールが来る。浮かれている場合ではないと顔が引き締まった。
「あと1時間位で着くんだ。サキはどう?」
『退屈〜って笑ってるよ』
シオンはホッとした。白血病はいつ何時急変するか分からない病気だとトウマから聞いている。するとケイが真剣な表情で頭を下げた。
『シオン…この度はすまなかった…』
たとえシオンが家族を救うと決意していても彼の順風な人生に影を落としたとケイは考えるだろう。シオンは微笑んだ。
「謝るな。僕の判断だ」
やがてシオンは病院に到着し、直ぐに健康診断を行った。結果はすこぶる良好でドナーの資格を有する事が判明した。伯父(サキの父親)が抱きついてきた時は目を白黒させたが気持ちは理解が出来た。
これで早急に造血幹細胞の移植が出来るのだ。流れとしてはその前処置としてドナーは自身の血液を採取する。移植後に輸血する為である。更に感染症予防で4日間の入院だ。
同時にサキは大量の抗癌剤と全身放射線照射を行う。それで免疫反応と癌化を抑えたところでシオンの骨髄を移植する。時間勝負だ。やはりパリコレの後では間に合わなかった。
医師アンドロイドが真剣な表情になる。
「では早速、サキ様には抗癌剤の投与を始めます。副作用があります。過去に比べるとかなりか軽減されましたがやはり辛いでしょう」
全員が難しい顔になったがこれで漸く事が動き出したのだ。シオンはクリーン病棟に行った。
「姉ちゃん。助けるぞ。絶対だ」
『シオン…ご…ごめんね…ごめんね』
立体画像のサキは肩を震わせながらポロポロと涙を溢した。シオンは笑った。
「なんで謝るんだ。有難うって言ってくれよ」
『う…うん…ありが…と…う』
※アンドロイドが人工子宮で胎児を育てるエピソードの抜粋です。この時点では治験段階でした。