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アンドロイド転生1093

2120年12月10日 夕方
新宿区 平家カフェ

「いらっしゃいませ」
アリスは微笑んだ。サキとケイ。そして赤ん坊のノアがやって来たのだ。リツの母親のマユミはカウンターから飛び出して走って出迎えた。

「待ってたわ!もぉ〜!待ちかねたわよ!」
「うん。久し振り。伯母さん」
「抱いても良いかしら」
「勿論!」

マユミは瞳をキラキラとさせてノア抱き上げた。子供好きの彼女は嬉しくて堪らないのだ。ノアをじっくりと眺めてケイを見上げた。
「そっくりじゃないの!」

ウェーブの掛かった黒髪。瞳を縁取るびっしりとした睫毛。黒目がちの瞳。サキは遺伝子バンクを利用した。ケイと似たドナーを選んだのだ。だがまるで生き写しだった。

サキは苦笑した。
「3人で散歩してるとね?ケイに向かってパパに似てるねって。で、私をナニーだと思うの」
「そうねぇ。勘違いしちゃうかも…!」

アリスはサキ達を席に案内した。マユミはノアを抱いてそのまま彼らと共に椅子に座った。どうやら仕事はそっちのけで居座るつもりらしい。身体を揺らしてノアを見つめていた。

サキのオーダーはビーフシチューセット。アリスは頷いて席を離れた。マユミは可愛いだとか嬉しいを連発している。姪の子供なのだ。まるで孫のように思っているのだろう。

アリスの胸がチクリと痛む。私もマユミに孫を抱かせてあげたい。だが自分はアンドロイドだ。ならば遺伝子ベビーで人工子宮と言う手があるがリツは首を縦に振ってくれない。

見も知らぬ他人の子供など欲しくないと言うのだ。それは理解が出来る。私だって本当は人間になりたい。そして彼と自分の血を分けた子供が欲しい。だが叶わぬ夢なのだ。

2人の仲は一時期険悪な状態になった。アリスはただただ悲しくて堪らなかった。だがマユミや友人のソウタから「時を待て」と諭された。それが今はアリスの心の支えなのだ。

・・・

リツが前菜のサラダを持ってサキのテーブルに運んだ。ノアを抱く母親を見て苦笑する。
「いつまでいるんだよ。父さんが呼んでるぞ」
マユミは名残惜しそうにキッチンに向かった。

リツは母親を見届けるとサキを見つめた。
「子供が好きでさぁ。煩かったろ?どう?そっちは?ナニーなしで子育てしてるんだろ?凄いじゃんか。タウンじゃナニーが当然だ」

サキは笑って舌を出す。
「いや…凄くない。だって…ケイは子育てマニュアルをインストールしてるもん。プロだもん。私なんて任せっぱなし」

ケイはノアの涎を拭いていた。汗を確認したり甲斐甲斐しく世話をしている。リツは笑った。
「そっか。ケイは24時間出来るしな」
「そうそう。楽ちんだよ」

リツはしゃがみ込むとノアの頬をそっと突いた。
「たこ焼きだ」
「ホント!ぷくぷくなの。赤ちゃんがこんなにも可愛いと思わなかった!」

サキの瞳がキラキラとする。幸せと言うのはこんな顔なのだろうなとリツは思った。国民になる前にやって来た時とは段違いの自信に溢れた顔付きだった。サキは全てに恵まれたのだ。

ノアがリツを見つめてキャッキャと笑う。
「リツの事が好きみたい」
「俺はさぁ。なんか子供に好かれるんだよ」
「いい事よ。それは」

リツはごゆっくりと言って去って行った。サキはサラダを食べ始めた。ケイは赤ん坊の表情を読んで抱き上げるとミルクを与える。サキは笑った。そう。任せっぱなし。


※サキが国民手続きに訪れたシーンです

※マユミに諭されるシーンです

※ソウタに諭されるシーンです


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