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アンドロイド転生1040

2120年8月5日
目黒区 サキとケイのマンション

『ば、ば、ば…馬鹿者!!』
立体画像の父親はまるで目の前にいるかのようにリアルだ。顔を真っ赤にしてコメカミに青筋を立てている。身体がワナワナと震えていた。

とうとうこの日が来たのだ。打ち明ける日が。今日まで度々していた通話も胸から上しか見せていなかった。だがいよいよ出産の時期が迫ってきた。新しい命の誕生だ。告げなければならない。

サキは父親は怒るだろうなと思っていたが、全くその通りの反応だった。素直に頭を下げた。
「ごめんなさい。でも私は今すっごく幸せだよ。全然後悔なんてしていない」

『俺はお前に幸せになって欲しいんだ!父親がいない子供を産むなんて望んでいない!』
「父親ならケイがいるよ」
『マシンじゃないか!馬鹿者!』

サキは溜息をついた。何度言ってもお父さんは分かってくれないんだから…と思う。
「マシンだとか人間だとか関係なくない?本人が良ければそれでイイんじゃないの?」

『いいや!俺は許さんぞ!』
「許すも何も来月には産まれるんだよ」
『勝手にしろ!』
「お母さんは来てくれるかなぁ…」

父親のヒロシの脇から母親が顔を出した。
『行く!お母さんは行く!サキに会いたいの』
ヒロシは妻を押し除けた。
『行くな!馬鹿者!』

サキは呆れた。
「バカバカってお父さんは煩いよ!」
『何だと?』
「もう切る!お母さん!後で話そう」

サキは一方的に通話を切った。父親なんてどうでも良かった。出産の時に母親がいればそれでいい。サキの側ではケイが困った顔をしていた。ヒロシが憤怒する事は分かっていたのだ。

「お父さんは思った通りの反応だったな」
「いいよ。放っておけば。全く煩いったらないよ。私がどうしようが勝手でしょ?」
ケイは頷いたものの不安そうだ。

サキは明るい話題に持っていく。
「ねぇ?名前さぁ…やっぱりサキとケイだから2文字がいいかなぁ。いっぱい考えちゃって決められないね。何個だっけ?」

「58個。候補は沢山あるからなぁ…。そうそう。どうしても決められない時は紙に書いて放り投げてひとつ掴んだ物にしたなんてのもあるぞ」
「ああ。それもアリかもね」

サキは笑うとソファに寄り掛かって腹を撫でた。辛かったつわりを経験して薬に頼ってから嘘のように食欲が芽生え、心が晴れ晴れとした。やっとお腹に我が子がいる幸せを味わった。

元気になると子供部屋を作り服やオムツや食器なども用意した。準備万端である。ナニーは雇わない。2人で育てるのだ。ケイは子育てマニュアルをインストールした。これなら安心だ。

スマートリングがコールした。母親だった。
『お父さん怒って寝ちゃったわよ』
「寝れる位なら大した事ないね。ハハハ」
『そうよ。本当は嬉しいんだから』

サキは上目遣いになった。
「お母さんも…嬉しい…?」
母親は満面の笑顔になった。
『当たり前じゃない。孫なんだから』

サキは嬉しくて涙が出てきそうになった。腹に触れる。この子は喜ばれて産まれるのだ。
「勝手してごめんね」
『いいのよ。サキの人生よ』

サキの喜びが増す。そう。私の人生。好きに生きていいのだ。好きな人と暮らして子供を産む。母になる。こんな幸せがあるだろうか。
「有難う…お母さん」

『予定日はいつ?』
「来月の5日前後」
『分かった。その前に行くね』
サキは頷く。こんな力強い味方はいない。


※つわりで苦しんだシーンです


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