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アンドロイド転生1092

2120年12月10日
目黒区 サキとケイのマンション

赤ん坊の泣き声がした。オムツかミルクかどこか身体に不調でもあるのか。ケイは株式のチャートのホログラムを消すと直ぐに娘の元へ向かった。ノアは指を舐めている。空腹のようだ。

ケイはノアを抱き上げたが赤子の顔は文字通り、みるみるうちに赤くなってきた。不満の表れだ。そのうち大きく泣き出す筈だ。ケイは身体を揺すりながら片手で器用にミルクを作り始めた。

ノアは生後3ヶ月。ミルクを理解して目で追った。
「すぐだから。待っててくれな」
ケイは目を細めた。愛おしくて堪らない。子育てプログラムには愛情も含まれる。

ケイはアンドロイドだ。ノアの誕生に伴い通常はナニーにインストールされる子育てマニュアルを自分にも取り込んだ。子供に対する絶対的な愛情プログラムも加味されている。

だがケイはマニュアルだけの愛情ではないと信じていた。心から愛おしく思っている。我が子のように。ノアにはケイの面影があった。彼とよく似たドナーの容姿を採用したからだ。

ノアと一緒に散歩をしているとパパとそっくりねと言われる事がある。老婦人などケイを人間だと勘違いをするのだ。それが嬉しかった。アンドロイドでありながら父親なのだ。

ミルクが出来上がり、ケイはノアに哺乳瓶を咥えさせる。軽く揺すりながら見つめた。慈愛の眼差しだ。ノアは一心不乱になって口を動かしていた。ぽっちゃりとした頬が愛らしい。

サキの作業部屋の扉がスライドした。背伸びしながら首を回している。コキコキと音が鳴った。
「あ〜。疲れた」
「お疲れさん」

サキはノアの頬を突いた。
「おいちぃでちゅか?イイ子でちゅねぇ」
ノアは母親を認識して目が笑う。サキの瞳も慈しみに溢れている。母と子の絆は強い。

ミルクを終えるとサキはオムツを替えた。手慣れたものだ。宣言通り子育てをしていた。母親のアカネがいる間は甘えっぱなしだったがアカネが村に帰ると俄然母性が目覚めた。

愛情いっぱいに育て始めたのだ。だがやはり人間だ。24時間対応が出来るケイには敵わない。それでも母として出来る限りの事はする。と言うよりも何でもしたくなるのだ。

しかしシーグラスアクセサリーの仕事も疎かにするわけにはいかない。客が待っているのだ。作業のペースは落ちたもののいつも完璧に仕上げた。それが責任というものだ。

サキのアクセサリーの人気は衰えなかった。美的センスが良いのだ。それが大衆に受け入れられた。ベビーピアスから始まったのだが今はネックレスやチャーム。指輪も手がける。

オムツが綺麗になるとノアは嬉しくなってキャッキャと笑った。満腹だし室内の温度湿度も快適だ。何の問題もないと言うのは本能で分かる。しかも目の前には優しい両親がいるのだ。

サキは目を細めた。
「益々ケイに似てくるね。大きな目も。びっしりな睫毛も。赤ちゃんって可愛いねぇ…」
「サキにも似てるよ。口元なんかそっくりだ」

サキはケイを見つめて微笑んだ。私達は家族だ。3人でそっくりの家族なんだ。本当に子供を産んで良かった。幸せってこう言うんだろうなと思う。平和で平凡。それが最高。

「パパ。散歩に行こうか」
サキは時々ケイをそう呼んだ。ケイはその度に嬉しそうな顔をする。
「じゃあ…平家カフェでもどうだい?」

平家カフェの親戚はサキが出産した時に病院に駆け付けてくれた。その後はまだ1度も会っていなかった。よし。大きくなったノアをお披露目しよう。ケイにそっくりだと言って驚くだろう。


※ノアの誕生のエピソードです


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