アンドロイド転生1069
2120年9月24日 朝
上野 つばさ幼稚園
ミシマユウサクの邸宅
自分はユキと別れる。サクヤはその覚悟で12歳になる前からユキの手を煩わせる事なく出来る限り努力した。けれど実際のところずっと無理をしていた。寂しくてならなかったのだ。
だがユキはナニーを卒業して保母になった。両親の温情だった。サクヤは通学前にユキと共に隣りの園舎に寄った。園舎では職員アンドロイド達が朝の掃除をしていた。
「今日からユキ先生なんだって!」
チアキを始め他の職員達も微笑んでいる。サクヤはその笑みを見て気が付いた。
「ま、まさか…皆んな…知ってたの?」
「そうさ。知らないのはサクヤだけって事だ」
背後から父親のユウサクの声がした。
「何だよぉ…もう!大人はズルイよ!」
「お前はそんな狡賢い大人にならなければいい」
チアキがエプロンを持って来た。
「ユキ先生。ナニー用は終わり。保母用です」
広げると可愛らしい熊のプリントだ。
「有難う御座います」
ユキはエプロンを着けると満足そうに微笑んでサクヤを見つめた。慈愛の眼差しだった。
「あなた様をお育て出来てとても幸せでした。これからは園児達の良い先生になります」
サクヤは黙ってユキを見上げた。するとユキに抱きついて小さな声で囁いた。
「有難う。ユキ…有難う」
ユキもサクヤを抱き締めた。
このようにナニーが引き続き派遣先に残る事は稀だ。所有者のラボに戻され、その行末はラボの判断だ。廃棄処分されるか記憶を抹消されて臨時雇いとして使われるのだ。
(チアキの視点)
サクヤと抱き合うユキ。本当に良かった。ユキが残るとユウサク園長から知らされた時、私は飛び上がる程に嬉しかった。たとえユキに自我の芽生えはなくてもこれからもずっと家族なのだ。
自分も18年前に廃棄の運命だった。元主人のノムラ園長が自ら命を絶ち、相続人のいない幼稚園は閉鎖されたのだ。私は園長との別れの悲しみから自意識が芽生えた。死にたくないと強く思った。
その反面自分の運命も受け入れていたのだ。だがラボに戻って来てノムラ園長の遺言を思い出した。
『世界の終わりを見て欲しい』
そうだ。見たい。だから逃げ出したのだ。
私は茨城県の山中を彷徨った。そしてイヴとキリ達に助けられた。ホームが新しい家族になった。自由を知った。世界が彩られ楽しくなった。いや。確かに悲しい事は沢山あった。
妻を失い心を病んでしまったノムラ園長。何故救えなかったのかと悔やまれたし、同じアンドロイド仲間のトワ、エリカ、ミオ、ルーク、スミレが死んだ。皆んなもうどこにもいない。
※チアキはエリカの転生を知りません
でも私は生きている。宇宙から見れば人間とアンドロイドの差など僅かだ。同じかもしれない。だから些細なことなど気にしない。私もサクヤもウサギだって同じだ。
「さぁ!今日も元気に仕事をするぞ」
ユウサク園長の大きな声に私はハッとなる。
「じゃあ。僕も行くね。行って来ま〜す!」
全員でサクヤを見送った。
私は去って行く小さな後ろ姿を見つめた。可愛いサクヤ。ウサギ係の大先輩。素直で明るくて優しい。そしてとても利発だ。これからも彼の成長を見守っていこう。そして何事も応援しよう。
※チアキが以前暮らした幼稚園での抜粋です