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アンドロイド転生1110

2126年4月20日
東京大学 部室にて

タナカマリコに誘われて、ヤマトはスキューバダイビングのサークルに入部した。今日は初めての部会だ。23歳のヤマトは誰よりも年上で17歳のマリコは1番の年下だ。

部員は全部で25人。自己紹介をし合うと最後に部長が立ち上がった。これからプールに行くと言う。大学の浅い水深ではなくプロ用の施設をたまに借りるらしい。

・・・

施設のプールはなんと水深300m。ダイバーやオリンピック選手が練習の為に潜水するのだ。一般人は最高で40mまでしか潜れない。それ以上は水圧で意識を失うのだ。

ヤマトは初めて見るプールに感動して胸に手を当ててジーッと佇んだ。そんな彼を見て部員達は好意的に笑った。ヤマトは頭を振った。
「これを人間が造ったなんて凄いです」

部長も笑った。
「だったら自然が作った海を見たら泣くぞ。青い。広い。潮の香り。波の音。生命の泉だ」
山奥育ちのヤマトは海を知らないのだ。

水深300mは底が見えない程暗かった。ヤマトは川泳ぎは得意だが緊張しつつ潜っていった。だが直ぐに水の中の浮遊感を楽しむようになった。足に装着したフィンはイルカの尾のように大きくて力強い。

マリコの細い身体は均整が取れており美しかった。まさしく二本足の人魚のようだ。先輩達のイルカの泳ぎに似たドルフィンキックも素晴らしかった。ヤマトは大いに水中を泳ぎ回った。

そうやって新人達はプールで泳ぎ、座学で学び、最後は海洋実習で初級資格を取得するのだ。半月後。彼はダイバーになった(潜水士という国家資格ではない。民間認定資格である)。


その後 6月1日 
静岡県 伊豆にて

資格を取得して今日は海洋ダイビングにやって来た。車から伊豆の地に降り立ったヤマトは感動する。自然に顔が綻んだ。
「ホントに海ってイイなぁ…」

マリコが満足そうに頷いた。
「海が…お帰りって言ってるぞ」
「そうだな。命は海からやって来たんだ」
「そうだ。母だと言う事だ」

ヤマトはマリコを見下ろした。髪が潮風に吹かれていた。横顔が凛としている。綺麗だなと思う。ルイがマリコはおっさんだと言ってたが違う。まるで武士のようだ。

30分後。全員が装備を揃えて船に乗り込んだ。ウエットスーツの上にライフジャケットを羽織りゴーグルとレギュレター。そしてフィンと重いボンベを持っていた。

ヤマトの胸は期待で高鳴る。資格を取得して初めての海洋ダイビングなのだ。船は岸壁から沖に出て30分程掛けてポイントに到着した。フィンを装着し、海に入って行った。

40分後。違う世界を堪能して船に戻って来た一向。ヤマトは感激していた。
「先輩!俺…めちゃくちゃ嬉しいです!魚は食うもんだと思ってたけど見るのも楽しいすっね!」

彼の言葉に全員が笑った。
「ヤマちゃんは明るいなぁ」
「そして威張らないのがイイ」
「そうそう。可愛い」

ヤマトは吹き出した。
「そっすか。有難う御座います!」
自分からすれば皆んな年下で可愛く思えるのだが、同じ趣味の仲間っていいなと思う。

マリコも笑った
「ヤマト。いつかイルカとマンタとサメを見よう。そうだ。鯨と一緒に泳ごう」
「あ…。桜祭りで鯨が空を泳いでたな」

ロボットの鯨なのだがヤマトは心底驚いた。そんな巨大な物が宙に浮くのだ。マリコは頷く。
「空は飛べないけれど海なら泳げるな」
そうだ。鯨と泳ごう。いつかマリコと一緒に。

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