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アンドロイド転生1171
2116年12月16日
茨城県白水村 サキの両親の部屋にて
「ケイは息子だ」
ヒロシは娘に送るメッセージにそう言い切った。サキの選んだ“男“を認める事が先に逝く娘の餞(はなむけ)になるだろうと思ったのだ。
お前は間違っていなかった。有難うと言う気持ちを伝えたかった。そして孫に出会わせてくれた事にも感謝した。サキは自慢の娘だ。俺達には勿体無いくらいの。
メッセージを撮り終えるとヒロシは呟いた。
「サキ(咲希)って名前は…先だってよ。俺が付けたんだけどな。くそっ。もっと考えれば良かった。恨んでるかな。失敗したかな」
娘がサキという名前だから先に逝くと笑ったのだ。本人はおどけたつもりだったが、ヒロシは胸が痛かった。妻のアカネは苦笑した。
「そんな訳ないじゃない」
「そうかな…俺はよ…もう…どうしていいか分かんねぇよ。子供が自分よりも先だなんてよ。信じられるか?信じらんねえよ…。しかもよ。見舞いにも行けねえんだ。畜生…馬鹿野郎…!」
連日、村は横殴りの雪なのだ。アカネは溜息をついた。散々泣いてこれ以上はもう一滴も出なかった。頭がガンガンと痛かった。
「本当ね…大馬鹿野郎だわね…」
何に対して馬鹿なのか2人も分からない。神なのか仏なのか。それとも娘を救えない自分達なのか。多分そうなのかもしれない。ヒロシは立ち上がった。アカネも倣う。2人は部屋を出た。
・・・
大広間にて
家族一同(子供を除く)が驚愕した。2人はサキの状況を報告したのだ。ヒロシと同じ顔をしたシオンの父親が悔しそうに膝を拳で何度も打った。
「息子の協力は甲斐もなかったのか」
ヒロシは弟を見つめた。
「違うぞ。今回の病気は別もんだ。白血病は治ったんだ。有難うな。シオンのお陰でサキは少しでも生きられたんだ。感謝している」
村長は溜息をつく。
「俺みたいな年寄りが長生きして若い者が逝くなんて申し訳なく思う。変わってやりたい」
一同は何度も頷いた。
キリが呟く。
「タウンの医療技術はもっと進んでると思ったんだけど…違うんだね」
また一同が頷いた。
キリは息子のルイを思った。彼はキノコについて日夜研究している。4,000種類もあるキノコには未知の効能があると信じているのだ。いつか必ず見つけ出すと自信満々だ。
もし…ルイがそんな発見をしたら…サキのように苦しむ人が減り、命が早く終わらなくても良くなる筈…。きっといつか…と信じているが今は言えない。サキの両親の前では。
ヒロシは何度も溜息をついた。大柄な身体がひと回りも二回りも小さく見える。
「サ…サキはよぉ…すんげぇ頑張ったんだ。小枝みたいに細くなっても…笑ってた…」
アカネがワッと泣き出した。
「嫌!ああ!嫌!こんなの耐えられない!」
ドッと涙が溢れた。もう出ないと思ったのに。女性がアカネの側に行って背を撫でた。
「夕食の時間です」
その声に驚いて一同は振り向いた。アンドロイドのエイトとサツキだ。自我の芽生えのない彼らはマニュアル通りに動くのだ。
これが自意識があるアリスやチアキならば村人達の心情を慮ってそっとしておくだろう。一同は渋々と立ち上がった。食欲などないが子供らを待たせるわけにいかない。
村人と共にダイニングに向かうエイトとサツキ。するとエイトは繁々とサツキを見つめた。
「あなたはサキさんに少し似ていますね」
「ええ。皆さんはそれが辛いでしょうね」