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アンドロイド転生1068

2120年9月24日
上野 つばさ幼稚園
ミシマユウサクの邸宅

「お早う御座います」
ナニーアンドロイドのユキがサクヤの部屋に入って来た。サクヤはベッドから起き上がって、にこやかに微笑んでお早うと応える。

「サクヤ様。今日は体育の授業があります。体操着、シューズ、タオル、飲み物のご用意は出来ていますか?」
自慢げにサクヤは頷く。ユキはニッコリとする。

サクヤは自分でタオルを出すと洗顔を済ませ、服に着替えて丁寧にパジャマを畳んだ。ユキの手を煩わせる事はない。3ヶ月前から自分でやるようにしていた。だって僕は昨日で12歳になったんだから。

ダイニングに行くと両親がテーブルに着いていた。サクヤも椅子に座ってミルクを飲んだ。
「パーティ楽しかった!ね?お母さん」
「そうね。素敵なバースデーだったわね」

父親のユウサクは微笑んだ。
「よぉ。坊主。とうとうナニーは卒業だ」
「だね」
「別れは済んだのか」

サクヤはチラリとユキを見た。
「今言う。ユキ。元気でな」
「はい。サクヤ様」
「なんだ。案外とあっさりしてるな」

サクヤは答えず、卵焼きを突いた。ユウサクは息子をジッと見つめて息を吸い込んだ。
「じゃあ。ナニーのユキとはお別れだ。今日からは…つばさ幼稚園のユキ先生だ」

サクヤの手が止まった。ユウサクを見る。
「え?なんて言ったの?」
「12歳になった翌日にナニーはいなくなる。だけどユキはラボに帰らない。保母になるんだ」

サクヤは目を丸くして父親を見つめた。
「え?え?」
母親のトモミが微笑んだ。
「ユキはラボに戻らないの。このまま暮らすの」

サクヤの唇がアワアワと震え出した。
「ほ、ホントに?本当に?絶対?」
「最初からお父さんと決めてたの。ユキをラボに戻すのはやめようって」

サクヤは立ち上がった。両親とユキを交互に見て、やがて大粒の涙を溢した。
「な、何で言ってくれなかったんだよぉ…秘密にするなんて酷いよぉ…」

誕生日の翌日にナニーのユキと別れなくてはならない。それは当然のことだと受け止めていた。だが生まれてから今日まで片時も離れず側にいた。親よりも密な存在なのだ。

別れが寂しくて堪らなかった。しかし誰もが乗り越えていくのだ。ユキがいなくてもちゃんと出来るのだと懸命に努力した。親にアピールしていた。ずっと無理をしていたのだ。

ユウサクは息子から目を離さない。
「言ったら、お前に覚悟が生まれなかった。保母になったユキに甘えた事だろう。でもちゃんと出来るようになってきた。偉いぞ。サクヤ」

サクヤは声を上げて泣き出した。
「ユ…ユキ…ユキ…」
ユウサクは立ち上がると息子の肩を叩いた。
「もうサクヤだけのユキじゃない」

サクヤは何度も頷いた。涙を拭う。鼻水を拭いた。ユウサクは微笑んだ。
「園児達のユキ先生だ。分かったな?」
「うん…うん…」

サクヤはユウサクに抱きついた。
「お、お父さん…。有難う。僕…僕…ホントは寂しくて悔しくて堪らなかった」
「そうさ。お父さんも寂しかったんだ」

ユキはそんな彼らを優しく見つめた。彼女に自我の芽生えはない。ただナニーマニュアルでサクヤを愛するだけだ。しかし関係性に揺るぎない。12年の歴史が2人にはある。サクヤの涙が物語っていた。



※サクヤがチアキにユキを紹介するシーンです


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