アンドロイド転生1073
2120年10月2日
都内某所 ダンススタジオにて
ダンスの休憩中。カナタと恋人のアイリは床に座り込んでいた。アイリがカナタの言葉に驚いた。
「え!ハーバード?」
「うん」
だがアイリは直ぐに納得する。カナタの成績は首位独占だ。文武両道で何でも器用にこなす。常日頃からアイリはカナタを尊敬していた。そんなアイリだって優秀なのだ。2人の通う高校は偏差値が高い。
「一緒に行こうぜ!ハーバード」
「無理だよ。私じゃ」
「そうか?アイリなら楽勝だろ」
「ハーバードはね。特別な人しか行けないの」
アイリはじっとカナタを見つめた。
「カナタは必ず合格する。あそこは成績だけじゃなくて人物も評価するの。あなたには魅力がある。そう言うのを天賦の才能って言うんだよ」
カナタは屈託がない。そして実の親が思うほど礼儀知らずでもない。その場の空気を読んで一歩もニ歩も先に進めるのだ。積極性、協調性、公平性。そして忍耐力や責任感もあった。
アイリはサッパリとした顔で笑った。
「あー。カナタとプレイしなくて良かった。子供がいたら…アメリカに行く気にならなかったよね。カナタの夢の邪魔になりたくないしさ」
※プレイとは若者用語で性行為の意味です
2人が付き合った当初。アイリは子供を産んでも良いと言い出した。現代は若くして親になる率がかなり高いのだ。出産しても子育てはナニーに任せられる。人間は縛られることはない。
カナタは喜んで双子の父親になると言い出した。だが2人は一線を越えることはなかった。知能の高さが歯止めをかけた。急いては事を仕損じるという事を分かっていたのだ。
「俺に夢なんてないよ」
「これから見つけるの」
「そっか。そうだな」
「何でも叶うよ。応援してるね」
アイリは立ち上がって背伸びをした。
「そっかぁ。アメリカかぁ!私も外国に行こうかな。イギリスあたり。どうかな?」
「うん。世界を見ようぜ」
彼らには別れの予感があった。好き合っている2人だが、今は恋愛よりも優先すべき事があると理解していた。互いの未来の為に足枷になりたくない。未来を応援したいのだ。
・・・
ここで読者様にカナタの数ヶ月後を報告しよう。晴れてカナタはハーバード大学に合格した。養父母は歓喜した。両親はそうかと頷いた。知る者と知らない者の差だった。
カナタとアイリは合格証書のホログラムを眺めていた。2人はおめでとうを言い合った。
「あなたと出会えて良かった」
「俺も。アイリ。応援してるぞ」
カナタにまた新たな暮らしが始まるのである。彼は養父母が思うような大成をするのか。それとも両親が望むような静かな大人になるのか。それを引き続き皆様にお届けしたい。
ひとつ言えることはカナタは国民にならなければ彼の人生に何も変化は起きなかった。山奥の寒村でただ生きる為に山や川に行き、畑を耕し、家の修理などをしていたのだ。
・・・
ここでアイリの一生も報告しよう。アイリはイギリスのケンブリッジ大学に合格した。だが2年で退学しロンドンの老舗ダンススクールに入学した。ダンスの道を選んだのだ。
舞台や歌手のバックダンサーとして活躍し、40歳を目前にして遺伝子バンクを利用して息子を授かった。帰国するとダンススクールを開校して名を馳せた。幸せな一生を送ったのである。
※カナタとアイリが子供について夢を語るシーンです