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アンドロイド転生1082

2120年10月12日 深夜
富士山8合目 ロッジの庭先にて

リョウの立体画像は土下座をすると言わんばかりの勢いで手を合わせてタケルに頭を下げた。
『タケル。本当に申し訳ない…元は盗撮…した…クセに…自己保身に逃げた俺が馬鹿だった』

タケルはリョウをジッと見つめて苦笑した。
「確かにな。盗撮なんて最低だ。しかも裸だ。相当キモい。サキに言ったか?謝ったか?」
『ああ。謝った。許してくれた』

「そうか。良かったな。で?エマも許してくれたんだよな。リョウはラッキーな男だな」
タケルの笑顔とは反対にリョウの顔が沈む。どうしてそんなに余裕なんだ?怒るだろ?普通。

『ど、どうしたんだよ?タケル…』
「あ?」
『何で…冷静なんだ?何で…平然としてるんだ?』
「じゃあ…ぶちのめせと?」

リョウは真面目な顔をして頷いた。
『それでも構わない。俺はそれだけの事をした。取り返しのつかない事をしたんだ』
「まぁ…そうだな」

『タケル。何でも言ってくれ。何でもする』
「じゃあ…ここに来るか?富士山8合目に。来れるか?今直ぐに」
『行く!約束する!』

タケルは笑った。
「無理だよ。素人には無理なんだ。そんなとこなんだよ。プロでも一歩間違えると遭難するような場所なんだ。特にこのシーズンは」

リョウは黙り込んだ。タケルはまた笑う。
「でもさ…リョウはイギリスに行ったんだな…。国民になってパスポートを取って飛行機に乗ったのか…。凄いじゃんか」

リョウは驚く。えっ?凄い?
「だってさ。リペア室しか知らないオタクのアンタがエマに謝るために遥々遠くまで行ったんだ。褒めてやるよ」

リョウは慌てた。そんな言葉なんて望んでない。
『す…凄くなんか…ないよ。それよりタケル。怒れよ。なんか言ってくれよ。死ねでも殺すでも何でもいいよ。それだけ酷い事をしたんだ』

タケルの瞳に昏い色が宿る。
「1度死んだ俺はそんな言葉を簡単に言えねえよ。死ぬってのは痛くて怖くて…寂しいんだ」
『あ…。そ…そうだよな…ごめん』

リョウはタケルを思う。俺達には言った事ないけどきっと寂しかったよな。家族も知人もいない遥か未来で転生なんて辛いだろうな。しかも人間からアンドロイドだ。呪いたくなるに違いない。

いつもクールで弱みを見せないタケルだけど心の穴を埋めたのは…エマだ。リョウは2人を思った。本当に愛し合っていたんだろう。だからエリカは嫉妬に狂ってあれほど追い詰めたんだ。

リョウは今度は妻のミアを思う。あの愛する存在を失うなんて耐えられない。ミアを陥れたり傷付けたりする奴がいたら地の果てまでも追うだろう。そして何をしても許さないだろう。

タケルは椅子に寄りかかって後頭部に両手を預けた。宙を見つめている。漆黒の空を。輝く星々を。丸い月を。そして微笑んだ。
「時は流れても…夜空は変わらないなぁ…」

『う…うん…』
「でもさ。俺は2年7ヶ月経って…少し変わったと思うんだ。怒りや憎しみって薄れていくもんだし…悲しみも…想い出になっていくんだな」

『そ…そうなのか…?』
「うん。エマの事は気掛かりだし…また会いたい。けど…まぁ…それは無理だから…祈るしかないって事かな。幸せになってくれってさ」

タケルは晴れやかだった。
「それにさ。憎むってエネルギー使うだろ。そんな事に使うなら働いた方が良いかもな」
リョウはタケルの笑顔が辛かった。


※タケルが死んだシーンです

※サキがリョウを許したシーンです

※エマがリョウを許したシーンです


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