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スマホ一強のこの時代に、いまだに一眼レフを買うべきな理由


その根拠となる、「私が一眼レフを買った理由(わけ)」のエッセイ。

そのままの空を残したいから。

 手前のダイアルは左に回して、上のダイアルは少し右に回して、シャッターを切って画面を見た。そこには目の前にある、水彩画のような空が、ちゃんと閉じ込められていた。
「そういえば、私はこれがしたかったんだよなあ。」
なんて、私が一眼レフを買った本当の最初の理由を、数年ぶりに思い出した、昼間よりも柔らかくなった風が、滲んだ汗をさらっていった六時半。

 最近はめっきり、ポートレートばかりを撮るようになった。というか、女子校出身の私は、純粋で可愛らしくて儚い愛すべき女の子と、世界一可愛い愛すべき母校の制服とを撮るために写真をはじめた気でいた。いや、「写真」を「はじめた」のは実際にそうだったのかもしれない。学校の廊下で友達に立ってもらって写真を撮った。机、ロッカー、黒板、乗ったら怒られるエレベーター、校庭のボール、綺麗すぎるトイレ。思い出を切りとった。ISO感度とか、F値とか、シャッター速度とかも憶えた。その上感覚で明るさもわかるようになったし、単焦点レンズだって買った。友達をお花畑に連れ出すようになったし、首かしげてとか言うようになってしまったし。今やカメラ二台目だし。
しかし、久しぶりに泣きそうになるくらい綺麗な夕焼けを撮って、「カメラ」を「欲しい」と思ったきっかけは全く違ったことを思い出したのだった。今の小さい子にはきっとわからないだろう。この切実な理由。

「大好きな空の色をそのまま残したい。」

ただそれだけだった。忙しくて、夕方の空なんてあまり見上げなくなって忘れていた。私は、空を見て目を潤ませられる人間だった。小学五年生の頃、ガラケーで撮った夕焼けはざらざらだった。中学一年生の頃、コンデジで撮った桃色の空はオレンジだった。中学三年生の頃、iPod touchで撮った橙色の空はイエローだったし、高校一年生の頃iPhoneで撮った碧い空は青かった。だから高校二年生の私は、一眼レフを買ったのだ。思い出して、きゅんとした。
 コンパクトデジタルカメラを買った時はたしか、思い出と空を残したくて、でも画面に映った空の色にがっかりした。iPhoneは優秀だな、と今もよく思うけれど、最高の空に出会った日には、その瞬間、カメラが手の内にあることを渇望する。最寄駅に降り立って視界に飛び込んで来た空は、家に帰る頃にはもう、まぶたの裏側にしかいない。iPhoneで一応撮っておいたものは偽物で、もうきっと見返さない。もしかして、最新のポートレートモードなんてものがあるiPhoneは、空もそのまま切りとってしまうのだろうか。もしそうなら、私と同じ理由で一眼レフを手にする人はもういないのだろうか。ちょっと寂しいような、ちょっと特別なような、そんな気持ちになった。
 こんな理由で一眼レフを買ったから、ずっとマニュアルモードで写真を撮っている。私の目に映る、微妙な、刻一刻と移ろうあなたを、オートなんかに理解されてたまるかと、何度も撮り直す。心を近づける。ぴったりと通じ合ったら、私だけの、コンマ五秒前のあなたが、ずっと私の手の中にいる。

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#一眼レフ #空 #カメラ #エッセイ


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