痺れる恋と淡い思い出
髪の毛をショートにしました。ベリーショートって言われる長さかも知れないです。
思い立って、なんだか切りたくなって、前髪もずっと伸ばしていたけど、たまにはいいかなって思って。
いつも通っている美容室ではなくて、初めてのところにしてみました。
短くしてください。のオーダーに、
いいんですか?!と驚く美容師さん。
こだわりはないので、良きにしていただけますか(丸投げ)と、謎のオーダーをして美容師さんを困らせてきました。
動画サイトを見ながら、時に仕事をしながら、切られゆく髪
色んな思い出が、ぱらぱらと切られていく
あー切られてるなあ、
ふと顔を上げると、そこには見覚えのある顔が。
どこで見たのか、はたまた夢で出会ったのか。
どことなく、知った彼の顔が。
まじまじと見るには失礼な気もしつつ、話しかける勇気は到底湧いてくるわけもなく
過去の記憶を掘り起こしてゆく。
思い出せない。
誰だったんだろう。でも知人に美容師を志していた人はおらず、見続けるのも失礼なので、必死に解決したい欲を押し殺す。
そうこうしていて、気付くと1時間経っていた。
鏡には、バッサリ切られたベリーショートの私。
ありがとうございます。
と、美容師さんにお礼を言いながら、思い出せない彼を思い出そうとバレないように考えてみた。
変わらず思い出せない。あとちょっとな気がするのに。
そんな思いを抱えたまま、帰路につく。
気づいたら目の前には、青島ビールが冷えたグラスを隣に連れていた。
あの人、誰かに似てるんだよなあ…
それが、かつて愛した人なのか、酒を酌み交わした人なのか、上司なのか、後輩なのか、同僚なのか、、
思い出せないまま、さっぱりとした後味の青島ビールを流し込んでゆく。
きっと淡い記憶のどこかの彼だろう。
もうすぐ30歳。酸いも甘いも色々あった。
このラーメンのように、痺れる関係もなかったとは言えない。
しゃきしゃきとした、きくらげのように歯切れのいい振られ方をしたことも
後味を残すにらのように、どこからともなく香ってくるあの人の香りに涙が止まらなくなったことも
もう忘れたいのに、いつまでも脳裏によぎるニンニクのように、忘れられないこともあった。
やっと落ち着ける。この関係を崩したくない、これからも…そう思う時に現れる花椒のようにじりじりと詰め寄ってくる彼女。
そんな時、いつでも会えるわけじゃない彼に都合のいい女なの?と聞きたくなる。
こちらから会いに行かないと会えない、青島ビールのような彼は特別な存在だった。
彼からの返信を待つ時に限って、願ってもない場所で、彼の隣には似合った女性がいた。それはこの冷えたグラスのように。
どんな時も、冷静さを思い出させてくれるお冷ような同僚もいた。今でも感謝している。
あの美容師さんはいったい誰に似ていたんだろう。
もしかして知ってる人だったのかな。
そんなことを考えながら、たくさんの思い出たちと絡み合った麺をすすり、たくさんの思い出たちを思い出し
淡い記憶たちを青島ビールでかき消していく。
決して、上塗りするわけじゃなく、慰めるように思い出を肯定しながら流していく青島ビールの泡
ずっと彼の横にいたかった。
無理なのは分かっていても。
もしかしたら、美容師さんもショートにしたい、前髪切りたい欲の私を否定せず、今の私を肯定しながら等身大の私に似合うようにしてくれたのかもしれない。
少し切りすぎたと思った。
でも、どことなく懐かしさを覚える美容師さんが切ってくれた髪は、麻辣麺を食べて汗をかいた私にはとても心地よかった。
ラーメンはとてもおいしかったです。今度はジャスミンライスも頼もうと思いました。
辛さ足せます。今回は足し忘れました。
生きていく糧にさせていただきます。