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月曜日

火曜日の朝。
緊急で全校集会が行われるとのことで、生徒が体育館に集められた。
僕らの担任が何か真剣な話をしている。
僕の耳にはガヤガヤした生徒たちの声と、蝉の鳴き声しか聞こえなかった。

入学して1ヶ月。
いつも僕が独りでお弁当を食べる時に使っていたお気に入りの場所が、クラスメイトたちに開拓され
仕方がなく砂埃が舞うピロティでお昼ご飯を食べようとしたら、君がいた。

「あっ」
声が出てしまった。
そこにはまだ入学して1ヶ月しか経ってないのにいじめのターゲットにされていた君がいた。

「あって失礼だな、どうせ『あっいじめられてる奴だ』って思ったんでしょ」
と、君が言うから、
「ちげーよ、そんなんだからいじめられるんだろ」
と言うと君は笑いながら、
「お前もあんまり変わらないだろ」
と、言い返してきて僕も笑った。
それが君と僕の出会いだった。

授業中に君が先生にさされると、ザワザワしていた教室がシーンとなる。
君は「わかりません」と答えるとクスクスと笑い声が聞こえてきた。
着席した君は僕の方を見て変な顔をしてきて、それを見て僕は笑った。

移動教室の授業が終わるといつも君の荷物が行方不明になる。
僕たちはそれを宝探しと言って、どっちが先に見つけるか遊んでいた。
さすがに筆箱の中身が全部折られてた日に僕は笑えずに、先生に報告しようとしたけど、
君は「大丈夫だ」と言って笑っていた。
せめてと思い、僕がコーラを奢ると君は、
「割に合わないだろ」
って文句を言って笑っていた。

「月曜日の6時間目に体育ってバカすぎない?」
君が突然言ってきた。
「たしかに、じゃあ俺らで音楽の時間にする?」
と僕が言うと君はわくわくした顔で
「どうやって?」
と聞いて来た。
そして僕らは学校を抜け出した。

「学校サボってカラオケ行くなんて俺らヤンキーみたいじゃん!」
そう言いながら2人で歌った湘南乃風は72点だった。

それから月曜日の6時間目は2人で学校を抜け出してカラオケに行くのが恒例になっていた。

「歌ほんとうまいよね、ネットにあげてみたら?」
僕の歌を聴いて君が言い出した。
「いやいや」
「じゃあ俺が勝手にあげてみるわ」
「やめろよ!笑」
そんなふざけた事ばかりしていた。

ある日、不意に僕が君に聞いた。
「将来なにか夢とかあるの?」
いつも一緒にふざけていたけど、こう言う話はしたことがなかった。
すると君は、
「将来の話は好きじゃないかな、今楽しければいいし」と、笑っていた
「こんないじめられてるのに楽しいの?」
と聞いてしまった。
すると君は珍しく真面目な顔をして答えた。
「んー、でも最近たのしいよ?」
だから僕も答えた。
「一緒、楽しいよね」

それから数日経ってから登校中に君が慌てて話しかけて来た。
「やばい、カラオケの映像めっちゃ再生されてる」
どうやら本当に僕の歌っている映像をネットにあげていたらしい。
「やっぱりお前才能あるんだよ!」
そう興奮した君が僕の肩を掴んで激しく揺らしてきた。
「たまたまだって」
と言いながら教室に入って自分の席に座ると、クラスメイトが突然話しかけて来た。
「これ君だよね?」
見せてきたのはカラオケをしている僕の映像だった。
「うますぎない!?」
それを聴いたクラスメイトが僕の席の周りに集まりだした。
「よかったらさ、来月の文化祭の後夜祭で歌ってくれないかな?」
と、文化祭実行委員の生徒が聞いてきた。
「いやいや、絶対無理だよ」
咄嗟に断ると、クラス中から「えー」と声が漏れてきた。そんな空気に耐えられなくて仕方なく
「わかった!やるよ!やる!」
と言ってしまった。
すると、みんなが嬉しそうに喜んでくれた。
そんな輪の隙間から君の方を見ると、笑顔でグッドポーズをしていた。

このカラオケ映像のおかげで僕の周りには自然と人が集まるようになった。

たぶんそれからだった、君が僕と距離を取るようになったのは。

「どうして避けるの?」
とメッセージを送った。
2日後に返事が来た。
「俺といない方がいいよ」

それっきり君と学校で話すことは無くなってしまった。

文化祭も終わって、後夜祭も大成功。
空気のように過ごしてた僕も少しずつ学校に溶け込めるようになっていた。

君を残したまま。

授業中、先生に君がさされるとクラスがシーンとした。
君が「わかりません」と答えるとクスクスと笑い声が聞こえてきて、君は静かに着席する。

移動教室の授業が終わって、友達にもらった飴の袋を捨てようとゴミ箱を開けるとそこには君のお弁当が捨てられていた。
その後、僕は自動販売機でコーラを買ったけど、君に渡せないままぬるくなったコーラをカバンの中にしまった。

月曜日の体育の時間、君がいない事を確認して、僕も体調不良と言って早退した。
あのカラオケ屋に向かう。
けれど君を見つけることはできないまま夜になった。

「また一緒にあそぼ」
と君にメッセージを送って僕は眠りについた。

火曜日の朝、突然全校集会が行われることなった。
体育館に向かう途中の渡り廊下で鳩が死んでいた。
僕は嫌な予感がした。

僕らの担任が何か真剣な話をしている。
僕の耳にはガヤガヤした生徒たちの声と、蝉の鳴き声しか聞こえなかった。

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