Cocco25周年ベストツアー2023~其の2~ 岩手県公会堂
うっすらと焚かれたスモークが日差しを浴びて舞う埃のようで、ごぉごぉというジェットヒーターの音と微かに漂う火の香りに、冬の体育館を思いだす。
二列になるのがやっとな位の木の階段を上る。
狭い通路は座席を探すためにのぞき込むお客さんと、それとなく座席を教えてあげるお客さんで混み合っている。
同級生に似た顔を見たような気がして思わず声をかけそうになったがそんなことはなく、よく考えれば同級生も年をとっているわけであの頃のままなわけないよなと、そんなことを考えながら席に着く。
アナウンスが入り、照明が落ちる。
上手から真っ白なドレスを着た女性ががすっとした姿勢で登場する。
客席の背筋も伸びる。
え?この曲。
前の席のお客さんが両手で顔を覆っているのが目に入る。
ああ、Coccoだ。
強く儚い者たち
この歌を初めて聞いたのは大ヒットした翌年あたりだったか。
社会人になって久々に再会した友達は次に会ったときには怪しげなセミナーにはまっていた。
一度だけと懇願されて、彼女の車で会場に向かう時に乗った車の中で流れていた。
目をキラキラさせて夢を語る彼女の話を遮りたく「これ、誰の歌?」と聞いたら。「Coccoだよ、ちょっと古いかな?」と教えてくれた。
次にCoccoを聞いたのは、仕事を辞めてゴロゴロしていた時期で、よく遊びに行っていた後輩がCoccoの大ファンだった。二人でCoccoを聞いては「1回でいいから生で聞いてみたいね。」とよく話していた。
たまり場になっていたその子の部屋は、入れ代わり立ち代わり友達の友達がやってきた。
もしかしたらこのままずるずると戻れないところまで落ちてしまうのではないかという甘くスリリングな妄想と、そんなことはやはりなくいつかまっとうな生活に戻るんだろうという予感の狭間は無責任な心地よさにあふれていた。
数年後、久しぶりに会った後輩に「先輩ってなんだかんだうまいこと生きてますよね」と言われた。
目の前でCoccoが歌っている。
Coccoの声で時間も記憶も感情もごちゃごちゃになった私は、久しぶりに感じるごちゃごちゃな気持ちの苦しさと心地よさを感じた。
盛岡の街
と、いうわけで行ってまいりました。
Cocco25周年ベストツアー2023其の2岩手県公会堂。
岩手県公会堂は築96年の古い公会堂。
以前から一度は行ってみたいと思っていた公会堂とCoccoの組み合わせ。
雰囲気的には「雪国に歌姫がやってくる」みたいなムード。
前日の大雪で歩道に雪が残る盛岡は、宮沢賢治的な雰囲気を感じさせ駅を出た瞬間からおとぎ話の世界に踏み入った気分。
市内を流れる川にかかる開運橋を渡り大通りを通る。
天気が良ければここから岩手山が見えるのだけれども、曇天のいかにも雪国な空模様も私はとても好き。
途中、気になっていたヘラルボニーのギャラリーに立ち寄る。
「今日Coccoのライブで盛岡に来たんですよ」
ギャラリーの方に言うと
「あら、そういえば前にいらした方もそんなことをおっしゃっていました。なんか、つながってますね。ファン同士。」と、微笑みながら返してくれた。その返しがなんか嬉しかった。
グッズ販売と音漏れと
グッズ販売を速い時間いやるLIVEなんて正直初めてだったりして、どんなもんだろうと14時半に会場に到着。
待機列に並ぶと、会館の中からドラムの音が聞こえる。
……っていうかドラムどころじゃねぇ。ガンガン音漏れしてる。
ドラムの音に合わせて建物が震え「え、これありなんだ?」と思う位によく聞こえる。
よくよく見たら(多分ステージ袖付近の)勝手口?搬入口?が開いていて、そりゃ音も漏れるよなと。
大らかというかなんというか。
おかげで待機も苦にならず、こっそり口ずさみながらゆらゆらと揺れていたのでした。
ちなみに私は樹海の糸あたりから並んでいました。
グッズを買いに中に入ったころにはRainning。中に入るとより一層音が聞こえる。Rainningって、私は勝手に放課後の日の低い柔らかな日差しイメージだったんだけど歌詞思い出すと一言も放課後って言ってないな。
ガチャガチャを引いたあと、「ダブった景品あったらなにか交換しませんか」と近くの見知らぬファンの方に声をかけ交換してもらう。やだ楽しい。
25周年ベストツアー
開場の時間に着くと行列。
古い建物で設備も当然今風にはいかず、お手洗いの列が2階まで続いていた。
私は2階席だったのだがキャパが800ちょいなのでステージが近く見える。客席も良く見渡せ贅沢な気分。
Coccoのこの日の衣装は白いフワフワのベストのような物に白いシフォンのドレス。
Coccoがスカートをつまみユラユラ揺らすと照明で足のシルエットが見え、清楚で妖しくかっこいい。雪の女王かお姫様か雪女か。
外の雪景色と古い公会堂とCoccoの雰囲気が本当に良くマッチしていた。
冒頭4曲 強く儚いものたち 焼け野が原 樹海の糸 恋い焦がれて
一曲目が「強く儚い者たち」。
多分、客席みんなびっくりしていたと思う。私もびっくりしてしばらく頭が真っ白になった。
続けて「焼け野が原」「樹海の糸」。
なんて思った時期もありましたが、そしてCoccoももう歌わないのかななんて思った時期もあったけれども、なんだかんだで年をとれてこうしてCoccoの歌を聞けている幸せ。
「樹海の糸」は照明が美しく、舞台の上のから客席に細いグリーンの(確か)光の筋が伸びて「おお、樹海の糸だ」ってめちゃくちゃ感動。
懐かしい歌3曲の後に「恋い焦がれて」。樹海の糸まで懐かしさに時折涙を拭っていた私は我に帰り、Coccoのカチャーシーで盛り上がったのでした。
本当は立ち上がって踊りたかったけど、Coccoのライブって立たないのかしら。席が最後列なら立ってたかも。Coccoの踊りを見ていると踊りたくなっちゃって座ったまま私も踊りましたが。カチャーシーって「喜びも悲しみも全部掻き混ぜる」手の動きなんですね。
歌い終わって「ありがと」というCocco。客席から「かわいい」という声が漏れる。
懐かしさに込み上げる気持ちのあと、わっと盛り上がるこの感じ。
同窓会みたいだな。
「25周年ベストツアー」にふさわしいセトリというか私的に完璧な導入でした。
ロックなCoccoとMC
「あなたへの月」「ベビーベッド」と今度はかっこいい系。
Coccoってロックだよね?物販の時の音洩れで建物を震わせたドラムはこれか。
私はCoccoの激しめな曲が好きでこの日は「音速パンチ」も聴けたのでとても良かった。「音速パンチ」って、タイトルが秀逸すぎてそれだけでもう大好き。
Coccoかっこいい。
「お望み通り」で一旦ステージから消えたCocco、すぐに戻ってきて
「終わりかと思った?ヘヘ。まだあるよ。」
かわいい……!
そんなこんなでかなり歌ってMC。(途中歌の終わりに「ありがと」位で、終盤にMC)
「岩手は16年ぶりだって。そりゃ大人になるよね。子供が成人するよねぇ」
(MCはうろ覚え)
そうだよなぁ。ふと16年前の子供の姿を思いだし、子供に時間を全振りしていたあの頃の幸せを思い出した。
ウナイ クジラのステージ
ウナイを聞きながら先日子供を怒った事を思い出したりして。
ほとんどの心配事は起きやしないし、たいていの事は何とかなる。
そうは思っていてもつい出してしまう口に、少し反省。
うちの子どうしてるんだろうなぁ。お母さんはこうしてCoccoのライブに来たりして楽しく過ごしていますよ。
ラストはクジラのステージ。
漠然とした不安を感じさせる歌詞に明るい曲調が、「大人のCocco」という感じ。いや、大人のCoccoというか
「大人になった『Coccoを聞いていた私たち』」って感じかな。
上品なコートに落ち着いた髪型のあのお客さんも、オシャレで紳士な格好のあのお客さんも、仕事と家庭と趣味を謳歌しているように見えるであろう私もみんなきっと不安と葛藤を抱え、そんな素振りは見せないように毎日すごしているんだよな。それは決して強がりなどではなく。
そんな感じで、冒頭でタイムスリップした私は、Coccoの歌と共に無事「今」に戻ってきたのでした。
だってCoccoだもん
全曲終了し、客席の明かりが付く。
狭い通路に静かに行儀良く並んで会場を後にする観客。
列が途切れそうにもないので、後ろに合流しようかな。後ろのお客さんに
「私、最後の方に出ようかなって思ってるんでよろしければお先どうぞ。」
と声をかけると
「いえ、大丈夫です。」
と若い女性。続けて彼女が言う。
「Coccoのライブは良く見に行かれるんですか?私は今日母と始めて来て。」
見ると、彼女の隣に私と同年代の女性がいる。
「娘さんと一緒なんて素敵。私は今日が初めてなんです。やっと来れて。」
彼女のお母さんに声をかける。
「私もなんです。岩手は16年ぶりって。16年前だと……」
と彼女のお母さんが答える。そうだよなぁ、多分若い彼女はうちの子と同じか少し上か。彼女のお母さんも16年前は育児に夢中でライブなんて選択肢はなかったろう。
「1曲目が始まったら母が泣きはじめて隣(私)見たら隣も泣いてて、びっくりしちゃって」
若い彼女が笑いながら話す。
私と彼女のお母さんは目を合わせて
「だって」
「ねぇ」
「Coccoだもんねぇ」
と笑いあった。
というわけでCocco25周年ベストツアー其の2岩手県公会堂。
この日会った全ての皆様、
またいつかどこかでお会いしましょうね。