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横山秀夫「64」

数年前に読んで、「凄い小説…」と感動した作品を再読しました。ねたばれ、します。お気をつけ下さい。




以前読んだ時は、主人公の三上さんと、雨宮さんが凄く印象に残ったのですが、再読して又印象が変わりました。三上さんの圧倒的な存在感はそのままなのですが、雨宮さん、幸田さん、そして松岡参事官の物語でもあったのだろうと。

「俺はな、初めて会う人間すべてに目で問いかけることにしている
お前はロクヨンのホシか?」

幸田さんとは違った形で、松岡参事官もずっと雨宮さんに寄り添ってきたのだな、と。刑事が会う人間は、一般人が会うよりもずっと多いだろう。その一人一人に問いかけてきた姿は、分厚い電話帳片手に公衆電話から延々と犯人の声を聞くために電話をかけ続けた雨宮さんと重なり、この作品の核をなしていると思う。あおいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめ。その長さが、愛娘を思う雨宮さんの執念なのだろう。
スマホが普及し、固定電話を置く家も減り、電話帳が過去の遺物になった今ではこの物語は成立しない。だからこそ、この「64」のような素晴らしい小説は、時代を語る記念碑のような存在になってゆくのだろうとも思う。

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