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十勝岳――北アルプスに匹敵する稜線

2024年6月末、北海道の十勝岳を縦走してきました。素晴らしい稜線に感動したので、おすそわけです。

北海道では利尻山と十勝岳と旭岳を登る計画をしていました。しかし、利尻山は天候が悪く断念、旭岳も同じく断念しました。よって、十勝岳にかけるしかありませんでした。結果的に風は強かったものの、晴れたので最高の稜線散歩をできました。

ルートは下記です。
白銀山荘(テント)ー美瑛岳ー十勝岳ー上富良野岳ー凌雲閣ー白銀山荘(テント回収)
YAMAPでは11時間くらいの行動時間でした。

白銀山荘はよいテン場でした。温泉もあり、トイレもあり、水場もあり、芝生の上でテントを張れます。虫はそこそこいましたが、もし次も十勝岳に来たらテントを張ろうと思いました。

 白銀山荘のテント場

係の方に「あした十勝岳に登ってから回収するので、テントを置いたままにさせてほしい」と言ったら、「カラスやキツネが食料を荒らすから気を付けて。カラスはジッパーを開けるから、食料は奥のほうに置いてね」と言われました。あとはテントが風に飛ばされないように気をつけてほしいと言われました。
早朝に出発するときにはレインフライをピンと張り、食料にはニ重に封をして出発しました。

北海道の山は初めてだったので、エキノコックス対策をしました。飲み水をろ過する装置を持ちました。これで沢水を飲めます。実際にポンピ沢で水をくむのに使いました。

また初めてアグレッシブデザインの日焼け止めを使いました。塗ってから30分は安静にすることで、皮膚に膜を作って日焼け止めとして機能します。日焼け止めを落とすには、クレンジングオイルで落とすか、皮膚の再生プロセスで剝がれるか、の2択とのうたい文句でした。「汗では落ちない。sweat proofだ」と言っていたので、若干怪しんでいました。
結果として、1日を通して塗りなおす必要もなく、登山で汗をかいても大丈夫でした。ほかの製品では汗をかくと目に入って染みるのが嫌でした。しかしアグレッシブデザインの日焼け止めは、汗をかくと目に入っても染みず、口に入ると甘い感じがしました。
クレンジングオイルを持ち込まなかったので、自然にはがれるのを待ちました。素晴らしい日焼け止めです。高いですが、リピートします。

白銀山荘を出ると、美瑛岳を目指します。美瑛富士と美瑛岳のルート分岐がありますが、美瑛岳を取りました。いくつかの雪渓は残っていますが、キックステップで切り抜けます。

ポンピ沢の箇所は、藪漕ぎをしました。夜露に濡れた笹が登山道にはみ出しており、かき分けながら進むと服や皮膚がびちょぬれになりました。数か所ほど、野生動物の尿のにおいを強く感じる箇所がありました。「熊がいるかもしれない」と実感し、スマホであいみょんの曲を爆音で流しました。

途中で会った人は、「美瑛岳の山頂から下を眺めたときに、美瑛富士のほうで熊の親子が雪渓を横切るのが見えた」と言いました。「だから直接ポンピ沢に降りてきたんだ」

美瑛岳に登ると、まず熊がいないか美瑛富士方面を探しました。いませんでした。残念。また旭岳から4日間かけて縦走してきた人と会いました。その人も上富良野岳まで行って、凌雲閣に降りるルートとのことでした。トムラウシあたりで暴風雨のなかでテントを張ったりと、なかなかの体験をしたそうです。

その後十勝岳に行くまでに、美瑛岳を振り返ると、なかなかの切れ落ちた岩壁をしています。写真を撮りました。

たぶん美瑛岳

十勝岳に近づくと、徐々に硫黄のにおいがしてきます。風に乗って、噴出口から硫黄臭が漂ってくるのです。一方で十勝岳を見上げると、アリがたくさんたかっているような感じがして、近づくにつれ、「ああ、人間だったのか」と気づきます。人がたくさんいる山頂は、苦手です。山頂に登って、そうそうに通り過ぎました。

山頂を抜けると、上富良野岳までの稜線になります。これが素晴らしい。もし十勝岳に登る場合は、晴れているなら、上富良野岳まで稜線散歩してください。本州の北アルプスに匹敵する稜線を味わえます。

私は感動のあまり、最終便のバスを使うことにして、稜線に座りこみながら進みました。

十勝岳ー上富良野岳の稜線といっても、素晴らしいのは途中からです。十勝岳からの下りは我慢してください。山頂を振り返っても、見るべきものは何もないです。徐々に水平になって、爆風が通り抜けるようになって、右に大きな岩が張り出す箇所まできたら、そこからが本番です。

右を見ると、岩場があり、硫黄があり、噴出煙があり、大地が露出し、山の緑もあり、ふもとの四角形の畑も見えます。左を見ると、ずーっと続く緑の絨毯があり、くぼんだところには雪渓があります。暴風が身体を揺らします。「これぞ北海道の稜線散歩だ!」といえるような素晴らしい景色を、数時間にわたって味わえます。

途中で会った北海道の人が言うには、北海道でこのレベルの景色を味わうには、大雪山系の稜線を歩かないとダメなそうです。北海道に来たら、「十勝岳と大雪山には登ってほしい」とその人は言っていました。

「なぜ山に登るんですか?」と言われたら私は、「景色が素晴らしいから」と答えます。テント泊をして早朝に見た北アルプス裏銀座の雲海や日中の景色、黒部の日電歩道の切れ落ちた断崖。その場に身を置くことでしか味わえない景色があります。十勝岳はそれらに匹敵する稜線でした。登山をしていてよかったと思える景色の一つです。

私は数歩ごとに周りを見渡し、時には座り込み、写真や動画をたくさん取りながら進みました。YAMAPでは200%近いアベレージですが、十勝岳では110%ほどにまで落ちました。いつもは抜かす側ですが、その日は抜かれる側でした。しかし、ずーっとその場にいたいくらいの光景です。会う人に、「素晴らしいですね素晴らしいですね」と声をかけるくらいには気分が上がっていました。

上富良野岳まで行き、名残惜しくも凌雲閣への下山ルートを取りました。山を見返すと、十勝岳の噴煙や岩も見え、なかなか下らせてもらえません。すべてが画になります。

凌雲閣では、鉄分で赤茶に濁った素晴らしい温泉につかります。肌が日焼けしているので、ヒリヒリします。しかし顔は日焼けをしていない。さすがアグレッシブデザイン。そして白銀山荘まで歩いて戻って、テントをしまって撤収です。

テントをしまうときにイレギュラーがありました。半ズボンで芝生に座っていると、すねのあたりに痛みを感じ、見てみると赤いモノがついていました。「ダニか」と思って軽く触ると、赤い色は手にもついて、血だったことに気づきました。何かにかまれて、血が出ていました。

脳裏に登山でのマダニ被害を思い起こして、「やばい」と思って調べると、北海道にはマダニが多くいるそうでした。マダニは動物を待ち伏せて吸血するので、藪漕ぎをした中にマダニがいてもおかしくない……獣の尿のにおいが強い箇所も通っています。

「北海道 マダニ 被害」で調べると、数日前に脳炎を発症している人がいて、なかなか厳しい状況がありました。発症した場合には、対症療法しかなく、かなり厳しい致死率がありました。発症確率はかなり低いものの、数週間は経過観察が必要とのことでした。この記事を書いている今は、登山から2週間たっています。ほぼ大丈夫かなと安心しています。

みなさんも北海道の登山をするさいには、長袖長ズボンを忘れず、エキノコックス対策も忘れずでお願いします。

サポート金額よりも、サポートメッセージがありがたいんだと気づきました。 読んでいただいて、ありがとうございました。