もっと新潟を知りたい!~トビラプロジェクトの活動から地域課題に学生が向き合う意義について迫る~
皆さんは「トビラプロジェクト」をご存じだろうか?新潟のIターンを推進する公益社団法人 中越防災安全推進機構にいがたイナカレッジが運営する、進学で新潟市に来た大学生に新潟市の魅力に触れて愛着を持ってもらうことを目的として2019年度から始まったプロジェクトである。トビラプロジェクトは毎年主に夏と秋に実施し、今年は4つの通い型のプロジェクトと2つの滞在型のプロジェクトがあるという。合わせて7日間程度の活動の中で、それぞれのプロジェクトで数人の学生がチームとなり、1月末の全体報告会までゴールに向かい様々な取り組みを行う。地域の魅力的な人と関わりながら、地域の魅力発信や課題解決に繋がる成果物を作成するこのプロジェクトに取り組む学生の一人にお話を伺った。どんな目的を持って活動されているのだろうか。
トビラプロジェクト「しもまち地域/古町セッション 高齢化の下町に生活に根差した表現の場を!わかものが関わる、五軒長屋(空き家)を活かしたシェアハウスづくり」に参加する、経済科学部総合経済学科地域リーダープログラム2年 須永ひなのさん(20)に、12月下旬にインタビューを行った。須永さんは1年次から地域活動に取り組み、まちづくりについて関心があったことが参加理由の一つだと語り、7月中旬にトビラプロジェクトに応募したという。
◎活動内容について
「しもまち」の空き家シェアハウスプロジェクトの立ち上げは2024年9月末に始まり、初めの2ヶ月間は空き家を解体する作業が行われた。プロジェクトは須永さんを含め大学生3人、シェアハウスの準備を進めるこのトビラプロジェクトの代表の方、建築に詳しい大学院生2人が関わっているという。専門的な解体の知識も含めながら解体作業は取り行われているようだ。解体作業の次に進んだのは地域住民へのインタビューや町歩きだった。自分が携わったシェアハウスがどのように地域に根付いていくのか、須永さん自身も楽しみにしているという。
取材当時(2024年12月下旬)、プロジェクトの主な活動は、地域住民へのインタビューが中心となっていた。町の人々との対話を通じて地域に対する理解を深めている。須永さんは「インタビューを重ねるごとに色々な話や知識が繋がってきて面白いし、達成感がある」と語っている。
報告会では成果物として作成した「しもまち地域の様子を伝えるカルタ」を含め活動の成果を発表する予定だ。
実際に私も12月の中旬に活動の様子を少し取材しに行き、しもまちを良く知る方へのインタビューに須永さんと参加した。
しもまちのシェアハウスは、完成予定の春に向けて着々と準備が進められている。このシェアハウスは、単に住む場所を提供するだけでなく、さまざまな背景を持つ人々に居場所を与え、地域の活性化を目指す拠点となることが期待されている。須永さんによると「お金に困っているキャバ嬢や拠り所を探している人など、居場所がない人の居場所になる、誰でもウェルカムな場所を作りたい」という思いのもとプロジェクトが進められている。
◎地域活動の面白さとは
須永さんはプロジェクトを通して、大学の地域活動は地域側に受け入れる体制が出来ていることが多いが、このプロジェクトでは、新しい働きや学生の活動に好意的でない人も多かった点から「まちのリアル」を実感したという。プロジェクトに関わる中で、町の人々と直接触れ合い、彼らが抱えている課題や悩みを聞くことができたことが分かった。この体験は、学生のうちにしかできない貴重な経験であり、須永さん自身が地域社会に対する視野を広げるきっかけとなっているのではないかと思えた。
「最初は、しもまちという町がどんなところなのかよくわかっていなかったが、インタビューを繰り返すうちに、町の歴史や現在の状況が見えてきた。住民が口を揃えて言うのは『昔はもっと栄えていた』ということ。今は高齢化が進み、活気が少なくなっているという声が多くあった」と須永さんは振り返る。しかし、町を歩いてみると、静かで穏やかな生活が営まれていることに気づき、さらに住人からも『住みやすい町だ』という声を度々聞き、ネガティブな点に着目してしまいやすい場面でポジティブな意見が町の人から聞けたことには驚きや新しい発見があったという。
また、活動を通じて、自分がどのように地域に貢献できるのかを考えるようになったと語った。学生たちが関わることで、しもまちの地域にも新しい風が吹き込まれている。「商店街の人とかに、シェアハウスの話をすると『どんどん若い動きを作っていってほしい』『そうやって頑張ってやってくれる人がいるとありがたいよ』という声もあり、年齢的に限界を感じてできないこともきっとあって、そういった部分を学生が関わることで少しはできないことへのプラスアルファぐらいにはなっているかな、と思う」と語った。
さらに古町、しもまちを知るきっかけになったとも話す。「まちを見る目が変わった、という感じで、まち歩きとかも楽しみで、もっと古町のことも知りたいと思う。今までスルーしていた場所に興味を持つようになった」と語った須永さんは地域活動の楽しさを強く実感しているようだった。
プロジェクトが進行する中で、須永さんは「壊すこと」と「インタビュー」の二つの異なる側面に携わることとなった。空き家の解体作業は力仕事であり、大きな達成感を得て、またその後のインタビュー活動も、町の人々の思いや価値観を深く理解するプロセスであり、知識の接続や人間関係の構築という点で大きなやりがいを感じていることがインタビューから伝わった。
◎活動地域である「しもまち」の魅力について
しもまちの最大の魅力は、静かで落ち着いた環境だ。新潟駅や古町の中心地からは少し離れているが、その分、時間がゆっくり流れているような感覚が漂う。多くの住民が「住みやすい」と感じている理由もここにある。須永さんも通う中で「静かで、ゆったりとした時間が流れる場所」と感じたという。
また周囲と比べ物価が安い点も魅力だという。周囲には歴史的な建物や町並みも多く、文化的な面でも魅力を感じる場所だ。
須永さんは、「もっと多くの人にしもまちの魅力を知ってもらいたい」と強く感じている。
◎須永さんの今後の展望
プロジェクトを通して須永さんは、改めて受動的な授業や活動より能動的な体験が好きだと気付いたという。新潟の地域で活動する須永さんは「もっと新潟を知りたいから色々な場所に行きたい。行って話を聞いて地元の人にまち歩きを案内してもらうとかすると、本当に見え方が変わって面白いなって思うから」と笑顔で語った。
また今後については、「明確ではないけれど、自分がワクワクすることは地域課題の探求や、みんなで一緒に何かを成し遂げることだから、そういった活動に関わっていきたい」と語った。
須永さんは最後に、「まちやその地域を素敵だなと思ってくれる母数が増えたら本当に実行してくれる人も増えるかもしれないから、大事な活動だと思うが難しさも感じる」と語った。
こうした学生の姿は、少なからずその地域へ影響をもたらしていると感じられる。今後の須永さんの活動や活躍にも注目したい。
文・畑野美紀
経済科学部総合経済学科地域リーダープログラム2年(掲載時)
作成日:2025年1月28日