東大物性研、擬一次元量子反強磁性体の磁区観察に成功 - 次世代エレクトロニクスへの応用に期待:注目ニュース✨
発表日:2024年8月22日
反強磁性体、特に擬一次元量子反強磁性体は、次世代エレクトロニクスへの応用が期待される重要な研究対象です。しかし、これらの物質の磁区観察は、低い磁気転移温度とスピンの小さな秩序化成分のため、従来の手法では困難でした。
大阪公立大学、東京大学、東京大学物性研究所の研究グループは、擬一次元量子反強磁性体BaCu2Si2O7の方向二色性を利用して、光学顕微鏡による磁区観察に成功しました。この画期的な成果は、2024年8月22日に国際学術誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。
研究の背景
反強磁性体は、電子のスピンが互いに反対向きに並ぼうとする力(反強磁性相互作用)が働く物質です。通常の反強磁性体では、磁気転移温度以下でスピンが秩序化しますが、完全には定まらず揺らいでいます。この量子揺らぎは、次世代エレクトロニクスへの応用の観点から注目されています。
強磁性体と反強磁性体については、こちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇
擬一次元量子反強磁性体は、小さなスピン量子数をもった磁性イオンがチェーン状に配列した構造を持ち、量子揺らぎが顕著に現れる代表的な系です。これらの物質は、反強磁性磁区と量子揺らぎの関連性を探究するのに適していると考えられていますが、その磁区観察は困難でした。
研究内容
研究グループは、方向二色性という光学現象を利用して磁区を可視化する手法を開発しました。方向二色性は、スピンの方向を反転すると物質の光吸収の度合いが変化する現象で、空間反転対称性と時間反転対称性の破れが必要です。
BaCu2Si2O7は、最小のスピン量子数(S = 1/2)をもつ銅イオン(Cu2+)がジグザグのチェーン状に並んだ構造を持ち、方向二色性が発現すると考えられました。研究グループは、この物質の光学的性質を調べ、方向二色性が現れる条件を特定しました。
光学顕微鏡を用いてBaCu2Si2O7の単結晶試料を観察した結果、明瞭なコントラストが確認され、明暗の領域がそれぞれ異なる磁区に対応していることが分かりました。また、磁区の境界(磁壁)は直線状で、ジグザグ鎖の方向と一致していることも判明しました。
さらに、一定の外部磁場を与えた状態で電場を印加すると、磁壁が移動することが観察されました。この移動の前後で磁壁の方向が保たれていることも発見されました。
研究の意義と今後の展開
本研究は、擬一次元量子反強磁性体の磁区パターンを初めて観察し、磁壁の制御に成功した画期的な成果です。この簡便な光学的手法により、今後はリアルタイムでの磁壁の動きの可視化も期待されます。
反強磁性体は、強磁性体よりも磁気的な外乱に強く、素子の高密度化や高速動作が可能とされ、次世代メモリなどへの活用が期待されています。
次世代メモリ技術にも様々ありますが、相変化メモリ(PCA)についてはこちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇
本研究で開発された観察手法を様々な擬一次元量子反強磁性体に適用することで、量子揺らぎが反強磁性磁区の形成や磁壁の運動に与える影響についての新たな知見が得られ、反強磁性体を用いた次世代エレクトロニクスの設計に貢献すると期待されます。
まとめ
擬一次元量子反強磁性体BaCu2Si2O7の磁区観察に成功
方向二色性を利用した光学顕微鏡による新しい観察手法を開発
電場印加による磁壁の移動を確認
量子揺らぎと反強磁性磁区の関係解明に向けた重要な一歩
次世代エレクトロニクス開発への貢献が期待される
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専門用語解説
反強磁性体:隣り合う電子のスピンが互いに反対方向を向くように秩序化する物質
擬一次元量子反強磁性体:磁性イオンがチェーン状に配列し、量子揺らぎが顕著な反強磁性体
スピン:電子が持つ角運動量で、物質の磁気的性質を決定する
量子揺らぎ:量子力学的な効果によって生じる物理量の揺らぎ
方向二色性:スピンの方向反転により物質の光吸収の度合いが変化する現象
磁区:磁性体内部で磁化の向きが一様な領域
磁壁:異なる磁区の境界
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