![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/164795235/rectangle_large_type_2_3570bfe92b2ceba7098771e8b4e8ae93.png?width=1200)
産総研が開発した新材料GaScNがメモリデバイスに及ぼす影響とは?
産業技術総合研究所(産総研)と東京科学大学の研究チームが、次世代の低消費電力不揮発性メモリの有力候補となる新材料を開発しました。
この発表のポイントは以下の通りです。
強誘電体メモリに使用する新材料として、窒化ガリウム(GaN)に金属添加物(Sc)を従来より高濃度に添加した、GaScN結晶を開発
開発したGaScNでは、従来の窒化物材料と比べ、メモリ動作に必要な電圧が6割減となる
揮発性メモリを使ったデバイスの低消費電力化に期待
この画期的な成果は、IoTやAIの普及に伴う情報機器の低消費電力化ニーズに応える可能性を秘めています。
この記事では、本技術について詳しく見ていきましょう!
![](https://assets.st-note.com/img/1733553040-XNMIJLC28nW45ckPhEgvldr7.png?width=1200)
(出所:https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241204_2/pr20241204_2.html)
研究の背景
IoTやAIの普及が進むにつれ、使用されるデバイスの消費電力やCO2排出の増大が懸念されており、デバイスの低消費電力化が求められています。ストレージクラスメモリと言われるデバイスもその一つで、低消費電力の不揮発性を有する強誘電体メモリの活用が期待されています。
強誘電体は、外部の電場が無くても自発的に分極する誘電体材料の一種です。詳細はこちらの記事で説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇
ストレージクラスメモリ用の強誘電体メモリに使用する材料として、さまざまな元素添加したHfO2(HfO2系)が有力視されています。しかし、耐熱性に直結する結晶の安定性や作製プロセスのコスト・環境負荷の高さなどのさまざまな課題があります。
一方、GaScNは安定な結晶で耐熱性に優れており、分極値がHfO2系の4倍以上と強誘電体の中でも最大級の分極値をもつこと、また、GaScNはスパッタリング法という簡便な方法で環境負荷も比較的小さな方法で作製できることから、GaScNを用いた優れたメモリデバイスの実現が期待されています。
しかし、分極を反転させるのに必要な電界強度(抗電界)が、HfO2系よりも2倍程度大きいことが、GaScNの弱点でした。この電界強度は、GaScNを使った強誘電体メモリの動作電圧と比例するため、抗電界の低減は重要な課題です。
抗強度について図を使ってもう少し分かりやすく説明したいと思います。例えば、図中の赤の矢印のように、強誘電体に印加する電界を変えていくと、あるところで下向きの分極が上向きの分極に変わります。
このときの電界が抗電界です。強誘電体の抗電界を小さく設計できると、分極を操作するために必要な電圧を抑えることができます。すなわち、強誘電体メモリとして材料を使用した際の、消費電力の抑制につながります。
またオレンジの矢印のように電界をゼロに下げたときの分極を残留分極と言います。残留分極が大きい方がメモリの高集積化が期待できます。
![](https://assets.st-note.com/img/1733554105-i5HWpIj9sckaPVZfRwozMFme.png)
(出所:https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241204_2/pr20241204_2.html)
この抗電界を下げるためには、GaScN結晶内のSc濃度を高めることが効果的だとこれまでの研究成果から考えられています。しかし、Sc濃度を高めると結晶性が低下し強誘電性を示さなくなります。
これまでの実験では強誘電性を維持できるSc濃度の上限は44%であり、Sc濃度をできるだけ高めつつ結晶性を下げずに強誘電性を発揮させることが求められていました。
本研究の内容
今回、統計学的手法を駆使して作製プロセスを最適化した結果、GaScNの結晶性を保ちつつSc濃度を53%(過去最高の濃度)にまで高めることに成功しました。
また、Scの高濃度化により抗電界が大幅に小さくなりました。表1や図3に示すように、最も小さい抗電界の値は約1.5 MV/cmで従来のGaScN(Sc濃度44%)の半分以下であり、窒化物強誘電体としては世界最小値です。
この値は現在強誘電体メモリの素材として注目されているHfO2系と同等レベルであり、高い残留分極を持ちつつ低い抗電界を示す強誘電体の開発に成功したと言えます。
![](https://assets.st-note.com/img/1733554458-ksh0dciqbNUXwy9DTQZrL3vF.png)
(出所:https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241204_2/pr20241204_2.html)
![](https://assets.st-note.com/img/1733553487-gXRDckQmdoaKENn4jiFJx0Wq.png?width=1200)
(出所:https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241204_2/pr20241204_2.html)
今後の展望
強誘電体メモリの素材となる、Sc濃度を高めたGaScNを新たに開発し、低消費電力で動作する強誘電体メモリ実現の見通しが立ちました。
今後は分極反転のメカニズムの解明の他、基板や電極との界面の強誘電性への影響などの調査を進めることで、強誘電体メモリデバイスの製作に向けた、GaScNの材料としての特性制御技術の確立に取り組む模様です。
また、トンネル接合型強誘電メモリという消費電力を最も低くできるメモリが考えられていますが、未だ実用化されていません。大きな残留分極をもち、抗電界の小さいGaScNはその素材として期待できますが、一層の薄膜化が必要です。
まとめ
産総研と東京科学大学の研究チームが低消費電力メモリ向け新材料GaScNを開発
GaScNは従来材料比で動作電圧6割減、世界最小の抗電界値を達成
10の8乗回の書き込み耐性など、高い耐久性を実証
低温製膜技術の確立により、他のデバイス構成素材との親和性向上
今後、さらなる特性向上と実用化に向けた研究開発を継続
この革新的な研究成果は、次世代の低消費電力不揮発性メモリの実現に大きく貢献し、IoTやAI時代のデバイス技術の進化を加速させる可能性を秘めています。
専門用語解説
強誘電体メモリ: 強誘電体の分極を利用した不揮発性メモリ
GaScN: 窒化ガリウムにスカンジウムを添加した新材料
抗電界: 強誘電体の分極を反転させるのに必要な電界強度
残留分極: 電界をゼロにしたときに残る分極
スパッタリング法: 薄膜を形成する物理的蒸着法の一種
#GaScN #強誘電体メモリ #低消費電力 #次世代デバイス #材料開発
参考文献
おすすめ記事
いいなと思ったら応援しよう!
![半導体Times](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/146049167/profile_4f9c6e2dbb6dccd878c8538d46ac684c.png?width=600&crop=1:1,smart)