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東京大学が開発した磁場でも制御可能なメモリとは?:注目ニュース✨

発表日:2025年1月10日

みなさんこんにちは!今日は、東大が発表した新たなメモリ技術が興味深かったので、取り上げたいと思います💡

まず、今回の発表のポイントを引用しておきます👇

◆ 強磁性体/酸化物/半導体多層膜を電極とし半導体をチャネルとした二端子素子を作製し、定電圧下において、印加された磁場の履歴を記憶でき、それを巨大な抵抗変化として読み出せるメモリ(メモリスタ)を実現しました。
◆ 最大で32,900%の巨大な磁気抵抗比を実現しました。この値は磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)に利用されている素子の磁気抵抗比の30~100倍程度の値です。
◆ 本研究成果は、これまで別々に研究されてきたメモリスタとスピントロニクスデバイスを結びつけるもので、新たな機能性デバイスの実現につながるものと期待されます。

東大PR(https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-01-10-001
実験結果から想定されるデバイスの動作原理

研究の背景

メモリスタとは入力電圧の履歴に基づいて抵抗が変化するデバイスで、次世代メモリやインメモリコンピューティング、さらに近年はニューロモルフィックコンピューティングなどへ応用できるものとして注目されています。

メモリスタは通常、絶縁層を金属電極層で挟んだ二端子デバイスで構成されています。代表的な動作原理としては、絶縁層中の酸素空孔や金属原子が電圧の印加によって移動し、絶縁層内に導電性のフィラメントが形成されて電流の大きさが変化する抵抗スイッチ効果などがあります。

メモリスタの概要(引用元:https://image.itmedia.co.jp/l/im/ee/articles/2410/03/l_mm241003_tdk01_w290.jpg)

これまでメモリスタの抵抗を電圧で制御する研究は盛んに行われてきましたが、メモリスタの磁場依存性についてはあまり研究が行われてきませんでした。

メモリスタが、印加された電圧の履歴に加えて磁場の履歴も記憶できるようになれば、磁気メモリへの応用が可能となり、メモリや論理回路、さらにはニューラルネットワークにおいて有用な新たなデバイスの実現につながります。

磁場の履歴を記憶できる電子デバイスとしては、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)が長く研究されてきており、現在商用化されています。MRAMは電源を切ってもデータが消えないデバイスで、消費電力が小さく高速に動作することから広く研究がなされています。

MRAMの動作原理(引用元:https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1806/11/news121.html)

MRAMに利用されている素子の磁気抵抗比は、過去のさまざまなブレークスルーにより少しずつ向上してきていますが、現在千%以下となっています。さらに磁気抵抗比を大幅に増加させるためには、従来とは根本的に異なる動作原理を実現する必要があります。

研究内容

今回、研究グループは、コバルト(Co)、鉄(Fe)、酸化マグネシウム(MgO)、ボロン添加Ge(Ge:B)およびGeからなる多層膜を電極としn型の半導体ゲルマニウム(n--Ge)をチャネルとする二端子デバイスを作製しました。

図1(a)に示すように、3 Kの低温において、この素子に一定の電圧を印加して外部磁場の大きさを変化させると、抵抗が大きく変化することがわかりました。

素子が低抵抗になった状態で磁場の掃引方向を変えると、磁場の履歴を反映してその抵抗に近い状態が維持され、しばらくして高抵抗状態に戻ることが分かりました。

このようにして磁場の履歴に応じて抵抗を保持できることがわかりました。最も大きなところで32,900%の大きな磁気抵抗比が得られました。本素子では、電流-電圧特性に特異な2段階の抵抗スイッチが見られました(図1(b))。

図1:研究グループが得た測定結果の例 (a)温度3 Kにおいて17 Vの電圧を素子に印加した状態で磁場を変化させたときの電極間の抵抗。面内に小さなオフセット磁場を印加して測定している。(b)3 Kにおける電流―電圧特性。磁場によって抵抗のスイッチング電圧が変化している。

上記の磁場履歴の記憶機能は、これらのうち高電圧側の抵抗スイッチで得られたものですが、低電圧と高電圧領域のスイッチングのどちらにおいても、スイッチングの起こる電圧を磁場により制御できることが分かりました。

社会的意義・今後の予定

本研究では、これまで未開拓であったメモリスタの磁場依存性と印加電圧の履歴依存性を組み合わせて新しい機能を実現しました。

本成果は、従来の限界を超える高性能の磁気メモリやセンサなどの実現に向けた基盤技術となる可能性があります。また、磁場により特性を調整できる新しいニューロモルフィックデバイスの開発にもつながる可能性があり、次世代AI技術の発展を後押しするものと期待されます。

動作温度はまだ3 Kの極低温に限られていますが、研究グループが提案した2つのモデルに基づいて、MgO層のMg空孔濃度を増やして太いフィラメントを形成したり、チャネル長や不純物濃度を調整したりすることで、高性能化が可能となることも期待されます。

まとめ

いかがでしたか?今回は、東大が発表した新たなメモリ技術を紹介してみました。磁気を使って、これだけの抵抗変化が生じるのは驚きです😲

3Kという超低温が求められるということなので、応用先としては量子コンピューターなど、ごく限られた用途になりそうですが、今後も技術動向には要注目ですね。

この記事が勉強になったよという方は、スキお待ちしています🥰

今後も、半導体やテクノロジーに関する分かりやすい記事をお届けしますので、見逃したくない方はフォローも忘れないでくださいね!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

専門用語

  • メモリスタ:過去に流れた電流の履歴によって抵抗の大きさが変わる素子

  • 磁気抵抗比:磁場による抵抗の変化の大きさを表す指標。高抵抗状態から低抵抗状態の抵抗を引いた値を低抵抗状態の抵抗で割ったもの。

  • 磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM):強磁性体/薄い絶縁体/強磁性体からなる3層構造に垂直に電流を流した際に、2層の強磁性体の磁石の向きによって抵抗が変わる性質を利用したメモリ。

  • スピントロニクスデバイス:電子がもつスピン角運動量やスピン磁気モーメントの向きの自由度を活用したエレクトロニクスデバイス。

  • ニューロモルフィックコンピューティング:人間の脳の神経細胞(ニューロン)の機能を模倣したコンピューティング手法。

  • インメモリコンピューティング:メモリ内部でデータの記憶のみならず演算処理までを行うことにより、データの移動に伴う電力消費を削減することを可能とする情報処理方式。

  • 空孔:一部の原子が、結晶中の本来あるべき位置から抜けた箇所。

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参考文献


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