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トポロジカル材料とは?:物質の内外で電子状態が異なる材料💡

トポロジカル材料は、物理学と数学の融合から生まれた新しい物質群です。この材料は、従来の金属・半導体・絶縁体の分類では説明できない特異な性質を持ち、次世代のエレクトロニクスデバイスや量子コンピューティングなどの分野で革新をもたらす可能性を秘めています。

この記事では、トポロジカル材料について詳しく説明していきますので、最後まで読んで行ってください💡


トポロジカル材料の歴史

トポロジカル材料の概念は、2000年以降に急速に発展しました。その特徴的な性質は、物質の内部と表面で異なる電子状態を示すことです。

例えば、トポロジカル絶縁体は、内部が絶縁体であるにもかかわらず、表面では特異な金属状態が実現しています。この特異な表面状態は、トポロジーという数学的概念に基づいて保護されているため、非磁性の欠陥や不純物に対して非常に堅牢(ロバスト)な性質を持っています。

この特性は、従来の材料では実現が困難だった新しいデバイスの開発につながる可能性があります。

通常の金属では表面も内部も電流が流れるのに対して、トポロジカル絶縁体では表面だけに電流が流れる(引用元:https://www.tel.co.jp/museum/magazine/material/150327_crosstalk01/02.html)

トポロジカル材料の種類と特徴

トポロジカル材料には、いくつかの種類があります。主なものを紹介しましょう。

  1. トポロジカル絶縁体
    内部は絶縁体ですが、表面(3次元の場合)や端(2次元の場合)に特異な金属状態が現れます。この表面状態を流れる電子は、質量がほぼゼロで、スピンの向きが揃っているという特徴があります。

  2. トポロジカル超伝導体
    この材料の中には、マヨラナ粒子と呼ばれる特殊な準粒子が存在する可能性があります。マヨラナ粒子は、粒子と反粒子が同一であるという特異な性質を持ち、量子コンピューティングへの応用が期待されています。

  3. ワイル半金属
    結晶構造に由来した偶数個のワイル点を持つ材料です。ワイル点は、電子のスピンの湧き出しと吸い込みの関係にあり、特異な電子構造を形成します。

  4. スキルミオン
    実空間でトポロジーに保護された特殊な磁気構造です。向きのそろった電子スピン(磁石)の中で、一部の電子スピンが渦状に並んでいます。一方、アンチスキルミオンの渦は巻き方が違います。どちらの渦も非常に多くの電子スピンでできているが、電子スピン間の距離はとても短いので、渦の直径は1メートルの1億分の1ほどです。

(左)スキルミオン。(右)アンチスキルミオン。
(引用元:https://www.riken.jp/pr/closeup/2021/20210607_1/index.html)

トポロジカル材料の応用可能性

トポロジカル材料は、その特異な性質から、様々な分野での応用が期待されています。

  1. スピントロニクス
    トポロジカル絶縁体の表面状態が示す高効率なスピン運動量ロッキングを利用して、従来よりも効率的なスピン流の生成や制御が可能になると考えられています。これにより、低消費電力で動作する新しい電子デバイスの開発につながる可能性があります。

  2. 量子コンピューティング
    トポロジカル超伝導体中に存在する可能性のあるマヨラナ粒子は、量子ビットとして利用できる可能性があります。これにより、外部からのノイズに強い量子コンピュータの実現につながるかもしれません。

  3. 高密度・高速メモリ
    スキルミオンは、その特殊な磁気構造から、高密度かつ高速な磁気メモリとしての応用が期待されています。特に、外部磁場ゼロで室温においてスキルミオン格子を安定に保持する物質の発見は、実用化に向けて重要な進展です。

  4. センサーや熱電変換素子
    ワイル半金属では、その特異な電子構造に起因して、巨大な異常ホール効果や異常ネルンスト効果が発現します。これらの効果を利用した高感度な磁気センサーや効率的な熱電変換素子の開発が進められています。

先日、茨城大学らがトポロジカル材料を使った熱電変換技術の開発を開始しました。詳しくはこちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇

研究開発の現状と課題

トポロジカル材料の研究は、理論と実験の両面で急速に進展しています。理論面では、物質の対称性と電子構造を結びつける新たな分類法が確立されつつあります。

Topological Materials Databaseと呼ばれるウェブサイトでは、元素を選択するだけで物質の対称性と電子構造の計算結果を表示し、トポロジカルな構造を持つかどうかを示してくれます。

https://www.topologicalquantumchemistry.com/#/

実験面では、薄膜や界面を用いたデバイス化技術の構築が進められています。例えば、量子異常ホール効果を示す材料では、磁化の方向を制御することで、エッジチャネルの伝導を制御する技術が低温で実証されています。

しかし、実用化に向けてはまだいくつかの課題があります。例えば、多くのトポロジカル材料は、その特異な性質を示すのが極低温に限られています。室温で動作する材料の開発が求められています。

また、トポロジカル材料の特性を活かしたデバイスの作製技術も、さらなる発展が必要です。特に、薄膜や界面の精密な制御技術は、デバイスの性能を左右する重要な要素となります。

まとめ

  • トポロジカル材料は、従来の物質分類では説明できない特異な性質を持つ新しい物質群です。

  • トポロジカル絶縁体、トポロジカル超伝導体、ワイル半金属、スキルミオンなど、様々な種類があります。

  • これらの材料は、スピントロニクス、量子コンピューティング、高密度メモリなど、次世代技術への応用が期待されています。

  • 理論と実験の両面で研究が急速に進展していますが、室温動作や精密な制御技術など、実用化に向けてはまだ課題が残されています。

  • トポロジカル材料は、エレクトロニクスや情報処理技術に新たなパラダイムをもたらす可能性を秘めた、非常に興味深い研究分野です。

この記事が勉強になったよという方は、スキお待ちしています🥰

今後も、半導体やテクノロジーに関する分かりやすい記事をお届けしますので、見逃したくない方はフォローも忘れないでくださいね✨

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

#トポロジカル材料 #量子コンピューティング #スピントロニクス #ワイル半金属 #スキルミオン

参考文献

https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2020/FR/CRDS-FY2020-FR-03/CRDS-FY2020-FR-03_20505.pdf


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