スパコン(スーパーコンピューター)とは?
一言で言えば…
並列処理や特殊なハードウェアやソフトウェアアーキテクチャを使用して、大規模な問題を高速かつ効率的に解決できる高性能コンピューターです。
「計算速度が〇〇以上のコンピュータ」のように定義できないのは、スパコンの性能が27年間で100万倍以上というスピードで進歩しているからです。
スパコンの計算能力は、通常フロップス(FLOPS: Floating Point Operations Per Second)という単位で測定され、ペタフロップス(1秒間に10の15乗回の浮動小数点演算)やエクサフロップス(1秒間に10の18乗回の浮動小数点演算)といった規模に達しています。
スパコンの高速計算の仕組み
スパコンが高速に計算を行うための仕組みは、いくつかの重要な要素に基づいています。それぞれの要素が協力して動作することで、並外れた計算性能を実現しています。
1. 並列処理
スパコンの最大の特徴の一つは、並列処理能力です。並列処理とは、複数のプロセッサ(CPUやGPU)を同時に動作させて、一つの大きな問題を分割して処理する手法です。現代のスパコンは、数万から数十万のプロセッサを備えており、それぞれが並行して計算を行います(例えば富岳には約15万個のプロセッサが入っています)。
例えば、気象予測モデルでは、地球全体を小さな格子に分割し、各格子点での計算を並列に処理します。この方法により、大規模なシミュレーションを短時間で実行することが可能になります。
2. 高速なネットワークインフラ
多数のプロセッサが並行して動作するためには、それらが高速かつ低遅延で通信できるネットワークが必要です。スパコン内部では、専用の高性能インターコネクト(例えば、InfiniBandやオムニパスなど)を用いて、プロセッサ間の通信を効率化しています。これにより、データの共有や同期が迅速に行われ、全体の処理速度が向上します。
3. 大容量のメモリと高速ストレージ
スパコンでは、巨大なデータセットを扱うために、大容量かつ高速なメモリとストレージが求められます。メインメモリ(RAM)は、計算中に必要なデータを迅速に読み書きするために不可欠です。また、高速ストレージ(SSDやNVMeなど)は、計算結果や中間データの保存に使用されます。最新のスパコンでは、これらのメモリやストレージも並列化され、データの読み書き速度が飛躍的に向上しています。
4. 専用のハードウェア
スパコンには、特定の計算タスクに特化した専用ハードウェアも搭載されています。例えば、GPU(Graphics Processing Unit)は、大量の並列計算を得意とするため、AIのトレーニングやシミュレーションにおいて広く利用されています。また、最近では、TPU(Tensor Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの新しい専用プロセッサも導入され、特定のアルゴリズムに最適化された計算を行うことで、さらなる性能向上を図っています。
5. 高度なソフトウェア技術
ハードウェアがどれほど優れていても、それを効果的に利用するためのソフトウェアが必要です。スパコンでは、並列処理を効率化するためのプログラミングモデル(MPI: Message Passing InterfaceやOpenMPなど)や、最適化されたライブラリ(例えば、BLAS: Basic Linear Algebra SubprogramsやFFT: Fast Fourier Transform)などが活用されています。また、ジョブスケジューラと呼ばれるソフトウェアが、リソースを効率的に分配し、計算タスクの管理を行っています。
スパコンの応用例
スパコンは、その圧倒的な計算能力を活かし、多くの分野で革新をもたらしています。以下にいくつかの具体例を挙げます。
気象予測
気象予測は、膨大なデータを処理し、複雑な物理モデルを解く必要があるため、スパコンが不可欠です。高度な予測モデルを用いることで、より正確な天気予報や災害の早期警戒が可能になります。
医学と生命科学
スパコンは、ゲノム解析や薬物設計にも利用されています。例えば、新薬の開発では、化合物の仮想スクリーニングや分子動力学シミュレーションを通じて、候補物質の効果を予測することができます。
基礎科学
物理学や化学の分野でも、スパコンは重要な役割を果たしています。例えば、宇宙の形成過程をシミュレーションしたり、材料の特性を予測したりする研究において、スパコンの計算能力が不可欠です。
工学と産業
スパコンは、航空機や自動車の設計にも活用されています。流体力学シミュレーションや構造解析を行うことで、安全性や性能を向上させるための設計が可能になります。
(最新2024年6月版)世界Top500にランクインしている日本のスパコンTop5
1993年から1年に2回、世界中に存在するスパコンの性能を比較した結果が、TOP500(トップ500)という形で最新のリストが発表されています。
目的は、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)における傾向を追跡・分析するための信頼できる基準を提供することであり、コンピュータの計算科学応用向け性能の評価に適したいくつかのベンチマークの実行結果によりランク付けが行われています。
今回は最新の2024年6月発表のランキングの中で、Top100にランクインしている日本のスパコンTop5を紹介したいと思います。
第4位(日本1位):富岳
富岳(ふがく)は、日本の理化学研究所(RIKEN)と富士通が共同で開発したスーパーコンピュータです。2020年に正式運用が開始され、以来、世界トップクラスの計算性能を誇るスパコンとして知られています。その名前は、日本の象徴である富士山に由来しています。
所属機関:理化学研究所
設置企業:富士通
コア数:7,630,848
Rmax(PFlop/s):442.01
Rpeak(PFloap/s):537.21
Power(kW):29,899
第31位(日本2位):TSUBAME4.0
TSUBAME4.0は、東京工業大学(Tokyo Institute of Technology、略称:東京工大)が開発および運用するスーパーコンピュータの一つです。TSUBAMEシリーズの最新モデルであり、前世代のTSUBAME3.0の後継機として設計されました。
設置機関:東京工業大学
製造企業:HPE(ヒューレットパッカードエンタープライズ)
コア数:172,800
Rmax(PFlop/s):25.46
Rpeak(PFloap/s):25.46
Power(kW):732
第39位(日本3位):ABCI 2.0
ABCI 2.0(AI Bridging Cloud Infrastructure 2.0)は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST)が運営するスーパーコンピュータで、人工知能(AI)研究および開発のために特化されたプラットフォームです。ABCIの第2世代であり、前身のABCIを大幅に強化したものです。
設置機関:産業技術総合研究所(AIST)
製造企業:富士通
コア数:504,000
Rmax(PFlop/s):22.21
Rpeak(PFloap/s):54.34
Power(kW):1,600
第40位(日本4位):Wisteria/BDEC-01 (Odyssey)
Wisteria/BDEC-01 (Odyssey)は、日本の東京大学情報基盤センター(Information Technology Center, The University of Tokyo)が運用するスーパーコンピュータです。このシステムは、2021年に導入されたもので、東京大学と九州大学の共同プロジェクトとして開発されました。
設置機関:東京大学情報基盤センター
製造企業:富士通
コア数:368,640
Rmax(PFlop/s):22.12
Rpeak(PFloap/s):25.95
Power(kW):1,468
第61位(日本5位):AOBA-S
AOBA-Sは東北大学サイバーサイエンスセンターに設置されており、2023年8月から運用されています。
設置機関:東北大学サイバーサイエンスセンター
製造企業:NEC
コア数:64,512
Rmax(PFlop/s):17.22
Rpeak(PFloap/s):19.82
Power(kW):1,389
このほかにも、Top100の中には、JAXAのTOKI-SORA(64位)、気象庁のPRIMEHPC FX1000(77位)など、14機関のスパコンがランクインしています。
富岳は現在は世界4位ですが、以前は1位だったので、Post富岳にも期待したいところですね。
まとめ
スパコンは、その高い計算能力を支える様々な技術の結集によって、科学技術の発展に寄与しています。並列処理、高速ネットワーク、大容量メモリ、専用ハードウェア、そして高度なソフトウェア技術が組み合わさることで、スパコンは現代の最も複雑で計算集約的な問題に対する強力な解決手段を提供しています。今後も、スパコンの進化は続き、新たな可能性を切り開いていくことでしょう。
参考文献
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