圧電素子とは?
圧電素子(Piezoelectric Element)は、特定の結晶体が機械的な応力を受けると電荷を生成する現象を利用したデバイスです。
この現象は1880年にフランスの物理学者ジャック・ピエール・キュリー兄弟によって発見されました。彼らは石英、水晶、トルマリンなどの結晶が圧力を加えられると電荷を生じることを発見しました。
この効果は逆にも働き、電圧を加えると形状が変化するという特性もあります。この双方向の特性は「圧電効果(piezoelectric effect)」と呼ばれ、様々な応用に利用されています。
圧電素子の構造とメカニズム
圧電素子は、通常、圧電材料(例えば、チタン酸ジルコン酸鉛、PZT)を利用して作られます。これらの材料は、結晶構造内に対称性がないため、外部からの力によって結晶内の電荷分布が変化し、電圧が発生します。逆に、電場を加えると結晶が変形し、機械的な変位を生じます。
圧電効果のメカニズムについて詳しく見ていきます。
圧電効果の発現
圧電効果は、材料の結晶格子が変形する際に発生します。例えば、圧力を加えると、結晶内の原子の位置がわずかに移動し、電荷の偏りが生じます。この電荷の偏りが電圧を生成します。逆に、電圧を加えると、結晶内の電荷分布が変化し、結晶が機械的に変形します。結晶構造の重要性
圧電材料の特性は、その結晶構造に依存します。代表的な圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は、ペロブスカイト型の結晶構造を持ち、これが圧電効果を発現する要因となります。PZTの結晶格子は、対称性が低いため、応力や電場に対して敏感に反応し、圧電効果を示します。双方向の効果
圧電効果は双方向に働きます。すなわち、機械的な応力を電圧に変換する「直接圧電効果」と、電圧を機械的変位に変換する「逆圧電効果」があります。これにより、圧電素子はセンサー(応力を検出して電圧に変換)としても、アクチュエータ(電圧を加えて機械的変位を発生)としても利用されます。
より厳密に述べると、力が加わることによって結晶内部のプラスイオンとマイナスイオンの位置が変化することで、プラスとマイナスの電荷の偏りが生じます。この偏りのことを電気分極と言い、電圧が発生する原因になります。
圧電材料の具体例
圧電材料はその形態や構造に応じて、単結晶、セラミックス、薄膜の3種類に大きく分類されます。
1. 単結晶
単結晶は、結晶方位が一定に揃っている物質で、粒界が存在しないため、特定の結晶方位を使用することで大きな圧電性が得られます。
代表的な材料には、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)が含まれます。
2. セラミックス
セラミックスは、圧電性を有する非金属・無機固体材料です。代表的な材料には、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)があり、高い圧電性能を有します。
3. 薄膜
薄膜は、無機または有機の薄膜材料で、代表的な材料には、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)があります。
圧電セラミックスの中でも大きな圧電性を示すチタン酸ジルコン酸鉛〔Pb(Zr・Ti)O3〕は通称PZTと呼ばれ、ペロブスカイト型と言われる結晶構造を持つ強誘電体です。
チタン酸鉛〔PbTiO3〕とジルコン酸鉛〔PbZrO3〕を基本組成とし、この2成分の混合比を変えることで圧電・誘電・弾性などの物理特性をコントロールできますので、用途に適した圧電セラミックス材料を創ることができます。
圧電定数
圧電定数は、圧電材料の性能を評価するための重要なパラメータです。形状や方向性などの一定条件を必要とし、これらの条件をベクトル量やテンソル量などで各々の記号を用いて表します。
代表的な圧電定数には、以下のような種類があります:
d定数(圧電歪み定数):電場に対する機械的変位の比率を示します。例えば、d33は電場がz方向にかかるときのz方向の変位を示します。
g定数(圧電電圧定数):機械的応力に対する電場の比率を示します。例えば、g33はz方向の応力に対するz方向の電場を示します。
k定数(機械的結合係数):圧電材料のエネルギー変換効率を示します。例えば、k33はz方向の電場とz方向の機械的エネルギーの結合効率を示します。
これらの定数は、材料の特性や用途に応じて選定され、最適な性能を発揮するために重要です。
圧電素子の応用例
センサー
圧電素子は、加速度センサー、圧力センサー、音響センサーとして広く利用されています。例えば、加速度センサーは、自動車のエアバッグシステムにおいて衝撃を検知するために使われます。
圧力センサーは、工業用の圧力計測や医療用の血圧計などに利用されています。
音響センサーは、マイクロフォンや超音波探傷器に用いられています。アクチュエータ
圧電素子は、精密な動きを必要とするアクチュエータとしても利用されています。例えば、インクジェットプリンターのノズル制御や光ディスクドライブのレンズアクチュエータなどが挙げられます。これらのデバイスは、非常に細かい動きを要求されるため、圧電素子の高い応答性が求められます。トランスデューサ
圧電素子は、エネルギー変換器としても利用されています。例えば、超音波画像診断装置(エコー)では、圧電トランスデューサが電気信号を超音波に変換し、体内の画像を生成します。また、魚群探知機や海底地形探査機にも利用されています。
圧電素子の利点と課題
圧電素子は、電力供給が不要で、高い感度と応答性を持つという利点があります。これにより、電力供給が困難な場所や、高速応答が求められる用途に適しています。
しかし、圧電材料には温度依存性があり、高温環境では性能が低下するという課題があります。また、圧電材料の中には鉛を含むものがあり、環境への影響が懸念されています。このため、鉛フリーの圧電材料の開発が進められています。
まとめ
圧電素子は、機械的な応力に対して電荷を生成する特性を持つデバイスである。
圧電素子は、加速度センサー、圧力センサー、音響センサー、アクチュエータ、トランスデューサなど、幅広い応用分野で利用されている。
圧電素子の利点には、電力供給が不要で高い感度と応答性を持つことが挙げられる。
圧電素子の課題には、温度依存性と鉛を含む材料の環境影響がある。
鉛フリーの圧電材料の開発が進められている。
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参考文献
https://www.fujicera.co.jp/wpkanri/wp-content/uploads/2022/02/694317d8e3f1152d117a667adf543042.pdf
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