東京大学、新たな構造解析手法である結晶スポンジ法を提案:注目ニュース✨
発表日:2024年11月6日
結晶スポンジ法は、2013年に東京大学の藤田誠卓越教授らによって発表された構造解析技術です。この手法の特徴は以下の通りです:
従来の単結晶X線回折法では必要だった化合物の結晶化工程が不要。
内部にナノメートルサイズの孔を持つ多孔性結晶(MOF:金属有機構造体)を使用。
解析対象分子をナノ空間に染み込ませて捕捉し、規則正しく配列させることで構造を決定。
この技術により、わずか80ナノグラムという極微量のサンプルでも結晶構造解析が可能になりました。これは、「単結晶X線構造解析の100年問題」と呼ばれる課題を解決する画期的な進歩です。
新開発の結晶スポンジの特長と従来法との比較
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の佐藤宗太特任教授と株式会社ダイセルの共同研究グループが開発した新しい結晶スポンジには、以下のような特長があります:
親水的な細孔内環境:従来の疎水的な環境と異なり、極性の高い分子にも適用可能。
高い安定性:物理的・化学的に安定で、耐溶剤性と耐真空性を備える。
アミド基の導入:有機配位子にアミド基を導入し、高い安定性と親水性を実現。
真空下での安定性:溶媒分子を完全に除去しても構造を安定に保持。
拡大された解析対象範囲:より多様な有機化合物を細孔内に取り込み可能。
従来の結晶スポンジと比較すると、新開発のものは極性分子への適用性が大幅に向上し、より安定な構造を持つことが特筆されます。
新技術:GC分取×ダイレクト結晶スポンジ法
研究グループは、この新しい結晶スポンジの特性を活かし、ガスクロマトグラフ(GC)分取と結晶スポンジ法を組み合わせた新規構造解析手法「GC分取×ダイレクト結晶スポンジ法」を開発しました。この手法により、複数の香気成分の構造を効率的に決定することに成功しています。
研究成果の具体的応用例と将来展望
この新たな結晶スポンジの開発は、以下のような分野での応用が期待されます:
創薬研究:微量の新規化合物の構造決定が容易になり、創薬プロセスの加速化が見込まれます。
環境分析:大気中の微量有害物質の構造解析が可能になり、環境モニタリングの精度向上に貢献します。
食品科学:香料や風味成分の詳細な構造解析が可能になり、新しい食品開発に寄与します。
材料科学:機能性材料の構造解析が容易になり、新素材開発の効率化が期待されます。
まとめ
東京大学と株式会社ダイセルが次世代の結晶スポンジを開発
親水的な細孔内環境と高い安定性を持つ新材料
従来法より広範囲の分子構造解析が可能に
GC分取×ダイレクト結晶スポンジ法という新手法の開発
創薬、環境分析、食品科学など、様々な分野での適用が期待される
構造解析技術の進歩により、関連科学分野の発展に貢献
この革新的な結晶スポンジの開発は、分子構造解析の分野に新たな可能性をもたらし、科学技術の発展に大きく貢献することが期待されます。今後の研究の進展と実用化に向けた取り組みに注目が集まります。
専門用語解説
結晶スポンジ法:解析対象分子を結晶化せずに構造解析を行う革新的な技術
MOF(金属有機構造体):金属イオンと有機配位子から構成される多孔性の結晶材料
絶対配置:不斉中心に結合した置換基の空間的配置
ガスクロマトグラフ(GC):混合物を気化させ、成分ごとに分離・分析する装置
アミド基:-CONH-の構造を持つ官能基で、タンパク質の構成要素としても重要