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クライオエッチングとは?:極低温下での材料掘削加工技術✨

クライオエッチングは、半導体製造プロセスにおいて重要な役割を果たす最先端技術です。

この記事では、クライオエッチングの基本概念から応用まで、初心者にも分かりやすく解説します。


クライオエッチングとは?

クライオエッチング(英: Cryoetching)は、極低温環境下でのエッチング(掘削)プロセスを指します。通常の室温でのエッチングと比較して、より精密で制御された加工が可能となります。

この技術は、主に半導体デバイスの製造過程で使用され、ナノスケールの構造を形成する上で重要な役割を果たしています。

半導体製造プロセスの全体像はこちらの記事で紹介しているので、良ければ読んでみて下さい👇

半導体製造におけるエッチング工程(引用元:https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/knowledge/semiconductor/room/manufacturing/etch.html)

クライオエッチングの仕組み

クライオエッチングの基本的な仕組みは以下の通りです:

  1. 冷却: まず、加工対象のウェハー(半導体基板)を極低温まで冷却します。通常、液体窒素などの冷媒を使用して-100℃以下まで温度を下げます。

  2. マスキング: エッチングしたい部分以外をフォトレジストなどでマスキングします。これにより、特定の部分のみを選択的に加工することができます。

  3. プラズマ生成: 反応性の高いプラズマを生成します。一般的に、フッ素系ガスや塩素系ガスが使用されます。

  4. エッチング: 生成されたプラズマが露出した部分と化学反応を起こし、材料を除去します。低温環境下では、化学反応の速度が制御しやすくなります。

  5. 除去: エッチングによって生成された副生成物を真空ポンプで除去します。

クライオエッチングの利点

クライオエッチングには、以下のような利点があります:

  1. 高精度: 低温環境下では化学反応の速度が遅くなるため、ナノメートル単位の精密な加工が可能になります。

  2. 高アスペクト比: 深くて細い溝や穴を形成する際に、高いアスペクト比(深さと幅の比)を実現できます。

  3. ダメージ軽減: 低温によって材料のダメージが抑制され、より高品質な加工が可能になります。

  4. 選択性向上: 特定の材料に対する選択性が向上し、複雑な多層構造の加工に適しています。

高精度という利点について、分かりやすい事例を出すと、真円に近いメモリホールを加工できます。

Lam researchの「Cryo」エッチング技術による真円加工(引用元:https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2409/02/news119.html)

クライオエッチングの応用分野

クライオエッチングは、主に以下の分野で応用されています:

  1. 半導体デバイス製造: 最先端の集積回路(IC)やマイクロプロセッサの製造に不可欠です。

  2. MEMS(微小電気機械システム): センサーやアクチュエータなどの微小機械部品の製造に使用されます。

  3. 光学デバイス: 光導波路や光学フィルターなどの製造に応用されています。

  4. バイオテクノロジー: マイクロ流体デバイスやDNAチップなどの製造に活用されています。


3D NAND Flashメモリでは、アスペクト比が50を超えるような深穴加工が必要。クライオエッチングはそれを実現する重要な技術(引用元:https://www.tel.co.jp/news/product/2023/20230609_001.html)

クライオエッチングの課題と今後の展望

クライオエッチングは革新的な技術ですが、いくつかの課題も抱えています:

  1. コスト: 極低温を維持するための設備や運用コストが高くなる傾向があります。

  2. 処理速度: 低温環境下での反応は遅いため、処理時間が長くなる可能性があります。

  3. 材料制限: すべての材料がクライオエッチングに適しているわけではありません。

これらの課題を克服するため、研究開発が続けられています。将来的には、より効率的で汎用性の高いクライオエッチング技術の実現が期待されています。

最新の研究開発動向

東京エレクトロンの取り組み

東京エレクトロンはクライオエッチングの研究開発で先行しています。同社の特徴は:

  • フッ化炭素(CF)系ガスを使用しない環境に配慮した技術

  • 複数の顧客で装置評価を進行中

  • 2026年度から売上への貢献を見込む

ラムリサーチの新技術

米ラムリサーチは最新の「Lam Cryo 3.0」技術を発表しました:

  • 10ミクロンの深さまでメモリチャネルをエッチング可能

  • 上部から底部までの寸法偏差が0.1%未満

  • 従来比2.5倍の高速エッチング

  • エネルギー消費を40%削減、排出量を最大90%削減

クライオエッチングの応用と将来性

クライオエッチングは、NAND型フラッシュメモリの多層化に不可欠な技術となっています:

  • キオクシアは2026年にも量産予定の第10世代NANDで採用予定

  • SKハイニックスなども装置評価を進行中

  • 2030年までに1000層3D NANDの実現を目指す動き

AIの普及に伴い、大容量ストレージの需要が急増しています。クライオエッチングは、NANDの技術革新と製造コスト削減の両立に貢献する重要な技術として期待されています。

まとめ

  • クライオエッチングは極低温環境下で行う精密加工技術

  • 半導体製造やMEMS製造など、様々な分野で応用されている

  • 高精度、高アスペクト比、ダメージ軽減などの利点がある

  • コストや処理速度などの課題もあるが、継続的に改善が進められている

  • 今後の技術革新により、さらなる発展が期待される

この記事が勉強になったよという方は、スキお待ちしています🥰

今後も、半導体やテクノロジーに関する分かりやすい記事をお届けしますので、見逃したくない方はフォローも忘れないでくださいね!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

#クライオエッチング #半導体製造 #ナノテクノロジー #MEMS #プラズマエッチング

専門用語の簡単な説明

  • ウェハー: 半導体デバイスを製造するための薄い円盤状の基板

  • フォトレジスト: 光に反応して性質が変化する感光性樹脂

  • プラズマ: 電離した気体の状態

  • 集積回路(IC): 複数の電子回路を1つの半導体チップ上に集積したもの

  • MEMS: 微小な機械要素と電子回路を組み合わせたデバイス

参考文献


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