
積層セラミックコンデンサ(MLCC)とは?現代エレクトロニクスの縁の下の力持ち💻
積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layer Ceramic Capacitor)は、現代のエレクトロニクス産業を支える重要な電子部品です。スマートフォン、パソコン、自動車、医療機器など、私たちの生活に欠かせない多くの製品に使用されています。
この記事では、MLCCの基本から最新の技術動向まで、詳しく解説していきます。

MLCCの構造と動作原理
MLCCは、誘電体と呼ばれるセラミック材料の層と、電極の層が交互に積み重ねられた構造をしています。

(引用元:https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/mobile/MLCC.html)
MLCCが積層構造をしている理由は、静電容量を増やすためです。コンデンサの基本的な静電容量の式は以下のとおりです。
C = ε * (A / d)
ここで、 C: 静電容量 [F] ε: 誘電率 [F/m] A: 電極の面積 [m²] d: 誘電体の厚さ [m]を示しています。
積層構造を採用することで、実効的な電極面積(A)を大きくすることができます。n層の積層構造の場合、静電容量は以下のように表されます。
C_total = n * ε * (A / d)
これにより、同じ体積でより大きな静電容量を実現できます。
また静電容量を稼ぐ以外にも、等価直列抵抗(ESR)が低減できるメリットもあります。ESRは、コンデンサ内部の損失を表現する仮想的な抵抗値です。ESRは以下の3種類の要素から構成されます:
誘電体損失:誘電体内部での電気エネルギーの熱への変換
電極抵抗:内部電極や外部端子の導電性による抵抗
接触抵抗:電極と誘電体の界面での抵抗
積層構造により、電流の流れる経路が並列化されるため、全体のESRが低減されます。ESRは以下の式で近似できます。
ESR_total ≈ ESR_single / n
ここで、ESR_singleは単層の等価直列抵抗、nは層数です。
主な構成要素
誘電体層:主にチタン酸バリウム(BaTiO3)などのセラミック材料
内部電極:ニッケルや銅などの金属
外部電極:内部電極と接続するための端子
動作原理
両端の電極に電圧を加えると、誘電体内部で分極が起こります。
この分極により電荷が蓄えられ、コンデンサとしての機能を果たします。
ちなみに誘電体についてはこちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇
MLCCの種類と特徴
MLCCには様々な種類があり、用途に応じて選択されます。
温度特性による分類:
Class I(C0G/NP0など):温度安定性が高く、精密な回路に使用
Class II(X7R, X5Rなど):大容量だが温度による容量変化あり
Class III(Y5V, Z5Uなど):さらに大容量だが温度特性は劣る
容量による分類:
小容量:1pF~1nF
中容量:1nF~1μF
大容量:1μF以上
電圧定格による分類:
低電圧:6.3V~100V
中電圧:100V~1000V
高電圧:1000V以上

MLCCの製造プロセス
MLCCの製造は高度な技術を要する複雑なプロセスです。
セラミックスラリーの調製:誘電体材料を溶剤と混合
グリーンシートの作成:スラリーを薄いシート状に成形
内部電極の印刷:グリーンシートに金属ペーストを印刷
積層:印刷されたシートを積み重ねる
プレス:積層されたシートを圧着
カット:個々のチップサイズに切断
焼成:高温で焼き固める(約1200~1300℃)
外部電極の形成:端面に外部電極を形成
めっき:はんだ付け性向上のためのめっき処理
電気特性検査:容量、絶縁抵抗などの測定
外観検査:欠陥品の選別

MLCCの市場動向と主要メーカー
世界のMLCC市場は、2023年時点で約135億ドル規模と推定されており、今後も年率8.26%で成長することが予想されています。今後は以下のような市場で需要が増大することが予測されています。
自動車の電動化・自動運転化によるMLCC需要の増加
5G通信の普及に伴う高周波対応MLCCの需要増
IoT機器の増加による小型・大容量MLCCの需要拡大

MLCCの主要メーカーには以下があります:
村田製作所(日本)
サムスン電機(韓国)
太陽誘電(日本)
TDK(日本)
KEMET(アメリカ)
特に村田製作所は世界シェア40%程度を有しており、その技術力は世界的に認められています。最近では、1.6×0.8 mmという極めて小さいサイズのMLCCにおいて、世界最大の静電容量100μFを達成しています。

MLCCと他のコンデンサの比較
MLCCは、その独特の構造と材料特性により、他の種類のコンデンサと比較して多くの利点を持っています。これらの利点は、現代のエレクトロニクス産業において、MLCCが広く採用される主な理由となっています。
まず、MLCCの高周波特性の優位性が挙げられます。積層構造による低ESR(等価直列抵抗)と低インダクタンスにより、MLCCは高周波領域でも優れた性能を発揮します。コンデンサのインピーダンスZは、
Z = √(ESR² + (XC - XL)²)
で表されますが、MLCCはこの式におけるESRとXL(誘導性リアクタンス)の値が小さいため、高周波でも低インピーダンスを維持できます。これは、高速デジタル回路や RF 回路において極めて重要な特性です。
次に、MLCCの高い信頼性が注目されます。セラミック材料の化学的安定性により、電解コンデンサのような電解液の劣化がありません。また、無極性設計のため、逆電圧による故障リスクもありません。これらの特性により、MLCCは長期的な信頼性が要求される産業用機器や自動車用電子機器に適しています。
温度特性においても、MLCCは優れた性能を示します。特にClass I(例:C0G/NP0)のMLCCは、温度係数が非常に小さく、温度変化に対して安定しています。温度係数(TC)は、
TC = (ΔC / C₀) / ΔT
で表されますが、Class I MLCCはこの値が極めて小さいため、広い温度範囲で安定した静電容量を維持できます。
MLCCの高エネルギー密度も重要な利点です。エネルギー密度(u)は、
u = (1/2) * ε * E²
で表されますが、MLCCは高い誘電率(ε)を持つ材料を使用し、薄層化技術により高い電界強度(E)を実現できるため、高いエネルギー密度を達成できます。これにより、小型で大容量のコンデンサが実現可能となり、携帯機器などの小型化に大きく貢献しています。
さらに、MLCCのコストパフォーマンスも優れています。積層構造を利用した並行生産プロセスにより、生産効率が高く、単位容量あたりのコストを低く抑えることができます。この経済性は、大量生産が必要な消費者電子製品市場において特に重要です。
最後に、MLCCの小型化能力も注目に値します。静電容量の式
C = ε * (A / d)
において、積層構造により実効的な電極面積(A)を大きくできるため、同じ静電容量でもより小さな体積で実現できます。これは、スマートフォンやウェアラブルデバイスなど、極度の小型化が要求される製品において大きな利点となっています。
これらの利点が相まって、MLCCは現代のエレクトロニクス設計において不可欠な部品となっています。高周波特性、信頼性、温度安定性、高エネルギー密度、コストパフォーマンス、そして小型化能力という複合的な利点により、MLCCは幅広い応用分野で他種のコンデンサを凌駕し、技術革新を支える重要な役割を果たしているのです。

MLCCの応用例
MLCCはその優れた特性から、幅広い応用先が存在しています。ここではその主な事例について紹介します。
スマートフォン:1台あたり約1000個のMLCCが使用されています。
電源回路の安定化
RF回路でのインピーダンスマッチング
タッチスクリーンの静電容量センサー
自動車:最新の電気自動車では1台あたり約10,000個のMLCCが使用されています。
エンジン制御ユニット(ECU)
各種センサー回路
車載インフォテインメントシステム
産業機器:
プログラマブルロジックコントローラ(PLC)
インバーター回路
電力変換装置
医療機器:
MRIやCTスキャナーの高周波回路
ペースメーカーなどの小型医療デバイス
5G通信機器:
基地局の高周波フィルター回路
スマートフォンの5Gモジュール

環境への配慮とリサイクル
MLCCの製造と使用には環境への配慮も重要です:
RoHS指令対応:有害物質(鉛、水銀など)の使用制限
ハロゲンフリー:塩素や臭素を含まない製品の開発
省エネルギー製造:製造プロセスの効率化による CO2 排出削減
リサイクル:使用済み電子機器からのMLCC回収と再利用

まとめ
MLCCは現代のエレクトロニクス産業に不可欠な電子部品です。
誘電体と電極の積層構造により、小型で大容量を実現しています。
温度特性、容量、電圧定格などにより様々な種類があります。
製造プロセスは複雑で高度な技術を要します。
スマートフォンや自動車など、幅広い分野で使用されています。
環境への配慮やリサイクルも重要な課題となっています。
5G通信やIoTの発展に伴い、今後も需要の増加が見込まれます。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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