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東京大学と早稲田大学、全光コンピューティングの新手法、Diffraction Casting で大規模並列論理演算を可能に :注目ニュース✨

発表日:2024年10月3日

東京大学と早稲田大学の共同研究チームが、全光コンピューティングの新手法「Diffraction Casting」を開発しました。この画期的な技術は、大規模並列論理演算を光の速度で実行することを可能にし、人工知能(AI)や高性能コンピューティング分野に革命をもたらす可能性を秘めています。

研究背景:ムーアの法則の限界に挑む

近年、AIやIoT(モノのインターネット)の急速な発展により、コンピューティング能力への需要が爆発的に増加しています。しかし、従来の電子式コンピューティングは、ムーアの法則の限界に直面しつつあります。

ムーアの法則は、半導体集積回路の集積度が約18ヶ月ごとに倍増するという経験則ですが、物理的な制約により、この法則に従った性能向上が困難になってきています。

この課題に対応するため、研究者たちは光の物理的特性を利用した新しい計算手法の開発に注目してきました。光コンピューティングは、電子よりも高速で、エネルギー効率の良い情報処理を実現する可能性を秘めています。

Diffraction Castingの技術的革新

東京大学と早稲田大学らの研究グループは、1980年代に日本で発明された「Shadow Casting」という並列型光演算法にヒントを得て、Diffraction Castingを開発しました。

この新手法の特徴は以下の通りです:

  1. 複数の回折光学素子の活用:光の波動性を最大限に利用するために特別に設計された回折光学素子を積層した小型光学系を使用します。

  2. 大規模並列処理:16種類の256ビット並列論理演算を単一の小型光学系で誤差なく実行できます。

  3. 高速処理:光の速度で演算を行うため、従来の電子式コンピューティングよりも大幅に高速です。

  4. エンコーディング不要:従来の手法で必要だったエンコーディングやデコーディングのプロセスを省略できるため、効率的な処理が可能です。

  5. 高い拡張性:演算ビット数と演算種類の数を大幅に増加させても、回折光学素子の枚数をわずかに増やすだけで対応できます。

Diffraction Casting の 概念図

数値実験による性能評価

研究チームは、詳細な数値実験を通じてDiffraction Castingの性能を評価しました。その結果、以下の点が明らかになりました:

  • 16種類の256ビット並列論理演算を単一の小型光学系で誤差なく実行できることを確認

  • 従来の光コンピューティング手法と比較して、高い集積性、拡張性、実用性を実証

  • 演算規模の拡大に対して、必要な光学素子の増加が最小限で済むことを示唆

 Diffraction Casting を用いた 演算結果 の 例
(a) 256ビット(16×16画素)並列入力データの例と、(b)入力データに対して提案手法を用いて16種の論理演算をおこなった出力結果。画像のように二次元に微細に高集積された任意の二値入力データに対して、エンコーディング(符号化)やデコーディング(符号化して処理されたデータの復元処理)を伴わず、全16種の論理演算が誤差なく光の速度で実行可能なことが初めて確認された。

他の光コンピューティング技術との比較

Diffraction Castingは、他の光コンピューティング技術と比較して以下の利点があります:

  1. 高い並列性:多くの既存の光コンピューティング手法よりも大規模な並列処理が可能です。

  2. コンパクトな設計:小型光学系を使用するため、大規模な光学系を必要とする他の手法よりも実装が容易です。

  3. 多様な論理演算:16種類の論理演算を1つの光学系で実行できるため、汎用性が高くなっています。

  4. スケーラビリティ:演算規模の拡大に対して効率的にスケールアップできる設計となっています。

演算ビット数(並列規模)と演算種類の数をパラメータとした時の回折光学素子枚数と演算誤差との関係 演算ビット数(並列規模)と演算種類の数の大幅な増加に対して、回折光学素子枚数の僅かな増加のみで誤差なしの演算が達成可能であった。回折光学素子の枚数が大幅に節約できるという高い実用性が示された。

潜在的な応用分野

Diffraction Casting技術は、以下のような分野で革新的な応用が期待されます:

  1. 人工知能と機械学習:大規模な並列処理を必要とするディープラーニングアルゴリズムの高速化

  2. ビッグデータ解析:膨大なデータセットのリアルタイム処理と分析

  3. 暗号技術:高速な並列論理演算を活用した新しい暗号化・復号化手法の開発

  4. 高性能コンピューティング:科学シミュレーションや金融モデリングなどの計算集約型タスクの処理速度向上

  5. エッジコンピューティング:IoTデバイスでのリアルタイムデータ処理能力の向上

今後の展望と課題

Diffraction Casting技術の今後の発展に向けて、以下の課題に取り組む必要があります:

  1. 実験的検証:理論と数値シミュレーションで示された性能を、実際の光学系で検証する。

  2. 材料工学との連携:より高性能な回折光学素子の開発を目指し、材料科学との協力を強化する。

  3. システム統合:既存のコンピューティングシステムとの効率的な統合方法を確立する。

  4. アプリケーション開発Diffraction Castingの特性を最大限に活用できる具体的なアプリケーションを開発する。

  5. エネルギー効率の最適化:光学系全体のエネルギー消費をさらに削減する方法を探索する。

まとめ

Diffraction Castingは、ポストムーア時代のコンピューティングに新たな可能性を開く革新的な技術です。大規模並列処理能力と高速性を兼ね備えたこの技術は、AIやビッグデータ解析など、現代社会が直面する計算需要の課題に対する有力な解決策となる可能性があります。

今後の研究開発により、Diffraction Casting技術がさらに進化し、実用化されれば、情報処理技術に革命をもたらし、様々な産業分野に大きな影響を与えることが期待されます。

専門用語解説

  • 全光コンピューティング:光信号と電気信号の変換を伴わずに演算を実現する手法。処理速度とエネルギー効率の向上が期待される。

  • 回折光学素子:光の回折、干渉、吸収、屈折などの伝播現象を波動光学に基づき精密に制御する光学部品。

  • 並列型演算器:複数の演算を同時に実行できる処理装置。GPUやTPUがよく知られている。

  • ムーアの法則:半導体集積回路の集積度が約18ヶ月ごとに倍増するという経験則。近年、物理的限界に直面している。

  • Shadow Casting:1980年代に日本で発明された並列型光演算法。Diffraction Castingの着想の元となった技術。

#DiffractionCasting #全光コンピューティング #並列論理演算 #人工知能 #光学

参考文献


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