見出し画像

名古屋大学、革新的金属ナノワイヤ大量成長技術を開発✨

発表日:2024年8月8日

1. 研究の概要と背景

2024年8月9日、名古屋大学大学院工学研究科の研究チームが、金属ナノワイヤの大量成長技術を開発し、その原理を解明したという画期的な研究成果が、アメリカ科学振興協会の学術雑誌「Science」に掲載されました。

近年、ナノテクノロジーの発展に伴い、微小な構造を持つ材料の開発が急速に進んでいます。その中でも、ナノワイヤは特に注目されている材料の一つです。しかし、これまで純金属ナノワイヤを大量に製造する技術が存在せず、その実用化が困難でした。

研究チームのリーダーである木村康裕助教は、「半導体や有機材料のナノワイヤは既に大量合成法が確立されていましたが、純金属ナノワイヤについては効果的な方法がありませんでした。この技術的障壁を克服することが、私たちの研究の出発点でした」と語っています。

名古屋大の研究グループが開発した新手法の概念図(引用元:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/08/post-709.html)

2. 革新的な成長技術

研究チームは、固体中での原子拡散現象を利用して、アルミニウムナノワイヤの大量森状成長手法を開発しました。この手法は、以下の3つのシンプルなプロセスで構成されています:

  1. 基板上に薄膜を堆積

  2. イオンビーム照射

  3. 加熱

SEM像。イオンビームを照射した領域からのみ白い線状のアルミニウムナノワイヤが成長している。(引用元:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20240809_engg.pdf)

この技術の鍵となるのが、イオンビーム照射による薄膜の結晶粒分布制御です。研究チームは、イオンビーム照射によって薄膜表層のみの結晶粒を粗粒化させ、薄膜表層では粗粒、薄膜下層では細粒となる粒勾配を作り出すことに成功しました。

崔羿助教は、「イオンビーム照射が薄膜内の結晶粒径に勾配を与え、これが原子拡散のための巨大な駆動力の引き金になることを、電子顕微鏡観察と数値計算の両面から明らかにしました」と説明しています。

アルミニウムナノワイヤを有する薄膜断面のSTEM-EBSD像。右上はイオンビーム未照射領域でワイヤは成長していない。右下はイオンビーム照射領域でワイヤが成長している。(引用元:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20240809_engg.pdf)

3. 成長メカニズムの解明

3.1 原子の動きを追う

ナノワイヤ成長のプロセスは以下のように進行します:

  1. 降伏応力の粒径依存性に由来して粒勾配が原子の上昇流を引き起こし、多くの原子を薄膜表面に運搬。

  2. 降伏応力の方位依存性に由来して特定粒に向かった原子の流れ込みが発生。

  3. 多くの原子をため込んだ粒が、それを解放するようにナノワイヤとして成長。

研究チームは、有限要素解析による数値シミュレーションを用いて、これらの原子の流れが静水圧応力勾配に基づいていることを明らかにしました。

徳悠葵准教授は、「シミュレーション結果と実際の観察結果が非常によく一致したことで、私たちの理論モデルの正確性が裏付けられました」とコメントしています。

上はナノワイヤ付薄膜断面のSTEM-EBSD像。下はワイヤ成長のメカニズム。(引用元:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20240809_engg.pdf)

4. 研究成果の意義

本研究では、半世紀ぶりに最大180×10^5本/cm^2(表面被覆率0.51%)という高密度のナノワイヤ成長を実証しました。これは1975年に報告された2×10^5本/cm^2(表面被覆率0.04%)を大きく上回る成果です。

巨陽教授(研究当時。現:中国浙江大学)は、「この成長プロセスは原理的には他の金属にも拡張可能です。これにより、様々な金属ナノワイヤの大量生産への道が開かれました」と述べています。

(左)提唱したアルミニウムナノワイヤ成長機構。(右)実験で成長させたナノワイヤの本数密度と長さの関係。縦軸最大値が最大で180×10^5本/cm^2となり、半世紀ぶりの更新。(引用元:https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20240809_engg.pdf)

5. 将来の展望と社会的影響

アルミニウムナノワイヤの特性を活かした、以下のような応用が期待されています:

  • 高感度ガスセンサ

  • 高効率バイオマーカー

  • 次世代プラズモン導波路

  • 高強度・軽量構造材料

この技術が実用化されれば、エレクトロニクス産業や医療機器産業に大きな変革をもたらす可能性があります。例えば、より小型で高性能なスマートフォンや、より精密な医療診断機器の開発が可能になるかもしれません。

木村助教は今後の展望について、「現在はアルミニウムでの成功を報告しましたが、今後は他の金属への応用や、ナノワイヤの直径や長さの精密制御など、さらなる研究を進めていきたいと考えています」と語っています。

6. まとめと今後の展望

  • 名古屋大学の研究チームが金属ナノワイヤの大量成長を実現し、その原理を解明

  • イオンビーム照射による薄膜の結晶粒分布制御が成長の鍵

  • 半世紀ぶりに最大180×10^5本/cm^2の高密度ナノワイヤ成長を実証

  • センシングデバイスやオプトエレクトロニクスなど、幅広い応用が期待される

  • 他の金属への応用可能性も示唆され、今後の研究発展に期待

この研究成果は、ナノテクノロジーの分野に新たな可能性をもたらし、次世代のデバイス開発に大きな影響を与える可能性があります。

私たちの日常生活を支える様々な技術が、この研究をきっかけにどのように変わっていくのか、今後の展開が非常に楽しみです。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!
また次の記事でお会いしましょう。それでは!

7. 専門用語解説

  1. 原子拡散:固体中の原子輸送現象で、原子濃度勾配、静水圧応力勾配、温度勾配、電位勾配などが駆動力となる。

  2. ナノワイヤ:人髪の直径の1000分の1程度の直径(100〜600ナノメートル程度)を有した1次元の線状ナノ構造体。

  3. SEM(走査電子顕微鏡):細く絞った電子線を試料に照射・走査し、照射点で反射もしくは発生する電子を検出して画像化する顕微鏡。

  4. 有限要素解析:連続体力学の問題を解く解析手法の一つ。

  5. STEM(走査透過電子顕微鏡):細く絞った電子線を試料に照射・走査し、照射点から出てくる透過波もしくは回折波を検出して画像化する顕微鏡。

  6. EBSD:結晶粒の傾き具合を示す方位を解析する手法。

  7. 降伏応力:材料に負荷を加えて変形させた際に、除荷しても元に戻らなくなる(変形の影響が残る)臨界の応力値。材料強度の指標となる。

  8. 静水圧応力:水の中に沈めた物体に加わる圧力のように物体表面の垂直方向に作用する応力。平均垂直応力とも呼ばれる。

  9. プラズモン:金属中の自由電子の集団振動のこと。ナノ構造を持つ金属では、特異な光学特性を示す。

8. 参考文献

#ナノワイヤ #原子拡散 #金属ナノワイヤ #イオンビーム照射 #原子スケールモノづくり

参考文献


おすすめ記事


よろしければサポートもよろしくお願いいたします.頂いたサポートは主に今後の書評執筆用のために使わせていただきます!