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東北大、CNTのカイラリティを制御可能な新触媒NiSnFeを開発:注目ニュース✨

発表日:2024年9月3日

東北大学の研究チームが、次世代半導体材料として注目されるカーボンナノチューブ(CNTs)の構造を精密に制御する画期的な合成法を開発しました。

研究チームは、ニッケル(Ni)スズ(Sn)鉄(Fe)を組み合わせた新しい触媒「NiSnFe触媒」を用いることで、特定の構造(カイラル指数(6,5))を持つCNTsを95%以上の超高純度で合成することに成功しました。

この成果は、半導体産業に革命をもたらす可能性を秘めています。本記事では、この技術について詳しく紹介したいと思います✨

新たに発見した三元系触媒により実現した(6,5)CNTs の超高純度合成概念図(引用元:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20240903_02web_carbon.pdf)

なぜカーボンナノチューブの構造制御が重要なのか?

CNTsは、炭素原子が筒状に並んだ直径わずか1ナノメートル程度の極小の筒です。その構造(カイラリティ)によって、金属のように電気を通したり、半導体のようにその性質を制御できたりと、多彩な特性を示します。

しかし、これまでの合成方法では、様々な構造のCNTsが混在してしまい、その特性を十分に活かすことができませんでした。

今回の研究成果により、望みの特性を持つCNTsのみを大量に作り出すことが可能になったのです。

多元系触媒:未開の領域に挑む

これまでのCNTs合成研究では、主にコバルト(Co)ニッケル(Ni)鉄(Fe)などの遷移金属触媒が単独で、あるいは二種類の合金触媒として使用されてきました。しかし、三種類以上の触媒金属を混ぜ合わせた多元系合金触媒に関しては、ほとんど研究が行われていませんでした。

研究チームは、Niを基本触媒として、以下の段階的なアプローチを取りました:

  1. 二元系触媒の探索: 41種類の元素をNiに追加した二元系触媒を作成し、CNTs合成実験を網羅的に実施。

    • 結果: NiにSnを混ぜた触媒で(6,5)CNTsの純度が80%以上に向上(Ni単体では34%)。

  2. 三元系触媒への発展: NiSn触媒に18種類の元素を第三因子として追加した三元系触媒を探索。

    • 結果: Feを混ぜたNiSnFe触媒で、(6,5)CNTsの合成量がNiSn比で6倍以上に向上。

  3. 合成条件の最適化: NiSnFe触媒を用いて、合成温度や前処理などの条件を詳細に調整。

    • 結果: 95%以上の超高純度で(6,5)CNTsの直接合成に成功。

:(a)二元系触媒(Ni+X)と(6,5)CNTs 純度の関係。二元系触媒に用いた第二 因(X)の原子番号に対する(6,5)CNTs 純度のプロット図。(b)三元系触媒(NiSn+Y) と(6,5)CNTs の蛍光(PL)強度(∝合成量)の関係。第三因子(Y)に対する(6,5)CNTs の PL 強度依存性。(c-e) NiSnFe 三元系触媒を用いて最適合成条件で合成した CNTs の(c)蛍光-励起(PLE)マップ、(d)紫外-可視-近赤外吸収スペクトルと(e)そ のフィッティング結果。(引用元:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20240903_02web_carbon.pdf)

新触媒のメカニズム:ナノレベルの職人技

研究チームは、新しい触媒がどのようにしてCNTsの構造を制御しているのかも詳細に解明しました。

  1. コア/シェル構造: NiSnFe触媒ナノ粒子は、Niのコアとその周りを覆うNiOのシェルという特殊な構造を持っています。

  2. 元素の偏析: Niのコア部分がNi+SnとNi+Feの領域に分かれて存在しています。

  3. 特異な結晶: Ni+Snのコア部の一部にNi3Snという特殊な結晶が形成されています。

  4. 原子配列の一致: 密度汎関数理論(DFT)計算により、Ni3Sn(0001)面の特定の原子配列が(6,5)CNTsのカイラリティを決定する主要因であることが判明しました。

NiSnFe 触媒の(a)走査透過型電子顕微鏡(STEM)像とその原子構造解析 結果、および(b)同一粒子に対する元素マッピング結果。(引用元:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20240903_02web_carbon.pdf)

研究チームは、合成された超高純度(6,5)CNTsにおいて、さらに興味深い現象を観察しました。

  1. バンドル構造の形成: (6,5)CNTsが束状に集合した構造が頻繁に観測されました。

  2. 蛍光発光寿命の劇的な変化: バンドル構造のCNTsは、孤立状態のCNTsに比べて蛍光発光寿命が20倍以上長くなりました。

  3. 超結晶の可能性: この現象は、同じカイラリティのCNTsのみで構成された特異な束状構造が、ある種の超結晶に近い構造体を形成したためと考えられています。

超高純度(6,5)CNTs から構成された束状構造の(a)低倍率と(b)高倍率の 透過型電子顕微鏡(TEM)像。(c)(b)のコントラストを a-b ラインで切り出し た図。(d)シミュレーション解析から推測した(6,5)CNTs 束状構造のモデル 図。(e)孤立した(6,5)CNTs と(f)束状(6,5)CNTs の PL 寿命特性。(引用元:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20240903_02web_carbon.pdf)

未来を変える可能性:超高性能デバイスの実現へ

この研究成果は、次世代の電子デバイス開発に大きな影響を与えると予想されています。

  1. 超高速コンピュータ: CNTsを使用した超高速トランジスタの実現

  2. フレキシブルエレクトロニクス: 曲げられる電子回路や動画性のディスプレイ

  3. 高効率太陽電池: CNTsの光学特性を活かした次世代太陽電池

  4. 超軽量・高強度材料: 航空宇宙産業での利用

さらに、研究チームは興味深い発見をしました。超高純度(6,5)CNTsが束になって集まると、個々のCNTsとは全く異なる特性を示すのです。

これは、CNTs超結晶と呼ばれる新しい材料の可能性を示唆しており、全く新しい物性や機能の発見につながる可能性があります。

まとめ

  • 東北大学の研究チームが、CNTsの構造を精密に制御する新合成法を開発

  • NiSnFe触媒を用いて、特定構造のCNTsを95%以上の純度で合成に成功

  • この成果は、30年来の課題を解決し、次世代半導体デバイスの実現に道を開く

  • CNTs超結晶という新たな材料の可能性も示唆

  • 産業界からも大きな期待が寄せられ、実用化に向けた研究開発が加速する見込み

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最後まで読んでくれてありがとうございました!また会いましょう!👋

#カーボンナノチューブ #東北大学 #半導体革命 #ナノテクノロジー #次世代デバイス

専門用語解説

  • カーボンナノチューブ(CNTs): 炭素原子が筒状に並んだ、直径がナノメートル単位の微小な物質。優れた電気的・機械的特性を持つ。

  • カイラリティ: CNTsの巻き方の違い。これによってCNTsの電気的特性が大きく変わる。

  • ナノスケール触媒粒子: 1ナノメートルから数ナノメートルの大きさの触媒粒子。CNTsの成長を制御する。

  • コア/シェル構造: 中心(コア)と外側(シェル)で異なる物質で構成された粒子構造。

  • 超結晶: ナノ粒子が規則正しく配列した人工的な結晶構造。新しい物性が期待される。


参考文献

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20240903_02web_carbon.pdf


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