見出し画像

東北大と慶応大、原子鎖が弱結合した擬一次元物質ZrTe₅の大面積薄膜作製技術を開発

発表日:2024年6月20日

擬一次元ファンデルワールス物質(quasi 1D-vdW)は、独特な一次元原子鎖構造により量子効果を増幅し、従来の二次元物質とは異なる特性を示します。特にZrTe5は、そのディラック半金属ワイル半金属としての性質、異常な量子現象、高い熱電性能で注目されています。

東北大学と慶応大学の研究チームは、スパッタリング法を用いて、アモルファス相から結晶相への相変化を利用し、大面積なZrTe5薄膜の製造に成功しました。この相変化により、薄膜の抵抗率が4桁も減少し、光学バンドギャップも大幅に縮小しました。

この成果は、ZrTe5を含む一次元材料の基礎理解を深め、量産可能な製造方法の開発につながります。


研究の背景🔍

近年、擬一次元ファンデルワールス物質(quasi 1D-vdW)は、その特異な電気的、光学的、機械的特性から注目を集めています。quasi 1D-vdWは、原子鎖方向には強い共有結合で結ばれながら、各鎖の間は弱いファンデルワールス力で結合している物質です。

ZrTe5は、ディラック半金属やワイル半金属としてのユニークな電気特性を持ち、多くの異常な量子効果や優れた熱電特性を持ちます。これを半導体デバイスに利用するためには、大面積なZrTe5薄膜の成膜技術が必要です。

従来の方法では、バルク単結晶から機械剥離で小さな薄片を得ていましたが、この手法は実用化への障壁となっていました。

ZrTe5材料の結晶構造(左)。ガラス基板(サイズ1×1 cm2)上に成膜されたZrTe5薄膜の成膜ままと熱処理後の写真(右)。(引用元:https://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/achievements/press/2024/20240620_001812.html)

今回の取り組み🎯

東北大学の研究チームは、スパッタリング法とその後の熱処理プロセスを用いた二段階プロセスで、ZrTe5薄膜の大面積作製に成功しました。

さまざまな温度でアニーリングされたZrTe5薄膜のラマン分光スペクトル。(引用元:https://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/achievements/press/2024/20240620_001812.html)

この技術は、MoTe2やMoS2などのTMDの大面積成膜手法としても知られており、アモルファス薄膜をスパッタリング法で作製し、熱処理で結晶化させます。

ZrTe5材料のバンド構造と局所的な原子配置の模式図。(引用元:https://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/achievements/press/2024/20240620_001812.html)

成果と今後の展開🌟

研究チームは、アモルファスZrTe5が結晶化する際に電気抵抗率が四桁も低下し、光学特性やバンド構造が大きく変化することを発見しました。この大きな変化は、一般的な相変化材料を上回るものであり、ZrTe5の特異な特性を生かした次世代デバイスの開発が期待されます。

まとめ📝

  • ZrTe5薄膜の新しい作製技術を開発

  • アモルファスから結晶相への相変化で特性変化を発見

  • 電子デバイスや光学デバイスの微細化限界を突破する可能性

  • 量産可能な製造方法の開発に貢献

  • 今後の研究で次世代トランジスタや光検出器、熱電デバイスの開発を目指す

この記事が勉強になったよという方は、スキお待ちしています🥰

今後も、半導体やテクノロジーに関する分かりやすい記事をお届けしますので、見逃したくない方はフォローも忘れないでくださいね!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

#ZrTe5 #薄膜技術 #量子効果 #熱電性能 #東北大学

用語説明🔍

擬一次元ファンデルワールス物質(quasi 1D-vdW):一次元原子鎖構造を持ち、それぞれの原子鎖が弱いファンデルワールス力で結合している物質。特異な電気的、光学的、機械的特性を持つ。

量子効果:物質がナノスケールにスケーリングされたときに顕著になる物理現象。電子の波動性、量子トンネル効果、エネルギー準位の離散化など。

二次元物質:原子間の結合は層内で閉じているが、それら層間は弱いファンデルワールス力で結合している結晶構造を持つ物質。

ディラック半金属およびワイル半金属:特殊な状態を示す物質で、ディラックフェルミオンまたはワイルフェルミオンと呼ばれる擬似粒子が低エネルギー準位で存在。

スパッタリング法:物理蒸着法(PVD)の一つで、ターゲット材料を高エネルギーのイオンで衝撃し、その結果として飛び出した原子を基板上に堆積させる方法。

光学バンドギャップ:半導体や絶縁体のエネルギーバンド構造において、価電子帯と伝導帯の間に存在するエネルギーの差。

参考文献


おすすめ記事


よろしければサポートもよろしくお願いいたします.頂いたサポートは主に今後の書評執筆用のために使わせていただきます!