見出し画像

原子拡散接合法(ADB法)とは?

一言で言えば…

原子拡散接合法(Atomic Diffusion Bonding, ADB)は、接合面に薄膜を形成し、その後、室温で無加圧で物質同士を接合する技術です。この技術は、半導体や電子デバイス、光学デバイス、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、パワーデバイスなどの高性能デバイスの製造において重要な役割を果たします。

接合の応用例(パワーデバイスおよびMEMS)

ADB法の基本原理

ADB法の基本的な原理は、接合する材料の表面に薄膜を形成し、その表面を室温で接触させることで接合を実現するものです。以下のステップを通じて接合が行われます:

  1. 鏡面研磨:接合する材料の表面を鏡面のように平滑に磨きます。

  2. 薄膜形成:スパッタリングなどの技術を用いて、接合する材料の表面に金属、酸化物、または窒化物の薄膜を形成します。この薄膜は、接合面を活性化させ、原子の再配列を促進します。

  3. 接合:活性化された薄膜同士を室温で接触させることで接合を行います。この過程では、圧力をかける必要はありません。接合は、薄膜の表面エネルギーと原子間の引力によって自然に行われます。

このプロセスでは、薄膜を形成した表面が反応しやすい状態(活性化状態)になるため、薄膜同士を触れさせるだけで接合が可能です。接合は、接触した原子が相手の原子格子に従って配列を変える「原子再配列現象」によって生じます。この現象により、接合後の薄膜の界面はほとんど判別できないほど強固に接合されます。

原子拡散接合法の基本プロセス

ADB法の利点

ADB法には、以下のような利点があります:

  1. 異種材料の接合が可能:従来の接合技術では、異種材料間の熱膨張率(CTE)の違いが問題となり、接合後に反りや亀裂が発生することがありました。ADB法では、室温で接合を行うため、CTEの違いによる問題を回避できます。

  2. 高精度な接合:微細な金属薄膜を用いるため、接合界面が非常に薄く、精密な接合が可能です。これにより、高精度が要求されるデバイスの製造に適しています。

  3. 無加圧で接合可能:圧力をかけずに接合が可能なため、接合する材料にストレスを与えることなく、デリケートなデバイスの製造が可能です。

  4. 高い接合強度:原子レベルでの再配列により、接合界面は非常に強固であり、機械的強度や耐久性に優れています。

様々な接合金属薄膜の断面TEM明視野像

ADB法の応用分野

ADB法は、以下のような分野で広く応用されています:

  1. 半導体デバイス:半導体基板やチップの接合に利用され、高性能な集積回路やメモリーデバイスの製造に貢献しています。例えば、Si基板とSiC基板の接合により、パワーデバイスの性能向上が期待されます。

  2. 光学デバイス:光学部品の接合に利用され、高精度な光学系の構築に役立ちます。特に、光学フィルムや光学レンズの接合において、優れた光学特性を維持しつつ強固な接合が可能です。

  3. MEMSデバイス:MEMS技術を用いたセンサーやアクチュエーターの製造において、微細構造の接合に利用されています。これにより、高精度で高機能なMEMSデバイスの開発が進んでいます。

  4. パワーデバイス:SiCウエハーの薄化や接合に利用され、電力損失の少ない高性能なパワーデバイスの製造が可能です。これにより、エネルギー効率の向上やデバイスの小型化が実現されます。

Ti薄膜を用いて接合した2インチ水晶ウェハー(厚さ0.5mm)

具体的な応用事例

SAWフィルター:表面弾性波フィルター(SAWフィルター)は、特定の周波数を取り出すためのフィルターで、スマートフォンなどに多く搭載されています。SAWフィルターの圧電体とその支持基板の接合にADB法が採用されており、優れた性能と信頼性を実現しています。

SiCウエハーの薄化:SiCウエハーは、Siと比べて高価であるため、できるだけ薄くする方法が求められています。ADB法を用いて、安価なSiCウエハー(キャリア)と高価な良質SiCウエハーを接合し、良質なウエハーをスライスすることで、多数のデバイスを作製できます。これにより、ウエハー1枚から数十倍のデバイスを作製でき、コスト削減と性能向上が図れます。

ADB法の技術的課題

ADB法には多くの利点がありますが、いくつかの技術的課題も存在します:

  1. 接合界面の制御:接合界面の品質を均一に保つことが重要です。特に、大面積のウエハー同士を接合する際には、接合界面全体が均一であることが求められます。

  2. 薄膜の形成技術:薄膜の品質や厚さを精密に制御する技術が必要です。スパッタリングや蒸着技術の高度化が求められます。

  3. 接合プロセスの最適化:接合温度や圧力、真空環境など、接合プロセス全体を最適化する必要があります。特に、接合する材料の特性に応じたプロセス条件の設定が重要です。


未来展望

ADB法は、今後ますます重要な技術として発展していくと期待されています。特に、以下のような分野での応用が期待されます:

  1. ハイブリッド接合:薄膜を介して接合するため、ウエハーやチップ上に形成した電極を接合することが可能です。薄膜の厚さを極限まで薄くすることで、電極接合が実現され、より高性能なデバイスの開発が進むでしょう。

  2. ナノデバイス:ナノスケールのデバイスの製造において、ADB法は重要な役割を果たすと考えられます。ナノ構造を持つ材料同士の接合においても、高精度で強固な接合が可能です。

  3. 新材料の接合:今後、新たな材料の開発が進む中で、ADB法を利用した異種材料の接合技術がますます重要となります。特に、高機能材料や次世代半導体材料の接合において、その応用が期待されます。


まとめ

原子拡散接合法(ADB法)は、微細な薄膜を用いて室温で接合する革新的な技術です。この技術は、異種材料の接合や高精度なデバイスの製造において、従来の技術では解決できなかった課題を克服し、新たな可能性を開拓しています。

ADB法の発展と応用により、半導体や電子デバイス、光学デバイス、MEMS、パワーデバイスなど、多岐にわたる分野での技術革新が期待されます。未来のデバイス製造において、ADB法は不可欠な技術となるでしょう。


参考文献

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/79/8/79_710/_pdf


おすすめ記事


いいなと思ったら応援しよう!

半導体Times
よろしければサポートもよろしくお願いいたします.頂いたサポートは主に今後の書評執筆用のために使わせていただきます!