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東工大、青色有機ELの電子移動を促進する材料選択指針を解明:注目ニュース✨

発表日:2024年8月21日

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の伊澤誠一郎准教授と静岡大学 工学部 化学バイオ工学科の藤本圭佑准教授らの研究グループが、超低電圧で発光する青色有機ELにおいて、高効率な電子移動を実現する材料の組み合わせを発見しました。

この記事では、本技術の詳細について詳しく説明したいと思います✨


研究の背景

有機ELは、高コントラストと豊かな色彩性、薄膜化やフレキシブル化が可能という特長から、大画面テレビやスマートフォンのディスプレイで広く実用化されています。

しかし、光の三原色のうち最もエネルギーが高い青色の発光については、以下の3つの課題がありました:

  1. 駆動電圧が3 V以上と高い

  2. 消費電力が大きい

  3. 長期動作安定性が低い

これらの課題を解決するため、研究グループの一員である、伊澤准教授らはアップコンバージョン有機EL(UC-OLED)と呼ばれる技術を既に報告しています。

UC-OLEDは、2種類の有機分子の界面におけるアップコンバージョン過程を利用することで、世界最小電圧の1.5 V以下での青色発光を実現することが出来ます✨

アップコンバージョン技術の基礎について、こちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇

UC-OLEDのメカニズム

UC-OLEDは、2種類の有機分子の界面におけるアップコンバージョン過程を利用し、従来の約半分の電圧である1.5 V以下での青色発光を可能にしました。その発光メカニズムは以下の通りです:

  1. 注入された電子と正孔(ホール)が電子ドナー/アクセプター分子の界面で再結合し、電荷移動(CT)状態を形成

  2. CT状態から電子移動が起こり、ドナー層中で三重項励起状態(T1)が生成

  3. 2つのT1状態から、三重項-三重項消滅(TTA)により高エネルギーの一重項励起状態(S1)が生成

  4. S1から青色光が発光

UC-OLEDの発光メカニズム(引用元:https://www.titech.ac.jp/news/2024/069639)


一方で、UC-OLED内部の電子移動反応の詳細はこれまで明らかにされておらず、高効率化のための材料選択指針が求められていました。

研究の詳細と成果

研究チームは、UC-OLEDの系において45通りの材料の組み合わせを用いて、CT状態からドナー分子のT1への電子移動反応(CT→T1)を系統的に解析しました。

一般的な有機分子では、T1に移動した電子は無輻射的に失活してしまうため、エネルギーや効率等の情報を取り出すことが難しくなります。

しかしUC-OLEDでは、CT状態からT1に電子移動した後に、TTAによってS1を形成させることで、発光として観測することができるため、素子の発光効率から間接的にCT→T1電子移動の効率を議論することが可能です。

本研究で用いた材料の化学構造とエネルギー準位
(引用元:https://www.titech.ac.jp/news/2024/069639)

UC-OLEDのEL発光スペクトルでは、TTAを経由した青色発光(TTA-UC発光)と、中間体であるCT状態の輻射的な失活であるCT発光が観測されます。

そこで、材料の各組み合わせのCT発光ピークよりCT状態エネルギー(ECT)を、青色発光より発光効率を算出しています。

そして、45種類のデバイスについて、発光効率と電子移動の駆動力(ECT − ET1)の関係性をプロットしたところ、電子移動の駆動力が小さい、すなわちドナーの三重項エネルギーとCT状態エネルギーが近い領域で発光効率が高くなる傾向が見られています。

(a) 典型的なELスペクトル (b) 45種類のデバイスの発光効率と電子移動の駆動力の関係
(引用元:https://www.titech.ac.jp/news/2024/069639)


次に、界面相互作用が電子移動に与える影響を考慮するために、光電流応答スペクトル(IPCE)よりCT吸収の観測を行い、各デバイスの分子間CT相互作用の評価を行っている。その結果、電子移動の駆動力(ECT − ET1)が同程度である場合には、分子間CT相互作用の強い組み合わせほど、効率的に電子移動できることが示唆された。

CT吸収はドナー/アクセプター(D/A)間の距離や分子配向、分子軌道の形の情報を含むため、CT吸収強度はD/A間の電子カップリングを反映している。そこで、発光効率をCT吸収強度で割ることによって、電子カップリングで規格化した電子移動効率が得られます。

ここで、半古典的マーカス理論に基づいて、プロットの形よりフィッティングを行ったところ、0.1 eV以下の再配向エネルギーで実験結果をよく再現できることが分かりました。

(a) 電子カップリングで規格化した電子移動効率と電子移動の駆動力の関係(プロット)と、
フィッティング曲線(引用元:https://www.titech.ac.jp/news/2024/069639)

これは、小さな再配向エネルギーに由来して、0.1 eV以下の駆動力で電子移動が促進されていることを意味しています。

デバイス性能の向上

研究チームは、探索した材料系の中で最も効率の良かった組み合わせについて、デバイス構造の最適化を行いました。その結果、以下の成果を達成しました:

  1. 1.5 V乾電池1本で青色発光を実現

  2. 従来の3.3%を上回る4.0%の最大外部量子効率(EQE)を達成

(b) 最適化デバイスの電流密度-電圧-輝度特性と、1.5 V乾電池1本で得られた青色発光(グラフ内の写真)(引用元:https://www.titech.ac.jp/news/2024/069639)

研究の意義と今後の展望

この研究成果は、超低電圧青色有機ELの開発だけでなく、光アップコンバージョン有機太陽電池などの関連技術にも応用できる可能性があります。

太陽電池の詳細については、こちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇

効率的なCT→T1電子移動を達成するための重要な指針として、以下が挙げられます:

  1. 分子間CT相互作用が強い材料の組み合わせを選択

  2. ドナーの三重項エネルギーとCT状態エネルギーが近い(電子移動の駆動力が小さい)材料を使用

今後の研究では、これらの知見をもとに新しい材料の探索が行われ、市販の青色有機ELと同程度の発光効率の達成を目指すとのことです。

これにより、従来よりも大幅な消費電力の低減が可能となり、エネルギー利用効率の高い社会の実現に貢献することが期待されます。

まとめ

  • 超低電圧(1.5 V以下)で発光する青色有機ELの開発に成功

  • 45通りの材料組み合わせを詳細に解析し、高効率電子移動の条件を解明

  • 分子間CT相互作用と電子移動の駆動力が効率に大きく影響することを発見

  • 最大外部量子効率(EQE)4.0%を達成し、従来技術を上回る性能を実現

  • 省エネルギーディスプレイ実現への重要な一歩となる研究成果

  • 光アップコンバージョンや有機太陽電池など、関連技術への応用可能性も示唆

この記事が勉強になったよという方は、スキお待ちしています🥰

今後も、半導体やテクノロジーに関する分かりやすい記事をお届けしますので、見逃したくない方はフォローも忘れないでくださいね!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

#有機EL #青色発光 #超低電圧 #アップコンバージョン #省エネルギー

専門用語の解説

  • アップコンバージョン:低エネルギーの光子を高エネルギーの光子に変換する過程

  • 分子間CT相互作用:異なる分子間で起こる電荷移動相互作用

  • 光アップコンバージョン:低エネルギーの光を高エネルギーの光に変換する技術

  • 三重項励起状態(T1)/一重項励起状態(S1):分子の電子スピン状態の違いによる励起状態の分類

  • 有機太陽電池:有機半導体材料を用いた太陽電池

  • 半古典的マーカス理論:電子移動反応の速度を説明する理論

参考文献


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