見出し画像

強磁性体と反強磁性体とは?:磁場を加えなくとも自発的に磁石化🧲

強磁性体反強磁性体は、物理学の中でも特に興味深い研究対象です。これらの物質は、私たちの日常生活から最先端の技術まで、幅広い分野で重要な役割を果たしています。

今回は、これらの磁性体について詳しく見ていきましょう✨


強磁性体とは

強磁性体とは、外部から磁場を加えなくても、自発的に磁化を持つ物質のことを指します。つまり、それ自体が永久磁石になる能力を持っているのです。この特性は、物質の中の電子スピンが整列することで生まれます。

電子スピンとは、電子が持つ固有の角運動量のことで、小さな磁石のような振る舞いをします。通常の物質では、これらのスピンはバラバラな方向を向いていますが、強磁性体では同じ方向に整列する傾向があります。

電子スピンの上向き、下向き。(引用元:https://www.hsrc.hiroshima-u.ac.jp/research/result/14.html)

この整列が起こる理由は、交換相互作用と呼ばれる量子力学的な現象にあります。隣り合う電子のスピンが同じ方向を向くと、系全体のエネルギーが下がるのです。これにより、強磁性体は自発的な磁化を持つことができます。

強磁性体の特性

強磁性体の代表的な例としては、ニッケルコバルトなどがあります。これらの金属は、室温でも強い磁性を示します。また、これらの元素を含む合金や化合物も強磁性を示すことがあります。

強磁性体の特徴的な性質として、磁気ヒステリシスがあります。これは、外部磁場を変化させたときの磁化の変化が、非線形で履歴を持つ現象です。この性質は、情報の記録や保持に利用されています。

磁気ヒステリシスの概要図。①磁性体に磁場を加えると磁化→②磁場が無くなると磁力を失うが磁場ゼロでも残留磁化(0に相当)→③逆向きに磁場をかけると磁力を失い、さらに逆方向に磁化される→④磁場が無くなると磁力を失うが磁場ゼロでも残留磁場が残る(1に相当)→繰り返し。(引用元:https://www.tdk.com/ja/tech-mag/ferrite02/006)

強磁性体は、温度によってその性質が変化します。キュリー温度と呼ばれる特定の温度以上になると、熱運動のエネルギーが交換相互作用を上回り、強磁性が失われます。この温度を超えると、物質は常磁性になります。

反強磁性体とは

一方、反強磁性体は強磁性体とは異なる特性を持ちます。反強磁性体では、隣り合う原子の磁気モーメント(スピン)が互いに反対方向を向いて整列します。これにより、全体としての磁化は打ち消し合ってゼロになります。

反強磁性体の代表的な例としては、酸化マンガン(MnO)酸化クロム(Cr2O3)酸化鉄(FeO)などがあります。これらの物質は、外部から見ると磁性を示さないように見えますが、内部では複雑な磁気構造を持っています。

強磁性体、反強磁性体、カイラル反強磁性体の比較。(引用元:https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2022/7994/)

反強磁性体の特性

反強磁性体も温度依存性を示します。ネール温度と呼ばれる特定の温度以上になると、反強磁性秩序が失われ、常磁性状態に転移します。

反強磁性体は、一見すると実用的な応用が限られているように思えるかもしれません。しかし、実際には重要な役割を果たしています。例えば、強磁性体と組み合わせて使用することで、磁気記録媒体の安定性を向上させたり、高感度な磁気センサーを作製したりすることができます。

強磁性体と反強磁性体の応用

これらの磁性体の応用は多岐にわたります。
主な例として以下のようなものがあります:

  1. データストレージ:ハードディスクドライブなどの記憶装置(強磁性体)

  2. 電気モーター:電気エネルギーを機械的エネルギーに変換(強磁性体)

  3. 変圧器:電圧を変換する電気機器(強磁性体)

  4. センサー:磁場を検出するデバイス(強磁性体と反強磁性体)

  5. MRI(磁気共鳴画像法):医療診断装置(強磁性体)

  6. スピンバルブ:磁気抵抗効果を利用したデバイス(強磁性体と反強磁性体の組み合わせ)

  7. 交換バイアス:強磁性体と反強磁性体の界面効果を利用した磁気記録媒体の安定化

  8. 磁気冷凍:反強磁性体の磁気エントロピー変化を利用した冷却技術

2007年に開発された初期の磁気冷凍装置(引用元:https://emira-t.jp/ace/21706/)

最新の研究動向

強磁性体と反強磁性体の研究は、現代の物理学や材料科学の重要なテーマの一つです。新しい磁性材料の開発や、その性質の詳細な理解は、より高性能な電子デバイスや省エネルギー技術の実現につながります。

最近では、東京大物性研が反強磁性体の磁区観察に成功しました。詳しくはこちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇

スピントロニクスという新しい分野では、電子の電荷だけでなくスピンも利用して情報を処理する技術の開発が進められています。これにより、より高速で省エネルギーな電子デバイスの実現が期待されています。

また、ナノスケールの磁性体の研究も盛んです。微小な磁性体では、バルクの物質とは異なる興味深い性質が現れることがあります。これらの研究は、将来的には超高密度記録媒体や量子コンピューティングなどの革新的な技術につながる可能性があります。

スピントロニクスに触れてみたいという方には、こちらの書籍がおすすめです👇

まとめ

  • 強磁性体は自発的に磁化を持つ物質

  • 反強磁性体は隣り合うスピンが反対向きに整列する物質

  • 電子スピンの整列が磁性の起源

  • 鉄、ニッケル、コバルトなどが代表的な強磁性体

  • 酸化マンガン、酸化クロムなどが代表的な反強磁性体

  • 磁気ヒステリシスや温度依存性など、特徴的な性質がある

  • データストレージ、電気モーター、センサーなど、幅広い応用がある

  • 新材料開発やナノスケール研究など、最先端の研究が進行中

この記事が勉強になったよという方は、スキお待ちしています🥰
今後も、半導体やテクノロジーに関する分かりやすい記事をお届けしますので、見逃したくない方はフォローも忘れないでくださいね!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

#強磁性体 #反強磁性体 #磁性材料 #物理学 #スピントロニクス

参考文献

https://www.tdk.com/ja/tech-mag/ferrite02/006


おすすめ記事


いいなと思ったら応援しよう!

半導体Times
よろしければサポートもよろしくお願いいたします.頂いたサポートは主に今後の書評執筆用のために使わせていただきます!