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メモリスタとは?抵抗変化を記録する次世代メモリ:基礎用語解説 📚

現代のテクノロジーは絶え間ない技術革新によって進化し続けています。その中でも、メモリスタは最も注目を集める次世代の電子デバイスの一つとして、学術界や産業界で大きな期待を集めています。

メモリスタは、電気抵抗の変化を記憶するメモリ素子の一種です。別名、抵抗変化不揮発性メモリ(ReRAM)と呼びます。この記事では、メモリスタについて説明したいと思います。


揮発性メモリと不揮発性メモリ

メモリには揮発性メモリ不揮発性メモリの2種類があります。

揮発性メモリの代表例であるDRAMは、基本的に電源を切ると記憶内容が除去されてしまうため、ハードディスクなどに落として記憶させます。DRAMの詳細はこちらにまとめています👇

一方の不揮発性メモリは、DRAMとハードディスクを合わせたようなもので、一度書き込むと、電源を切っても記憶した内容を保存してくれます。

また不揮発性メモリ自体が記憶しているため、必要な情報をハードディスクまで呼びに行く必要がなく、起動も速くなりますし、待機電力も小さいというメリットがあります。現在、揮発性メモリであるDRAMを置き換える低消費電力の次世代メモリ技術として、不揮発性メモリが注目されています。

不揮発性メモリには多様な形式がありますが、最も一般的なものがフラッシュメモリで、実際に世の中で多く使われています。フラッシュメモリについてはこちらの記事に詳しくまとめています👇

しかし、フラッシュメモリは、モバイル機器用の小型化や記憶容量に限界があります。そこで、産業界が注目しているのが、金属ではさんだサンドイッチのような構造をしている抵抗変化不揮発性メモリ(ReRAM、 メモリスタ)です 。

メモリスタの歴史

メモリスタは、米University of California, Berkeleyの教授であるLeon Chua氏1971年に発表した論文の中で、その存在を予見した回路素子です。

それから37年を経た2008年4月、米Hewlett-Packard(HP)社の研究部門であるHP Labsが、実際に動作するメモリスタの製造に世界で初めて成功したと発表しました。

原子間力顕微鏡で撮影された17個のメモリスタを持つ回路の画像。 各メモリスタは、ワイヤーで接続された2層の二酸化チタンで構成されており、一方の層に電流を流すと、もう一方の層の微小信号抵抗が変化する。(引用元:https://phys.org/news/2010-04-hp-labs-memristors-video.html#google_vignette)

基本原理と物理学的背景

メモリスタは、電気抵抗の可変性を利用したメモリデバイスです。その動作原理は、酸化金属薄膜内の酸素欠陥の移動に基づいています。

印加される電流の方向と強度によって、デバイス内部の抵抗状態が可逆的に変化する特異な現象を示します。

大阪大学が開発したメモリスタの動作。1→4に従う逆8の字型ヒステリシスをもつ非フィラメント型の抵抗変化が観測できる。(引用元:https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230130_1)

メモリスタの動作メカニズム

電流印加による酸素イオンの移動は、選択的イオン伝導と呼ばれる現象に起因します。具体的には、金属-絶縁体-金属(MIM)構造において、電界印加によって酸素空孔が移動し、デバイスの電気抵抗が変化します。

例えば、HP Labが開発したメモリスタは2層のTiO2(二酸化チタン)薄膜を2つの金属電極で挟み込んだ構造になっています。2層の二酸化チタン薄膜のうち、一方は酸素欠損によってドープされており、半導体として機能します。もう一方の層はドープされておらず、絶縁体として機能します。

HP Labが提案したメモリスタの構造(引用元:https://www.researchgate.net/publication/283046610_Piecewise_Linear_and_Nonlinear_Window_Functions_for_Modelling_of_Nanostructured_Memristor_Device/figures?lo=1)

この構造において2つの電極の間の抵抗値をセンシングすれば、「オン」状態と「オフ」状態を判別できるという仕組みです。

もう少し具体的に話すと、2層の二酸化チタン薄膜の一方が絶縁体として機能している場合は、メモリー・スイッチとしては「オフ」状態になります。

接合部分にバイアス電圧を印加すると、酸素欠損が二酸化チタン薄膜のドープ層から非ドープ層に向かってドリフトすることで導通し始めて、メモリー・スイッチが「オン」状態に遷移します。

同様に、電流の方向を変えれば酸素欠損が再びドープ層に戻ってくるため、メモリー・スイッチは「オフ」状態に戻る仕組みになっています。

応用分野と将来性

1. 不揮発性メモリ

まずは、データを電源を切っても保持できる不揮発性メモリとしての応用が注目されています。これにより、コンピューターやスマートフォンの起動時間を劇的に短縮し、エネルギー消費を大幅に削減できる可能性があります。

2. 人工知能(AI)とニューロモルフィックコンピューティング

メモリスタは、人間の脳の神経回路に近い動作が可能なため、ニューロモルフィックコンピューティングの実現に向けて大きな可能性を秘めています。従来のコンピュータでは難しかった、よりエネルギー効率の高い情報処理が期待されています。

従来型コンピュータとニューロモルフィックコンピュータの違い(引用元:https://blogs.itmedia.co.jp/itsolutionjuku/2019/09/post_731.html)

研究の現状と技術的課題

最近の研究事例としては、東京大学が2025年1月に発表した磁場制御可能なメモリスタがあります👇

メモリスタが、印加された電圧の履歴に加えて磁場の履歴も記憶できるようになれば、磁気メモリへの応用が可能となり、メモリや論理回路、さらにはニューラルネットワークにおいて有用な新たなデバイスの実現につながります。

ただし、メモリスタの実用化に向けていくつかの技術的課題が存在します。例えば上記の東大の研究では、3Kという超低温が求められるということなので、現段階の応用先としては量子コンピューターなど、ごく限られた用途になりそうです。今後も技術動向には要注目です。

まとめ

  • メモリスタは次世代の革新的な電子デバイス

  • 人間の脳に近い情報処理が可能

  • AIやコンピューティングの未来に大きな可能性

  • 現在も研究開発が活発に進行中

  • エネルギー効率と性能の大幅な改善が期待される

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今後も、半導体やテクノロジーに関する分かりやすい記事をお届けしますので、見逃したくない方はフォローも忘れないでくださいね!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

専門用語解説

  • 不揮発性メモリ:電源を切っても情報を保持できるメモリ

  • ニューロモルフィック:脳の神経回路の動作原理を模倣する技術

  • 抵抗変化:電流によって素子の電気抵抗が変化する現象

  • 電子素子:電気的な特性を持つ最小の機能部品

ハッシュタグ
#メモリスタ #抵抗変化型メモリ #ReRAM #メモリ #テクノロジー

参考文献

https://www.researchgate.net/publication/283046610_Piecewise_Linear_and_Nonlinear_Window_Functions_for_Modelling_of_Nanostructured_Memristor_Device/figures?lo=1

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