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【テクノロジー × サステナブル】 「電気の繊維」が描く循環型社会
私たちの身の回りでも多く活用されているウェアラブル機器。手首や腕などに装着できる小型のデバイスを総称し、代表的な機器としてスマートウォッチやメガネのように装着するスマートグラスなどがある。こうした小型で高機能のウェアラブルデバイスもさることながら、電気を流せる夢の繊維が存在することをご存じだろうか?それが電気の繊維「ピエクレックス」だ。
提供するのは、電子部品メーカーである村田製作所の子会社、ピエクレックス社。究極のウェアラブルデバイスとの期待も高いが、現在は繊維から発生する微弱な電気による抗菌効果を特徴とし、スポーツシャツやタオルなどの用途で採用が拡大している。このピエクレックスはテクノロジーを活用した新素材であるだけでなく、植物由来素材の環境にも優しい繊維。この環境に優しい特徴やテクノロジーを生かし、新たなアプローチで循環型社会を目指す取り組みが始まっている。
ピエクレックス社は村田製作所の圧電技術を応用した製品開発が発端となり、帝人フロンティアとの共同出資により発足したベンチャー企業。帝人フロンティアとの共同研究を通じてポリ乳酸の糸をアパレル製品に応用する発想が生まれ、その過程でポリ乳酸繊維が電気を発することで細菌の増殖を防ぐ効果を発見した。電気の繊維ピエクレックスとして商品化し、さまざまなアパレルブランドに採用されている。昨年10月に村田製作所が完全子会社化し、企業ロゴを刷新するなど新たなスタートを切った。
同社は多くの企業・団体と協力し、アパレル・繊維製品の循環インフラ「P-FACTS(ピーファクツ)」の構築に取り組んでいる。ピーファクツは同社が提供するピエクレックスを使用したアパレル・繊維製品を回収し、堆肥化までを一貫して行う取り組み。アパレル・繊維メーカー、パートナー企業、自治体、福祉施設、学校法人などが参画し、すでに運用が始まっている。ピーファクツ対象製品には「P-FACTS認証マーク」が付けられており、使用後は資源として回収。堆肥として活用され、次の植物栽培に再利用されていく。
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ファッション業界では、廃棄物の増加とリサイクル率の低さが深刻な課題となっている。混紡・混織などで2種類以上の繊維素材が複合された繊維は、リサイクルにおいて各素材を分離・分解することが難しく、最終的には廃棄せざるを得ないのが実情。こうした状況は持続可能(サステナブル)な社会の実現を妨げる大きな障壁となっている。
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ピエクレックス社の玉倉大次代表取締役社長は「今の時代、製品を生み出すだけでなく、どのように廃棄するかまで視野に入れて、モノづくりに取り組む必要がある。ファッション業界における廃棄物処理の問題に向き合い、サステナブルな社会の実現に貢献したいという想いからピーファクツの活動を進めている。多くの企業・組織の方に協力いただき、一過性のブームではなく、着実に活動の輪が広がっていることを実感する。ピーファクツの活動を広げていくためには1社だけの力では無理。参画企業を増やし、環境マネジメントシステムの国際規格である『ISO14001』のように、企業や組織が自発的に参画してくれるような循環インフラにしていきたい」と話す。
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同社はピーファクツの活動をさらに拡大するため、12日に東京都内で「ピエクレックスカンファレンス」を開催した。第1回となる今回は「P-FACTSで紡ぐ共創の未来へ ―多様な視点がつながる場」をコンセプトに、ピーファクツに参画する企業・団体・行政などが集い、現在の取り組みや未来への可能性などについて紹介した。会場にはピエクレックスを用いたアパレル製品の展示や新製品発表も行われ、多くの来場者でにぎわった。
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クロージングセッションでは、4月13日から大阪で開催される関西万博で実施するRFIDを活用したピーファクツによる資源循環の取り組みを紹介した。RFIDは電波を用いてICタグ内の情報を非接触で読み書きするシステム。関西万博では大阪・泉南市が誇る「泉州タオル」にRFIDを取り付け、スマホをかざすことで個別の識別番号を読み込む。タオル販売後に識別番号を通じて、抽選で特別なグッズなどをプレゼントする企画を実施する計画だ。玉倉社長は「RFIDを活用することで、製品のトレーサビリティ管理が可能となり、最終的なリサイクルまでの流れを把握することができる。将来的にはピーファクツの目指す循環型経済にも活用される可能性もある」と話す。
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ピエクレックスのブランドアンバサダーを務めるタレントの武井壮さんは「テクノロジーが加わることで、快適性だけでなく環境貢献という新たな価値も付加される。ピエクレックスを用いた製品を使うことで、ピーファクツへの取り組みに参加できる。多くの人に使っていただき、快適で暮らしやすい環境づくりのムーブメントを起こしていきたい」と話した。