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【解説 業界動向】最先端半導体を支えるフォトマスク最新市場動向
半導体製造には多くの工程があり、その一つ一つの工程を経て、半導体デバイスが完成する。大きくはシリコンなどを原材料とするウエハー表面に膜を形成し、回路を描画する前工程とウエハーからチップに切り出し、電極形成、パッケージングを行い半導体デバイスの形にする後工程に分けられる。前工程において最も重要となるのが、回路をウエハーに書き込む露光工程。露光工程では、露光装置を用い、「フォトマスク」と呼ばれる回路パターンを転写するための原版とレンズを通してウエハーに光を照射し、回路を描画していく。この回路は、線幅が狭ければ狭いほど、データ処理速度が速くなり、半導体デバイスの性能を左右する。現在、最先端デバイスでは、3nm(ナノメートル)品が量産されており、さらなる微細化に向けた開発が進められている。
最先端半導体製造の要となるフォトマスク
このような超微細な線幅で回路形成を行うため、露光装置も進化している。最先端の半導体デバイスには、波長が13.5nmのEUV(極端紫外線)を用いたEUV露光装置が使用される。そして、このEUV露光装置を用いた露光工程で不可欠なのが、回路パターンの原版であるEUVフォトマスクだ。従来の露光工程で使用していた光フォトマスクよりも微細で複雑なパターン構造を実現できる高い技術力が必要となり、最先端のフォトマスクを供給できる企業も限られる。主要なフォトマスクメーカーとして、以下の3社を挙げる。
・大日本印刷
・テクセンドフォトマスク(旧・トッパンフォトマスク)
・米フォトロニクス
主要フォトマスクメーカーとして大手印刷会社が名を連ねるのは、活版印刷の基盤技術でもある金属エッチング技術や写真製版技術を応用展開したから。最先端のEUVフォトマスクにおいても、それぞれの微細加工やフォトリソグラフィ技術により実現している。
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半導体の成長とともにフォトマスク市場も拡大
生成AI(人工知能)の普及拡大やデジタル化の進展により、半導体市場は安定的な成長が見込まれている。WSTSの調査によると2025年の半導体市場は前年比11.2%増となり100兆円(対米ドル148.9円換算)に到達する可能性もあると予想される。EUV露光を必要とする最先端デバイスのみならず、レガシー半導体(ここでは線幅28nm以上の半導体を対象とする)においてもフォトマスクは必要。そのため、フォトマスク市場も着実に成長するとの期待が大きい。
フォトマスク市場は半導体メーカーの内製を対象とした「内製市場」と内製部門を持たない半導体メーカーを対象とした「外販市場」に大別される。フォトマスクメーカーが製品を供給しているのは外販市場。半導体市場の拡大とともに、フォトマスクの外販市場も半導体の成長を上回る勢いで成長するとの期待も高い。2000年代以降には微細化競争が激化し、主要半導体メーカーやファウンドリーが先端プロセスで使用するフォトマスクを内製する動きが加速した。こうした動きを背景に、先端プロセス向けフォトマスクの開発から撤退する動きも見られた。現在のフォトマスク市場は、一般的に内製市場70%、外販市場30%とも言われているものの、変化の兆しが見え始めている。
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ラピダス設立や最先端デバイス開発が市場に変化を
潮目が変わり始めたのは、3年前。22年8月にラピダスが設立され、国内でも最先端の半導体デバイスを製造する動きが出始めた。それに加え、主要な半導体メーカーにおいても最先端デバイスの研究開発にリソースを割く傾向が強まっており、従来内製を行っていた非先端分野のフォトマスクを外部から調達する動きも出始めた。こうした動きは内製市場の比率を押し下げ、外販市場が拡大する可能性もある。半導体市場の拡大と最先端領域での開発動向が、フォトマスク市場の成長を加速させる。
追い風吹くも競争は激化…その相手は?
フォトマスク内製市場の変化や半導体需要の拡大は、フォトマスクメーカーにとって追い風ではあるものの、競争は激しさを増す。特に競争が激しくなっているのは中国市場であり、競争相手は中国ローカルのフォトマスクメーカーだ。近年、半導体の国産化率拡大を目指す中国では、フォトマスクメーカーが増えている。中国ファウンドリー企業のマスク事業部門が独立するケースもあり、28nmクラスのマスクまで製造できる技術力を有する企業もある。14nmや7nm対応のフォトマスクを開発しているとの見方もあり、今後の動向も注視する必要がある。