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実装機メーカー 半導体領域への挑戦【第3回】ASMPT
家電から自動車、産業機器まで電気で作動する機器には必ず搭載されている電子基板。電子基板は半導体や電子部品が実装されて形成されているが、この電子基板を製造する工程を「SMT(Surface Mount Technology:表面実装技術)」工程と呼ぶ。SMT工程の要となるのが実装機(マウンタ―)であり、半導体や電子部品をプリント配線版(PCB)に実装する装置だが、半導体の製造にも活用されている。実装機メーカー各社による半導体領域への取り組みを紹介するシリーズの3回目。最終回となる今回は、シンガポールに本社を構えるASMPTの取り組みを紹介する。
半導体とSMTそれぞれで多様な装置を揃える
ASMPTは、半導体およびSMT関連装置を幅広く提供するグローバルな装置メーカー。同社には半導体とSMTの2つのソリューションセグメントがある。半導体ソリューション部門は、ウエハー成膜やレーザーダイシングのほか、ダイボンダ―やワイヤーボンダ―、モールディング装置など、半導体組立に関わる後工程関連装置を提供。SMTソリューション部門は、はんだを塗布する「印刷機」、半導体や電子部品をPCBに載せる「実装機」、印刷されたはんだや部品が正しく実装されたかを検査する「検査装置」など、SMT工程の主要な装置を揃えている。半導体とSMTの両ソリューションとも「ASMPT」のブランドで製品を展開しているため、実装機メーカーというよりも半導体製造装置メーカーとして認識されているケースも多い。
同社の2024年第3四半期(7~9月)における売上高は、前年同期比3.7%減の4億2,850万米ドルとなった。このうち、半導体ソリューション部門の売上高は、前四半期比7.7%増の2億2940万米ドルであったのに対し、SMTソリューション部門の売上高は前四半期比7.5%減の1億9920万米ドルであった。半導体ソリューション部門の好調は、チップ、ディスクリート、オプトエレクトロニクス関連が牽引。一方、SMTソリューション部門の落ち込みは、SMTの市場全体が軟調に推移していることや製品ミックスと数量効果によるものであるとしている。生成AI(人工知能)の普及拡大が半導体需要を押し上げる中、AI関連以外の市場が伸び悩むという現在も続く当時の市況を反映している。
国際通信規格化を主導しスマートファクトリーを推進
SMT工程は実装精度やダイへの低衝撃実装技術など高い技術が求められ、半導体後工程との技術的な境界が変化しつつある。また、人手不足の影響もあり自動化・省人化を進める流れもあり、多くの製造現場でスマートファクトリーの実現を目指す動きが高まっている。同社SMTソリューション部門では、将来における半導体後工程とSMT工程の融合やスマートファクトリーの実現を見据え、データ通信の規格化を進めてきた。それが、国際標準規格「HERMES規格(IPC-HERMES-9852)」だ。
スマートファクトリーを実現するには、生産ラインを構成する各機器間での生産データを集め、各種機器の稼働状況や生産ライン全体でのプロセスデータなどを管理する必要がある。生産状況や品質などの管理システムと連携することで、自動化・省人化のみならず、生産性向上にもつながる。
ASMPTは2017年3月、HERMES規格の国際標準化に向けて、他15社とともに「Hermes Standard Initiative」を立ち上げた。HERMES規格は、SMT工程においてメーカーが異なる装置が混在する生産ラインにも対応。SMT工程のスマート化へ向けた取り組みとして、規格に準拠した装置も増えている。ASMでエレクトロニクス機器の生産を統括するアレッサンドロ・ボナーラ氏は「HERMES規格の導入により、SMTラインの生産工程が改善された。当社ではトレーサビリティを重視しており、特定の部品や基板がどこに収納されているか、どの工程を流れているのかを常に把握することができる」と話す。
より効率的なオペレーション
こうした通信規格の統一により、各種ソフトウェアの更新も効率的に行うことができる。ASMPT SMTソリューション部門で製品管理ソフトウェアソリューションを担当するトーマス・マークシェッフェル ディレクターは「SMTラインにおける従来のソフトウェア変更では、新しいプログラムを手作業で各機械にダウンロードする必要があり、プロセス変更に時間が掛かり、エラーも発生しやすかった。ASMPTの新しい自動プログラム変更機能により、最初のPCBが生産ラインに入ると同時に、工程の変更が自動的に行われる。さらに、最新バージョンでは、オペレーターがステンシルやフィーダーの交換時期を知ることができるため、シームレスな統合を実現している。」と話す。「顧客は、セットアップ時間を最大35%短縮し、不適合コストを大幅に削減できた」(マークシェフェル ディレクター)とし、顧客も大きなメリットを得られる。
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日系企業が中心となり開発した国際通信規格も
ASMPTが主導するHERMES規格に対し、日系SMT関連機器メーカーを中心として開発された国際規格も存在する。それがスマートファクトリー向けの国際通信規格「SEMI SMT-ELS」だ。SEMI SMT-ELSは、ホストおよび装置間の通信や基板と基板データの同時搬送を実現し、リアルタイムかつ柔軟に生産データのやりとりができる。メーカーが異なる装置にも対応。SMT関連機器で高い世界シェアを誇る日系企業が中心となって構築された通信規格であるため、多くのユーザーが利用している。
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SEMI SMT-ELSは半導体製造装置、材料メーカーなどが加盟し、半導体産業の発展を目的とする業界団体「SEMI」が推奨する規格。半導体業界に大きな影響力を持つSEMIの自主規格「SEMI規格」であるため、将来起こりうる半導体後工程とSMT工程の融合においてもシナジーを生み出す可能性もある。
半導体後工程はチップレットや2.5D/3D化などの先進パッケージング技術の進展により、新たな技術進展が起こり始めている。それとともに自動化・省人化の流れを受け、SMT工程との融合を見据える動きも出始めた。実装機メーカーも半導体領域を最重点分野と位置付け、技術開発を加速する。
(おわり)