夢十夜のようなもの 一
このままでは四日坊主のまま一月が終わってしまうので、何か散発的に書けるものを考えてみた結果、一時期に自分がみた夢を小話風にメモしていた時期があったので、ネタがない時に放出して行ってみようと思う。最近の夢も、子供や学生の頃に見たものもある。
言うまでもなく夏目漱石の「夢十夜」を読んで始めたことである。
一
狼の化け物が俺の命を狙っている。
どこからか届いた手紙で、何月何日の何時に俺の命を奪いに来るとの予告がされる。家族は恐れおののき、俺を死なせないようにと色々調べた結果、若い娘をいけにえに捧げることで狼神の狙いをそらすことができると突き止め、どこからか俺と同い年の娘を連れてくる。
予告のあった日時になると、家族は大きな木箱に娘を閉じ込めて家のベランダへ出し、雨戸を閉めてうちの中へ閉じこもる。俺は家族に囲まれ、台所のテーブルの下に隠れて縮こまる。
まもなく外では嵐のようにごうごうと風が吹き荒れた後、やがて静かになる。狼神は去ったかと家族が雨戸をあけ、木箱を室内に取り込んで蓋を開けると、中から娘が無事な姿で現れる。ああよかった、無事で済んだんだと家族は笑いあい、俺と娘だけを家に残して買い物へ出ていく。
皆が居なくなった後、俺は娘に無事でよかったねと声をかける。こちらを向いた娘の口が耳まで裂け、たちまち荒ぶる狼の姿となって俺にとびかかってくる。
真っ暗になった。
二
今はもう取り壊されてしまった自分の生家の部屋の前に立っている。黄色い引き戸を開けると、部屋の中の壁が全て戸棚になっており、どの棚にも黒い鞄のようなものがいっぱいに詰め込まれている。壁の近くに歩み寄ってみると、黒い鞄のようなものに目と足がある。よくよく見ると、それらはすべて生きたワニである。壁という壁に詰め込まれた真っ黒で皺くちゃのワニが、みんな目玉をぎょろぎょろさせてわずかにうごめいている。
ぎょっとして部屋を出ようと振り返ると、いつの間にか部屋の中に一人の男が立っている。どうも頭がおかしいらしく、焦点の定まらない目をしてへらへら笑っている。男はへらへらとしたまま、これから自身の股間をワニに食べさせるんだと宣言する。そんなことはやめておけと慌てて止めるが、男は聞く耳を持たずそのまま壁の方へ近寄っていく。
このままここにいては恐ろしいことが起きると思い、大急ぎで部屋から逃げ出し、耳を強く強く抑えて子供部屋から遠ざかるが、背後からさっきの男があげる恐ろしい苦痛の叫び声が、必死に塞いだ耳を貫いて聞こえてくる。