レクチャー①講評会や作品説明の場で何を話すか?
はじめに
このレクチャーは私の働いている研究室の学生向けに書きました。
そのため「講評会」など学生向けに思えるワードが出ますが、大学のなかに留まらない普遍性を持たせるよう意識して書くようにしました。
実際、このレクチャーの文面を読んでもらったり、講評会を行う際に事前に口頭でポイントを挙げたところ、何か伝わっているような反応が見られたので、掲載したいと思います。
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今日は「講評会」や「展覧会」「コンペティション」などの場面で、自身の作品について話す際に何を話すべきか、考えを書きます。
研究室の講評会で皆さんのプレゼンを聞いていて、「説明」に難しさを感じているように思えたので、私だったら・・・というような思いでまとめようと思います。
参考になる部分があればご活用ください。
ここでは研究室での講評会を例に、話すべき項目を挙げていきます。
展示などで作品を見せるときは、作者が多くを語る必要がない場合も多々ありますが、作品を評価して欲しい場合や、魅力をアピールしたい場合は、的確に作品を説明する必要が出てくるかと思います。
1. 作品概要
枠組みを伝えた上で内容を話そう
まずは、展示されている作品が、どのようなものなのか、端的に状態説明することが重要です。
見ればわかるじゃん、とも思うのですが、自分の「つもり」と鑑賞者の観点は必ずしも合致しないので、概要を説明することは作品について語る第1段階になります。
具体的には、ジャンルや形状、技法を提示するのが良いでしょう。
e.g.「これはキャンバスにアクリル絵の具で描いた抽象絵画です。」
「樟の丸太から一木造りで彫り出した、人物をモチーフとした木彫作品です。」
「3つのパーツを構成したインスタレーション作品です。」
「〇月〇日に〇〇ギャラリーで行ったパフォーマンスを定点カメラで記録したアーカイブです。」
など作品の枠組みを説明すると、鑑賞者は枠組みを前提として作品の内容へ入って行きやすくなると思います。
この前提の共有ができていないと、どんなに内面的な部分を話しても、これは一体なんなの?とふりだしに戻ってしまう可能性があります。
とかく、講評会などの場では、画廊での個展とは異なり、空間全体を思い通りに構築できない場合が多いです。
アトリエの壁にかけただけでは、白台座に置いただけでは、伝わり切らない作品もあるのではないかと思います。
その中で、作品を評価してもらう、伝える、には、ある程度のプレゼンも必要であると私個人は考えています。
2. 制作動機や目的
枠組みの前提が共有できたら、次は、どんなテーマ、目的を持って制作・研究をしているのか、ステートメントやコンセプトを話します。
提示している作品に限った話でもいいですが、過去の作品などからの展開を話すとよりわかりやすいと思います。
自分の中で考えていることや、積み上げてきたものは、他者からは見えにくいので、
・ステートメント
・・・普段こんなことをテーマに制作をし、〇〇について先行研究の調査を行なっている。
・制作の動機・プラン
・・・前作はこういったコンセプトでこういうものを作ったが、今回は〇〇に着目し、このようなプランで制作に至った。
・制作する意義・必然性
・・・この制作(作品)では〇〇を表現することを目的とし、こういった制作方法を選んだ。
このような説明があると、作者についての理解が深まります。
ぱっと見の作品の魅力が、どのような根拠で表れているのかが伝えられると、好き嫌いといった趣味的な感覚以外にも、この作品は美術としてどのような価値があるのか、見出すことができます。
3. 鑑賞者からの意見を求める時
ねらい→実践→結果の観察
作品において、見て欲しいポイントを伝え、リアクションをよく見ましょう。
例えば、技法にこだわった。→その効果は的確に伝わっているか?
こう見せたいと思って、こんな工夫をした。→その結果はどうなのか?
ねらいに対して、実践し、その結果を観察することは、表現に限らず重要なことですが、これによって、伝えたい内容に合わせた表現手段を選択できるようになるためのトレーニングになります。
時として、意図していない意味を拾われてしまうことがあります。鑑賞者の想像力はコントロールできませんし、それがおもしろく効果を発揮することもあります。
しかし、表現したい主題がまったくもって的外れに伝わったり、明らかにそうは見えない、といった状況を回避するには、表現方法とその視覚効果を考慮することは重要かと思います。
ねらいが伝わっていたら、有効な表現方法として自分の経験値が増えますし、効果があまり期待できない場合は、「そのねらいなら、こういう方法はどうか?」などの意見が引き出せるかもしれません。
4. 今後の展望や課題
これは鑑賞者からの意見を受けた上で課題が見つかる場合もあると思うので、難しいですが、今後もこのテーマを掘り下げるべきか?新たな展開が見えているのか?といった自身の手応えを話すことで、有益な情報を集めやすくなるかもしれません。
もっと探求したいから、こういうことをやってみたい。
こんな技法も使える気がする。
といった関心は、内に秘めて育てていくのも大切なのですが、やりたいことを周りに発信することで、思わぬチャンスや情報が舞い込んでくることもあります。
それは、意欲を発信している姿を周りの人が応援しようと思うからで、研究室としてはそういった相互作用で研究が発展することは非常に嬉しいことだと思っています。
モチベーションはマジで大切。
番外:見せ方、展示というパッケージング
展示とアーカイブ
「話すべきこと」ではないので番外編ですが、重要ポイントです。
「1. 作品概要」でも述べたように、講評会などは、アトリエを使って集団で行うことも多く、空間全体を思い通りに構築できなかったり、望ましい展示状態にできない場合もあるかと思います。
しかし、その場においてどのような見せ方が適切か検討し、鑑賞者に提示することは疎かにされてはいけません。
本当はこうなんです、こんなことを考えているんです、という口頭の補足だけでは伝わらない部分は大きく、結局できていない、と見られてしまいます。
例えば、物を置いて見せられない作品(パフォーマンスやワークショップなどの活動)の成果を見せたい場合は、アーカイブという手段がとれます。
記録やプラン、ドキュメントなど、その成果に至るまでのさまざまな素材を提示することで、現場の様子を体験できなくとも、全体像がつかみやすくなるのではないでしょうか。
パワーポイントなどのスライドで、図や文字を示して説明するように、その空間の中で何を提示するのか?ということにこだわりを見出せると良いかと思います。
絵画や彫刻など、物を置くだけで魅力が伝わる、空間が変化するような、完結された物の強さも重要ですが(そういった造形は時間に対する強度があります)、物の扱い方、展示というパッケージングをどう見せるのかを十分検討することも、美術において、制作において、重要な力だと思っています。
おわりに
以上の点を留意すると、理論的に作品説明ができるんじゃないかな・・・と思っています。
私自身、学生の時分に他専攻の授業でプレゼンを勉強したり、学会的な場で話したり、個展の在廊中に話したりする中で模索してきたことなので、途上ではありますが、作品について整然と話すことで、他者へのアピールだけでなく、自分でも改めて気づくことや理解できることがあって、いい実践になるなと感じています。
今回取り上げたことは、研究室の講評会で感じた部分に向けている毛色が強いので、この限りではありませんが、こういう時何話したらいいの?という時に使えたらいいなと思いました。
これにて終わります。
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