さだまさしさんのお庭から vol.33 山吹
『紫野』
七重八重花は咲けども山吹の
みのひとつだに無きぞ悲しき
「やまぶき」と言えば、後拾遺和歌集に編纂されているこの歌と、それにまつわる逸話が思い浮かぶ方もいらっしゃるでしょう。
逸話とはー
若き日の太田道灌が、突然の雨に蓑を借りるべくある小屋に寄ったところ、娘が何も言わず山吹の花一枝を差し出した。蓑を借りることが出来ず、怒った道灌はずぶ濡れで帰宅した。しかし、山吹にはこの和歌の「みの」に「蓑」をかけ、「わが家には、お貸しできる蓑一つさえないのです」の意が託されていたのだと後に教えられ、無学を恥じた、というものです。
八重やまぶきは運動会の飾り付け等に使われる紙のお花を小さくしたような形で、ビタミンカラーのやまぶき色が可愛らしい花です。余談ですが子どもの頃、やまぶきはみかんの花なのだと思っていました。
禍々しささえ感じられるような『紫野』のトーンにはそぐわない気もしますが、花よりも和歌を意識した「実りのない」恋の表現なのでしょうね。
日暮里駅前には、山吹の枝を持つ女性像があるそうです。