終わりと始まりの螺旋階段 【SELSHA通信12月号】
12月もあっという間に終わり、2022年はまもなく閉幕ですね。
今月は石活界隈では最大のイベント、東京ミネラルショーがありましたのでその感想と、12月のお勧め書籍、ドミニク・チェンさんの『未来をつくる言葉』という本をご紹介したいと思います。是非最後までお付き合いください。
2022年の池袋ミネラルショー
12月の池袋ショーは国内最大のミネラルショーということもあって、コロナが落ち着き今年は多くの方が来場して賑わいました。30年くらい前からこういったミネラルイベントが始まったようですが、今ではツイッターのトレンドに入るほど人気になってきています。
各地で開催されているミネラルシーは主催者や出展者によってちょっとつず違いがありますが、池袋ショーの場合はなんと言っても海外からの出展業者が多いこと、小規模なショーよりも鉱物、化石などが多く、元来のミネラルショーらしい特徴があります。
最近ではジュエリーやルース販売、また購入したルースからのジュエリーオーダーが増えていて、デパートや小売店で宝飾品を購入せず、ミネラルショーで探す方が年々増えています。この理由は簡単で、デパートに卸す為のコミッションが必要なく、ミネラルショーでは卸業者が「直販」できるので、その分のコストをカットしてお客様に提供できるからです。SNS時代に皆さんそこ気がつき始めているんですね。
お客さんからすれば、沢山の宝石や鉱物一度に見ることができて、気軽に手に取ることができます。そしてなによりも、同じような宝石でもデパートの価格よりも断然に安く買える。ジュエリーのデザインを重視するとお目当てのものを見つけるのは難しいですが、石そのものや価格重視であれば十二分に楽しめます。SELSHA のブースに来てくださった方の中にも『初めて来ました』という方がいらっしゃいました。この勢いを見ると、今後もそういう傾向が加速していく気がします。
そんなわけで、SELSHAでもこのニーズの応えるべく今回の池袋ショーからリング加工を会場でも受け始めましたが、お客様がそれを聞きつけて、以前買ってくれた石を持ってきたり、メールで問い合わせしてくれたり、いくつかのオーダーを受けました。本当にありがとうございます。一方で、オーダーの説明がよく分からないと指摘されたこともありまして(^-^;) 分かりやすく絵を描いてジャーナルに載せますので今しばらくお待ちください。
20万円の盗難事件
さて、こういうビックイベントは何かしらの事件が起きますが、今年は盗難がありました。実は残念ながら毎年起きていることなのですが、今回発生したのが隣の出展業者だったので、身近な出来事として迫力を感じましたので簡単に触れてみたいと思います。
事件が発生したのは日曜の午後、突然隣にいた出展業者さんA氏が慌ただしく防犯カメラをチェックしはじめたんです。「どうしたんですか?」と尋ねると「20万円のアクアマリンが無くなったんだよ」と言われました。それからA氏はすぐ警察に通報して、10分後に2名のお巡りさんが現場に到着して現場調査が始まりました。とにかく、いろんなことを聞かれたそうです。若い警察官は報告書を書くために必死に天然石の名前をメモっていました。調査が終わったのは閉場時間の2時間後の夜9時でした。
次の日も朝からも鑑識の方らしき人が来て防犯カメラのデーターをチェックしていまいた。バックアップが出来ているか確認したいと言われ、しかしA氏はパソコンも持っていなかったので、急遽私のパソコンを貸して警官がデーターチェックしはじめたのです。(警察が自分のパソコンを触るのってちょっとドキドキしますよね・・・)
その後、他でも盗難の情報が入り、いろんな場所の防犯カメラで同じ犯人が炙り出されてきました。A氏は当然怒っていたのでツイッターで犯人の画像を拡散しようとしましたが、周りから止められて、結局業者間だけで注意喚起の情報をシェアすることになりました。
こうして一連のことが目の前で起きて、LINEに送られてきた20万円のアクアマリンの写真と犯人と思われる人の写真を見て、すごく残念な気持ちになりました。実は防犯カメラに写っていたのは親子で、母親と小学生くらいの娘さんでした。同じ子供を持つ親として、親の軽率な行動が子供の教育にとんでもない影を落としていることに、その子供の将来を思うとすごく可哀そうになりました。
その他にもいろいろ感じたものがあって、今回のミネラルショーの振り返りを妻と対談してみました。音声配信をしていますので、良かったら聞いてみて下さい(^^)/
一年間続けた本の紹介ブログ
振り返ってみると、今年の1月に決めたこと=「毎月1回のブログ」をなんとか年末まで達成出来しましたが、こうやってブログという"アウトプット"を作ることで、書籍をむやみやたらに読むのではなく、一定の判断軸に沿って選ぶし、読みながら常に本筋を探すのでだいぶ吸収率が良いなと感じました。
皆さんはこの1年でどんな本を読みました?
一番印象に残った本はなんですか?
今年は最後にこの本を紹介して終わりたいと思います。
この一年間、ずっと好きで聞いていたラジオ番組中で紹介されていた、「未来をつくる言葉」という本を先月買って読みました。文庫で薄っぺらいものの内容は読み応えがあったので、年末年始にまたゆっくり読み直したいと思っています。
ソーシャルメディア上の分断、あるいは人と人の間で生じる溝、それに対していろんな「処方箋」について、様々なメディアで語られきたが、結局自分はどうしたらいいの?その「分かりあえないこと」をどう捉えたらいいの?
ということに、想いを馳せるために読むと良い本だなと思いました。
最近人間関係で悩んでいる方にはぜひ読んで頂きたいです。
著者は大学の教授でもあるので、論文的な要素があって小難しい言葉が出てきます。しかし、著者の母は日本人、父は台湾とベトナムのハーフ、本人はフランスとアメリカにも住んたことがあり、非常に面白い民族的なバックグランドを持っています。扱う言葉の背後に複数の文化圏があるので、書かれた文章は詩のような柔らなくて、とても読み応えのある内容でした。
まず最初に共感したのは「脱領土化が自分の世界を広げる」という部分です。人は誰でも自分の領土を持っている、しかしそこから出ないことには、自分の領土の大きさや形が分からないし、新しい価値観にも触れられない。
私も9歳の時に中国を離れ日本にやってきて、30歳の時に日本を離れてアイルランド留学、そしてタイで働いた経験があるので、やっぱり異国の土地を歩いて初めて自国の本当の形・大きさについて考え始めると感じました。
一方でもっと身近なことで例えると、自分がやっている仕事を一旦止めて、俯瞰してみて、やっと自分の居場所・立ち位置が分かる。没頭している時は楽しいかもしれませんが、ふと思った時に自分の居場所がわからなくなることはよくありますよね。
さすが著者は物理的に複数の国を渡り歩いてきたし、言語的にもいくつかの文化圏を移動して、人とのコミュニケーションについて独自な見解を持っています。この言葉が凄く腑に落ちました。
つまり、私たちは完全に分かりあうことはできない。むしろ、わかりあえなさによってこそ、コミュニケーションが生じ、新たなものが生まれるきっかけになる。
結婚して7年目になりますが、テレビの無い我が家において、まさに「わかりあえなさの受容」の上にコミュニケーションが成り立っている気がします。
「どうして分かってくれないの?」という夫婦喧嘩の定番フレーズ。まだまだ言葉が発達段階の3歳の息子も、自分の気持ちを言葉で表現することができずに黙り込んだり、感情のままに癇癪を起こしたりすることがあります。
ですが、そもそも、「わかりあえない愛しい存在」として捉えた時、見える風景は変わるはずです。
それでも私たちは「分かり合えない」ことを知りながらも、わずかにでも分かろうと近づき続けているのです。言葉やその他の表現を工夫しているのです。ただ、圧倒的に女性に比べて男性は無頓着というか、繊細にできていないので・・・・あまり気が付かないのです。
実はこうやってブログを書いていますが、今いる自分が感じた1%くらいを、読んでくれている人に伝えられたらいいなーと願いを込めています(^-^)
今年の一年、私の身の回りでは結婚、離婚、出産、死別、出会いと別れがいつくかも起きていますが、ある側面から見ると、その「終わり」が別の「は始まり」のきっかけとなって繰り返して過去と未来を結ぶ「螺旋階段」にも見える気がしています。
私の仕事に置き換えてみると、心ときめく天然石を探しては、それを写真や文章にして表現する。それを見たお客様が天然石を購入してくれて、新な作品にする、あるいは飾って愛でるという瞬間に、聞き手だった人が語り手に変わる。私にとっては石を手放す「終わり」の瞬間は、お客様にとっては石を迎える「始まり」でもあります。
その繰り返しの度に新しい表現、新しい天然石が登場するのですが、この旋律がずっと頭のどこかで奏でられていて、なかなか言語化できずにいました。本書の冒頭にまさにそれについて書かれていたので、読まずにはいられなかったのです。
というわけで今年の最後にこの「未来をつくる言葉」を紹介しましたが、皆さんにとって、今年一年の「終わり」が新たな素晴らしい「始まり」になることを祈って、ブログを終わりにしたいと思います(^-^)
毎回ブログを読んでくださり、本当にありがとうございました。来年は少しペースを落として、不定期にブログを掲載します。これからもSELSHAをどうぞよろしくお願いいたします。
SELSHAのインスタグラム:https://www.instagram.com/selsha_stone