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本当は風太郎だった

小学生の時に大体の人が体験する『名前の由来をお家の人に聞いてきましょう!』というやつ。

私の両親は少し、変わっていて、いわゆる普通、と言われる家庭ではなかった。
なんて言ったって、30年以上前に『ふう』という名前を子供につけてしまう人たちだ。

父はグラフィックデザイナーで、自分の事務所に寝泊りすることがしょっちゅうあって、家にいないことも多かった。母は学校の先生をしていたり役場に行ったり自宅で教室を開いたり、忙しくしていた。

私は3兄妹の末っ子で、兄と姉がいる。生まれた時から周りには多くの人間がいて、自分が世界の中心だった。さすが末っ子である。そしてリカちゃん人形よりもレゴよりも庭のミミズが好きだった。

そんな私が生まれる時、両親はなぜか男の子が生まれてくると思っていた。そして、完璧な名前を用意していた。

風太郎である。

生まれてみたら、女の子だった。なんかごめん。

女の子なら太郎じゃないね、と風の漢字と音だけが残った。風は飛んでいってしまうから根を生やして楓にしようとした。そうしたら祖母が言った。

『なんか違う』

え!?なんか違うって何!?
そんな祖母の鶴の一声で平仮名が採用されることとなった。

そしてどの段階でも『フウ』にこだわり続けたのは何故なのか。謎である。

両親の変わり種具合はここで終わらない。

実は、由来を聞くたびに違う答えが返ってきていた。信じられない。

ひとつ目は前述『風太郎』説。

ふたつ目は、『ため息』説。
なんでも3人目だからため息出ちゃった、とのことだった。ひどい。
そんなこと言いながら、今でも3人までが限度と言われる帝王切開の末に生まれた。そりゃ、ため息もつきたくなるかもしれない。

そしてみっつ目。これが一番まともかもしれない『太陽の子由来』説。
灰谷健次郎著の太陽の子。主人公の小学6年生”ふうちゃん”である。
本名は芙由子、沖縄出身の両親を持つ神戸に住む元気な女の子で、周囲からふうちゃんと呼ばれている。私は彼女と違い、リレーで学校代表になるような俊足ではなかったが、この由来は気に入っている。名前が縁で読み始めて、ずっしりと気分が沈んだが、良い作品であることには変わりない。


実はもうひとつ、Nikkiという名前も持っている。スイスで働いている時用に使っている。これも非常に単純で、勤務先の会社名を少しもじっただけ。お客さんに私の会社だと思われてしまうくらいにはややこしい。失敗した。と思ったけど、社長が名付けてそのまま、使い続けていたら馴染んでしまい、もはや今では気に入っている。本名と両方使い分けているので現地の友人たちも心得ていて、今はNikki time?とか聞いてくる。面白い。


幼少当時は珍しく、今でも聞き返されることの多い名前ではあるが、最近同名を見かけることが少しだけ増えた。ふうか、ふうこは今までも会えていたが、2文字で完結するのは珍しい。たまたま知り合った人のお子さんは漢字2文字、偶然見かけた新聞の読者投稿欄にはなんと平仮名のふうさんがいた。初めてだ!いつか会ってみたい。
有名漫画には私と正反対の『風ちゃん』が出てきたり、ソフトバンクの奇妙なキャラとして突如として現れた『ふうさん』、静岡の御前崎にはなんと恋愛成就のパワーを秘めた『ふうちゃん』が存在する。喜多方ラーメンの河京のマスコットキャラクターにも『ふぅちゃん』は登場する(う、が小文字らしい)。片仮名版『フウ』に至っては、あの世界のポケモンにすら採用されている。
珍しい珍しいと言われていたが、もはや全国区となった私の名前である。


一番初めに世に出たのは私だと思いたい。初めてに何の意味もないが、一つくらい世界で初めて、を持ってみたいという願望である。


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ふう
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