研究結果から導く!脳卒中片麻痺者のトイレ動作(下衣操作)のリハビリテーション介入-神経システムを考慮した評価・アプローチの具体例-
脳卒中のリハビリテーションってめっちゃ悩みませんか?
脳卒中のリハビリテーションについては
・何をどのように評価していいかわからない
・評価結果をどのようにアプローチに繋げていいかわからない
・脳機能と症状との関係を捉えにくい
・脳のリハビリなのに気がつけば身体機能的なアプローチばかりしている
・脳画像をどのように臨床に活かせばよいかわからない
・脳卒中に特化したADLのアプローチ方法がわからない
などなど、キリが無いほど悩み相談を受けることがあります。
実際の臨床では、脳画像を確認し、予測される機能障害との一致度を検討し、一致していない部分はどうしてかを考察する。
そして、損傷部位に応じた病態把握を行い、適切な評価手段を用いて評価し、結果を解釈しアプローチにつなげる、という流れが必要になります。
脳卒中のリハビリがよくわからない方の最大の共通点、それは、、、
「損傷部位における神経システムが、具体的にどのような問題として現れやすいか」を理解できていない事にあります。
脳卒中リハビリテーションで結果を出せないでいると
まず、自分が提供するリハビリテーションに自信を持てなくなります。
すると常に不安を抱えながらリハビリを行う事になるので、対象者への態度にも自信のなさが表れます。
「なんで私はうまく動けないんですか?」
と聞かれた際に、ごまかして説明してしまいがちになります。
「脳卒中片麻痺者のトイレ動作(下衣操作)のリハビリテーション介入」の出番です
このnoteは、臨床で悩むことの多い、脳卒中者のトイレ動作、特に下衣操作に焦点を当てています。
トイレ動作に関しては様々な研究がなされており、その意味を読み解くことで、臨床で必要なトイレ動作のの評価とアプローチが見えてきます。
そこから必要な評価が考えられ、評価結果に応じたアプローチが組み立てられる。
そのようなことを目指して作りました。
もちろん、症状には個人差がありますが、ベーシックな考え方ができるように内容が構成されています。
患者様に、症状の出方やアプローチの考え方を説明する際にも、もちろん使える内容になっています。
マガジンでは、在宅復帰に必要なマネージメントや在宅復帰につなげるトイレ動作へのアプローチについて、お求めやすいお値段設定で販売中です。
脳卒中片麻痺者と排泄動作
日常生活動作(ADL)において、在宅復帰を可能とする要因は排泄動作の自立度が重要となります。
このように、トイレ動作の問題をいかに解決するかが、在宅復帰に向けてのリハビリテーションを実施する上で重要になることがわかります。
脳卒中片麻痺者のADLに影響を与える要因
脳卒中片麻痺者の日常生活活動には多くの因子が影響している事が報告されています。
様々な影響があるからこそ、どのような要素が排泄動作に影響を与えているのかを、評価し、アプローチしていく事が求められています。
そのためには、トイレ動作がどのように行われているのかを把握し、患者様がどの部分で、どのような原因によって動作が行いにくいのかを評価する必要があります。
トイレ動作の構成要素
まずは、トイレ動作を分析するにあたって、トイレ動作に必要な要素を確認していきます。
排泄行為に必要な動作
尿便意を認知する
排泄してよい所まで我慢する
移動する
衣服の操作を行う
排泄する
清潔にする
トイレ動作の要素
トイレまで行く
ドアを開けてトイレに入り、ドアを閉める
(便座ふたの上げ下げ•••洋式)
下衣を下ろす
座る(和式であればしゃがむ)
用を足す(いきむ等)
拭く
(水を流す•••水洗)
立ち上がる
下衣を上げる、上衣の裾を入れる
ドアを開けてトイレから出て、ドアを閉める
一口にトイレ動作と言っても、動作としては11項目にも分類されている事がわかります。
「トイレまで行く」ためには、寝ている場合はそこから起居動作も含まれるため、かなりの工程数があることがわかります。
そのため、トイレ動作は他の動作に比べて、動作獲得の難易度が高い動作だとも言われています。
トイレ動作に必要な要素
トイレ動作は、中間位での抗重力活動が必要になります。
中間位というのは、例えば下衣操作をする際には、直立立位で行うわけではなくて、股関節と膝関節を必要な分だけ屈曲させながら、上げ下ろしを行います。
体幹運動では、体幹側屈としては下衣の上げ下げ動作、トイレへの移乗動作、排泄後の清拭動作時があります。
体幹伸展での回旋としては、トイレットペーパーを取るための上肢のリーチ動作が挙げられます。
体幹屈曲運動としては、自己カテーテル法や排泄後の清拭動作が挙げられます。
トイレ動作ではバランス能力も重要になります。
バランスを保つには、身体重心線が支持基底面内に収まっていることが要件になります。
バランスの良し悪しというのは、姿勢や動作時に観察される安定性や不安定性の度合いを表しています。
トイレ動作におけるバランス要素としては、
①支持基底面内の一定の位置に重心を保つ姿勢保持(静的バランス)
②支持基底面内での重心移動
③立ち上がりや歩行といった支持基底面の変化に応じて重心を移動する動的動作
の3つが考えられています。
バランスの構成要素(定義を確認)
バランス保持の定義
バランスを保持するというのは、以下の要素が複合的に影響し合っています。
姿勢を保てるというの事は、支持基底面内に重心点を留める事ができているという事です。
これはバランス保持の定義のようなものなので、理解しておく必要があります。
次に、バランスの構成要素を確認していきます。
抗重力筋
重心を留めるために必要な筋肉を、抗重力筋と呼びます。
正常立位では重心線が身体のやや前方を通る事から、後面の筋(脊柱起立筋、大臀筋、ハムストリングス、下腿三頭筋)は持続的な筋緊張を保たなければなりません。
このような姿勢筋の事を、「主要姿勢筋」と呼びます。
感覚
重心を留めるために必要な感覚の事を、「前庭覚」「視覚」「体性感覚」と言います。
視覚、体性感覚、前庭覚を統合することで、自分の重心点がどこにあるかがわかるようになっています。
脳卒中者では、感覚障害が生じる可能性もあるため、バランス保持や動作の安定性に大きく影響を与えてしまう要因になりえます。
立ち直り反射
重心点が逸脱しないようにする反応の事を、「立ち直り反射」と呼びます。
体幹筋の出力低下や筋緊張低下などの問題は、立ち直り反応を乏しくする可能性があり、バランス不良につながります。
ストラテジー
重心点を移動可能にするものを、「ストラテジー」と呼びます。
ストラテジーには、「股関節戦略」、「足関節戦略」。「ステッピング戦略」があります。
•足関節戦略は足長に対して長く硬い、変動がおきにくい支持面でのバランス保持に用います。
股関節戦略は足長に対して短い支持面で、それが柔軟もしくは足関節戦略が無効(無効だと認識されるものも含む)なときのバランス保持に用いられます。
トイレ動作では、各動作の状況に応じて各ストラテジーは使い分けられています。
姿勢筋緊張
姿勢筋(抗重力筋)をある一定の張力に保つには、適切な「姿勢筋緊張」が必要になります。
筋緊張は無意識レベルでコントロールされますが、脳卒中者では筋緊張のコントロールに問題が生じる場合があり、適切な評価・介入を行うことが必要になります。
前庭系の役割
バランスに関する前庭系の機能解剖で知っておいてほしいことを復習していきます。
•前庭神経核:前庭神経の感覚が入力される
•前庭神経の機能低下:重心がどうなっているかという感覚がわからない
•前庭覚が入力されるところ:それぞれ蝸牛、耳石器、半規管
•半規管:回転性の加速度
リンパ液があり、頚部回旋でリンパ液が流れ、その回転を知る
•耳石器:垂直と水平の加速度、重力を知る
前庭系が関与する神経回路に、「外側前庭脊髄路」があります。
外側前庭脊髄路は、下肢筋の伸展運動に関与します(下肢の抗重力伸展活動)。
姿勢筋緊張を適切にコントロールし、下肢伸展運動を保つ働きがあります。
外側前庭脊髄路の働きによって、支持基底面内に身体重心を留めることができ、身体重心を高い位置に保つことも可能になります。
下肢伸展活動の障害があると、支持基底面から身体重心が逸脱し、転倒のリスクが高まります。
前庭系と小脳は関係があり、室頂核(姿勢制御の記憶)の問題で前庭系の障害が生じるとも言われています。
筋緊張のコントロール(簡単に)
筋緊張は、不随意(無意識的)にコントロールされています。
姿勢保持で適切な筋緊張が保たれるには、延髄網様体からの中枢性の調節が動的γ運動ニューロンを介して、Ⅰa感覚神経応答の感度(速さ)を高める事が必要です。
これは、「伸筋の遠心性従重力コントロール」ということになります。
また、橋網様体や前庭脊髄路からの中枢性の調節が静的γ運動ニューロンを介して、Ⅱ感覚神経応答の感度(長さ)を高めめる事が必要です。
これは、「伸筋の求心性抗重力コントロール」ということになります。
トイレ動作に関連する構成要素・動作の難易度
トイレ動作に関連する動作の難易度についての報告を見ていきます。
下衣操作は、全体的に難易度が高いことが報告されており、動作獲得のためには、機能練習や環境設定を含めた動作習得のための練習を、早期から取り組む必要がある事が理解できると思います。
次に、トイレ動作の各動作の難易度と、そのパフォーマンスの予測因子ついて確認をしていきます。
この報告においても、「ズボンを履く」動作のパフォーマンス改善には難易度が高い事が示されており、バランス障害との関連性がその予測因子になる事、さらに介入内容としてバランス練習の必要性が示されています。
トイレ動作自立に必要なバランス能力 (カットオフ値は存在するのか)
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