【SELFの本棚】#046 スマート・テロワール 松尾雅彦著
(写真と文:SELF編集部 かつ しんいちろう)
元カルビーの社長で2018年にお亡くなりになった松尾雅彦さんが2014年に書かれた本。効率重視のグローバル経済は争いを生み出しながら滅亡への道を歩む。持続可能な日本社会のためには、都市部以外の場所に100個くらいの地域自給圏「スマート・テロワール」を作ろうという提言書です。
農水省の資料等も使い、今の生産作物のアンバランス、地域内流通網の整備の必要性など地域でこれからとるべき農政政策へのヒントも多くあります。
また、少子化対策も都会で都会の子育てのしづらさを解決するのではなく、”向都離村”で都会に出て行った女性が安心して地方に戻って来れる環境を作ることで、解決しようという提案もしています。特にシングルマザーには手厚い政策で迎え入れる政策が有効だとしています。男女共同参画とはほど遠い男尊女卑の地方には「もう帰りたくない」と思わせている人たちを生み出しているのは、今の地域であるという論は、最近ある町の懇談会で聞いた内容と同じでした。
著者は日本におけるカール・ポランニーの研究家として有名な野口建彦氏や栗本慎一郎氏と交流が深かったこともあり、ポランニーの言説にも大きく影響を受けています。市場主義経済一辺倒では、いづれ立ちいかなくなるというのは、カルビーを経営しながら全世界を周っていた著者の肌感覚から生まれてきたと書いてありました。
地域経済の中で個人的な利益の追求より相互の関係性を尊重することで生まれる成果に期待することが、荒廃する社会から抜け出す手立てだと主張しています。
「日本で最も美しい村」連合の立ち上げにも参画され、全国に住民全員が農にたずさわり、景観・文化を守りつつ、自立を目指す地域の応援する様子も書かれています。鹿児島県では喜界町が登録されています。
サトウキビ栽培の盛んな奄美群島においても、サトウキビだけでなく、自給圏を考えた作物ミックスへとシフトし、島内流通の仕組みの整備を島民みんなで考える時期に来ているのではと感じました。そうした作物ミックスや域内物流は、決して新しいことではなく恐らくどこの地域にもあったもので、それを進化させて復活させるという行為になります。そのためには、マインドセットの転換が重要になります。
最近、地域経済循環について仲間と話をする機会が増えている中、良い本に巡り合いました。