【SELFの本棚】#52 冒険の書 孫 泰蔵著
(SELF編集部:かつ しんいちろう)
高校では3年生が私立受験が終り来週から国公立の受験が始まる時期です。本人である生徒も、先生も親御さんもみなさんピリピリしています。
希望の大学に行き、希望の就職をして人生安泰。そんなことを思っている人はいないにもかかわらず、なんとなく既定路線に安心する私たち。希望の大学でなく偏差値が高く評判の良い大学。希望の就職先でなく名の通った企業。そうした選び方がデフォルトになっていますよね。でも、それって薄々変だとは思っていますよね。なのにやっぱり『一流○○』という虚構に縛られて流されますよね。
そうした認知バイアスを取り払って、未来を切り拓いていこう。そうした提案がなされているのが、この本です。
タイトルが『冒険の書』、副題がAI時代のアンラーニングとあるので、そこから内容を推察するのは難しいかもしれません。
この本の中で孫さんは、大学受験までで続く知識詰込み合戦としての『教育』ではなく、年齢を問わず学び合い、育み合う『学育』にチェンジすることを提案しています。
問いを立て、実践し、そこから学んでまた問いを立てる。その繰り返しが探究であり、「はい、できました」と問題を解いて終わるものではないということが、歴史上の賢者たちとの架空の対話から導き出されています。
今のやり方を否定して新しいやり方を提唱するのではなく、そもそも今のやり方ってどういういきさつで出来上がってきたものだっけ?という問いに対する冒険をするなかで、既存概念の成り立ちのヤバさや、誤りを指摘しています。
特に、以前は知識は人から人に伝達するしかなかったゆえに成り立ってきたシステムが、YouTubeやAIで豊富なメディアから好きな時に好きなだけ学ぶことができるGAI(Generative Artificial Intelligence)の時代は全く様相が変わってきました。覚えているかどうかを試すテストも意味が薄れてきました。
前の人たちの考えた枠組みは検索したりプロンプトをたたけば出てくるので、私たちはいかに問いを立て、それに動かされて実践し、そこから沸いた疑問からさらに問いを立てる、そんな繰り返しに喜びがあるということを伝えています。
価値評価を意識したマネー資本主義からアプリシエーション(あるモノやコトを理解し、認め、感謝すること)ベースの対話で地球環境を良くして行こうよという提案がなされています。得た知識を積み重ねて枠や型で自身を取り囲むのではなく、新たな問いを立てることで未来を切り拓くアンラーニング。
薄々「違うんじゃないか?」と感じていることは、そろそろ「違うよね。だったらこうしてみよう。」と動き出す時期が来ているようです。ストーリー仕立てで分かりやすく丁寧に解説しているので中学生から大人まで読んで欲しい1冊です。