【SELFの本棚】#034 『ネイチャー資本主義 環境問題を克服する資本主義の到来 (PHP新書)』(夫馬 賢治 著)
(文責: SELF小平)
もともと、環境問題における敵は大企業だった。
例えば、映画のエリン・ブロコビッチは環境汚染を起こす大企業とジュリアロバーツが演じる弁護士がバトルする映画だった。日本でも「悪の大企業vs草の根のNPO活動家」というような対立構図で環境問題は語られ、資本主義は常に環境問題の敵だった。
ところが今回紹介する「ネイチャー資本主義」によると、ESG投資が広がることで、その構図が変化し、今や資本主義は環境問題の敵ではないという。それは投資の大部分を年金運用などを行う機関投資家が占めるようになった事が大きいそう。機関投資家は年金運用など長いスパンでの運用が可能なので、環境問題の解決に熱心な企業に長期投資をする事ができるようになった。2020年のESG投資の額は20兆ドル、全投資の35%を超え、さらに増加していっている。ESG投資の基準は環境系NPOも参加した中で作られていることから、今や、昔は敵だった大企業と環境NPOは手を取り合って戦略を練る蜜月の時代を迎えている。企業の積極的な投資によって環境問題を取り巻く状況は大きくポジティブに動くと楽観的な見方を筆者は示している。では、誰がこれからの環境問題解決を進める上でリスクなのだろうか。それは「取り残される市民」と「陰謀論」だ、、、というのが本書の大きなポイントでもある。
読んだ感想としては、「公正な移行」(just transition)という概念が良かった。自分は今まで、「脱炭素や再生エネルギーの導入には賛成だが、短期的には、まさに今起こっているようなエネルギー価格の上昇や雇用の喪失があり、それは主にリッチな金融担当者ではなく、貧困層に多くのネガティブな影響が起こる。誰が短期的な歪みに責任を果たすのか?」という疑問が長らくあった。
前述の「取り残される市民」はまさにこの問題による歪みで、特に石炭や石油業界が多くの雇用を支えるアメリカ南部でトランプが支持を伸ばしたように、「地球温暖化は起こっていない」みたいな非科学的な陰謀論とセットになっている。それにはどう答えているのだろうか?
文中にあった上記のように、「誰も取り残されない公正な社会形態の移行」がサーキュラーエコノミーモデル型の社会を作る事に大きく影響するようだ。もちろん困難な道で、陰謀論を振りかざす右派の台頭、大企業という敵がいなくなり非科学的な反グローバル思想に走った急進左派など、政治的なリスクもある。その中で厳しい舵取りをとるのだけれど、変化した金融業界の動きは歓迎したいし、自分も経営者として、自社の雇用をまもるためにも「公正な移行」の波に乗り遅れないようにビジネスモデルを少しづつ変えていけないと思った。
そのほかにプラネットバウンダリー、限定的デカップリング、ネイチャーポジティブなど、さまざまな最近の環境問題の概念を理解するのにも役立つ。環境問題に詳しい人よりも、なんとなく、ビジネスと環境問題はゼロサム対立構造にあるというイメージを持っていた、自分のような経営者にこそ読んでもらいたい。
後さいごに、以下のような文章もあり、なかなか舌鋒鋭い身も蓋もない文章なので、NPOの活動についても色々考えされられることも請け合いだ。