【SELF アクション】CN分科会10月報告「住宅・建築のカーボンニュートラル」
鹿児島をよりサステナブルにするためのSELFアクション。今回はカーボンニュートラル分科会での活動をご紹介します。今回は持ち回りセミナーとして、「おりなす設計室」/「くらしとエネルギー社」代表の田渕一将さんから「住宅・建築のカーボンニュートラル」に関するセミナーを提供していただきました。日本の建築の現状と未来のあるべき方向性はどのようなものでしょうか?
1.日本の建築エネルギーの現状
日本のエネルギーの3割は建物に対して使われています(※建物からの二酸化炭素排出量32%とエネルギー割合は同程度)。また、建物に関係するエネルギーのうち3分の1は冷暖房に使われています。つまり、日本のエネルギーの1割が建物の冷暖房に使われており、CO2排出量も同程度が冷暖房エネルギー由来と言えるとのことです。
住宅に関わる冷暖房以外のCO2排出は自家用車や冷暖房以外の家電の利用に関する部分であり、建築業界からのカーボンニュートラルに対するアプローチとしては、まずは冷暖房エネルギーをどうやって減らしていくかが重要とのことです。
2.日本の建築は穴のあいたバケツ
2050年のカーボンニュートラルの実現のために建築業界が出来ることはまずは冷暖房の効率化ということになりそう。それでは今の日本の建築のエネルギー効率性はどうなのでしょうか?
住宅の冷暖房エネルギーの削減に直結するのは断熱性能とのこと。しかし、多くの先進国が断熱性能の義務基準を高いレベルに設定する中で、日本には未だ義務基準すら存在しておらず、そんな日本の住宅・建築に冷暖房などの熱エネルギーを注いでもその供給を止めるとすぐに注いだ熱が屋外へと流れ出て、暑くなったり寒くなったりします。それゆえに日本の建築は水を注いでもすぐに穴から漏れ出てくるような「穴のあいたバケツ」状態なのだそう。
日本では住宅のエネルギー効率性を量る指標としてBEI (省エネルギー性能指標 / Building Energy-efficiency Indexの略)という指標が使われています。基準となるエネルギー量に対し、その建物が何割のエネルギーだけで過ごせるかという指標とのこと。数字が低いほどその家の省エネ性能が優れているということだそうです。
このBEIにはもちろん冷暖房エネルギーが関係していて、より良い数値を目指すためには住宅の断熱性能をしっかり確保するなど、水が漏れるバケツの穴を塞ぐように熱の損失が少なくなる計画が重要になのだそうです。
日本では現状、BEI=1.0という基準値に満たない住宅が90%近くあります。
国交省は、住宅のエネルギー消費量を減らしてCO2排出量を減らすために、2050年には日本の住宅全ての平均BEIを0.8以下(基準の80%以下のエネルギー消費量)にするという目標を明言しています。
しかし、これで本当にカーボンニュートラルが実現可能なのでしょうか。
3.日本で実現できない落とし穴
日本では住宅・建築のカーボンニュートラルへの様々なハードルがあるとのこと。
住宅・建築で年間に消費されるエネルギーと同じだけの再生可能エネルギーを作れば住宅・建築のカーボンニュートラルになるかというと実際はそうではありません。
日本の住宅・建築のエネルギー消費は、暖房需要が高まる冬に大きなピークを迎えます。つまり、年間消費分と同じだけの再生可能エネルギーを作っても、このピーク時の負荷を抑制できなければ一時的にエネルギー不足となってしまいます。
新築のみならず、既存住宅の断熱改修も大きな課題だそうです。国が作成した住宅・建築の脱炭素ロードマップでは2035年には無断熱住宅が解体や改修により0になる予定ですが、どうやってそれを実現するか検討できていないのが現状です。
海外の事例ですが、オーストリアなどのエネルギー政策に熱心な国は住宅・建築の断熱改修への取り組みが積極的に行われているようです。カーボンニュートラル実現のためには、今後日本でも断熱改修に積極的に取り組んでいく事が求められます。
4.先進的な地方自治体と世界各国の取り組み
国としての取り組みがようやく動き出した日本ですが、それに先んじて積極的に動いている地方自治体がいくつかあります。
取り組みの例としては大きく2種類。国の基準以上の断熱性能基準を策定してその推進に努める取り組みと、公共建築物(学校)の断熱改修を市民や学生がワークショップで行うことで参加者にその必要性を知ってもらう取り組みがあります。
今回は一例として、鳥取県の取り組みを紹介してもらいました。
鳥取県では、国の断熱性能基準を大幅に上回る基準を3段階に分けて設定しています。それぞれの段階で冷暖房費が約30%・50%・70%と削減できる見込みとなっています。また、この取り組みを紹介するホームページには、高断熱高気密化による「健康改善」「血圧改善・子どもの神経発達への影響」などの身体への室温維持による影響も紹介されています。
この住宅・建築の断熱性能と健康促進という視点が重要で、海外ではイギリス等が冬季の最低室温基準を設けています。この基準を満たせない賃貸住宅は、居住者の健康リスクと暖房エネルギーロスという問題が発生するため、断熱改修命令が出ます。
このように住宅・建築のカーボンニュートラルは、エネルギー面の便益(エネルギーベネフィット)だけを訴えた取り組みをするのでは無く、健康促進やそれに伴う医療費負担削減などの非エネルギー面の便益(ノンエネルギーベネフィット)を考える事が普及促進のためのカギになるとのこと。
鹿児島は冬季死亡増加率が高い地域であり、医療費負担額も全国ワースト3にも入る地域です。暮らしやすい居住環境のためには、住宅の温熱環境をいかに整えていくかがとても重要と言えるのだそうです。
5.住宅・建築のカーボンニュートラルの実例
最後にカーボンニュートラルの実例を紹介して頂きました。
住宅の事例として紹介してもらった「山形エコハウス」は2010年に建てられました。
高い断熱性能と気密性能はもちろんのこと、太陽光発電や太陽熱温水器だけでは無く、薪ストーブやペレットボイラー等のバイオマス燃料による再生可能エネルギーも積極的に活用しています。また、建築から1年後に東日本大震災で電気・ガスの供給が数日停まったのですが、断熱気密の性能と窓ガラス面からの日射熱を取り込むことにより、無暖房状態でも最低室温が18℃以上に保たれていたそうです(山形県の3月の平均気温は5℃程度)。
住宅以外の事例として紹介されたのが、長野県の企業「木下建工株式会社」の新社屋です。2020年に新築された社屋なのですが、しっかりと断熱性能を確保する事でゼロエネルギー且つ働きやすい温熱環境の両立を実現しています。2019年12月の旧社屋でのエネルギー消費量と2020年12月の新社屋でのエネルギー消費量を床面積当たりのCO2排出量に換算して比較したところ、これまでの1/4以下になっていた事が分かったそうです。これに太陽光発電による創エネを加味するとCO2排出量が0となり、カーボンニュートラルが実現します。非常に燃費の良い建物です。
6.SELFで行いたいこと
SELFのCN分科会では鹿児島県の自治体建築基準の作成と提言を行いたいと思っています。また、先日の【SELF アクション】CN分科会スピンオフ企画 「新しい"家”を作ろう」#001( https://note.com/self_community/n/ndad76f1a4537 ) のように実際の先進的な建築を作る取り組みも進めていきたいと思っています。参加したい人も募集中。鹿児島を住宅・建築のカーボンニュートラルの最先端地域にできるよう一緒に動きましょう!