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一目惚れした子を接客した話

「びすけっと」という名前で出会ったその子は、優しくて、ドラマのワンシーンのようにクスッと笑う子だった。

灰色のダボっとしたスウェットに短パン、サンダル姿の彼女と初めて会った時、雷に打たれるような感覚があった。一瞬にして「好き」という感情が湧いて、まさに運命を感じる出会いだったと思う。

彼女とは、3回だけデートした。デートと言っても、夜の街を一緒に歩くだけ。お酒も飲まない。手も繋がない。ただ、ただ歩きながら他愛もない話をする。関係を一歩進めたい自分の心を押し殺しながらも二人で時を過ごした。それはまるで、ガラスの中で揺れる炎みたいな時間だった。

綺麗な恋を創るのは、大学生には難しい気がする。大学生は時間を無駄にしがちだし、汚しがちだから。汚すことは間違いじゃないけど、僕はこの恋はどうしても綺麗なままにしたかった。


「この車を運転する人にも、きっとみんな家族がいる」「この人たちはどこまで行くんだろうね」
高速道路をまたぐ陸橋の上で、流れる車を眺めながら彼女はそう呟いた。

当時、彼女は大学一年生、僕は大学二年生。この話は五月の話だから、彼女は数ヶ月前まで高校生だった。大学生になって間もない、まだ創られていない姿が僕の心をくすぐった。

告白は、三回目のデートですると成功しやすいと言われている。僕は三回目のデートの時、告白出来ずにバイバイしてしまった。というか、個人的に付き合う前のむず痒い時間が好きで、その時間を満喫してしまったのだ。やらかした。結果的に彼女とは、三回目のデート以降会うことは無くなってしまった。


それから一年近く経っていた。でも覚えていた。さっき、アルバイト先に来たお客さんが、一年前に一目惚れした彼女だった。早朝だからボーッと突っ立っていた僕は、突如として雷に打たれるような感覚に襲われた。

「すみませーん」

顔を見なくても声だけで分かった。急に、心臓の動きがはやくなった。ゆっくり顔を上げると、やっぱり彼女だった。流石に動揺して、足し算の電卓なのに打ち間違えた。

久しぶりに見た彼女は、美人になっていた。もちろん、表の姿というのはあっただろうけど、化けていた。話し方はそのままだったし、笑い方も相変わらずドラマのワンシーンみたいにクスっと笑っていた。でも品のある服に身を包んだ彼女は、もう別人だった。

久しぶりの再開は、僕の恋が終わる瞬間だった気もする。「もしかしたら、自分よりいい人と出会って、その人のために買った服かもしれない」どうでもいい考えが何個か浮かんだ。やっぱり一つの恋が終わる瞬間は、どんな状況であれ悲しくなるものだ。それでも振り返れば、恋した瞬間から失恋の瞬間まで、この恋は綺麗だった。良い恋が出来たと思う。ありがとう。伝えられないけどそう思っている。

こんなことが起きるから人生は楽しい。
こんな物語が世界にはたくさん溢れている。
もう少しだけこの世界を歩いてみません?

(終

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